| 月刊：考研レビュー既刊分─２００４年１月 |
| ２００４年 １月号 ４週：夢は自己認識の手段 |
| ３週：コストをかけるから利益が生まれる |
| ２週：自社に合うやり方で |
| １週：行動設計を通して目標達成を |
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夢は自己認識の手段
予知夢というものがあります。眠っている間に夢で見たことが、後に
なって現実のものとなる、そんな夢のことです。実際に予知夢を経験
した人も少なくありません。筆者も経験しました。
しかし、人間に予知能力があるという主張に関しましては疑問符を
付けることになりそうです。予知夢に関するある程度理論的な説明の
一つに、ユングの心理学による説明があります。
ユングの心理学の主張するところでは、人間の意識の世界で実際に
意識される部分はわずかだそうです。実際に意識される部分の何十倍
何百倍という巨大な無意識の部分が存在するのだそうです。
そして、この巨大な無意識の部分こそが人間の行動を支配しているのだ
そうです。明瞭な意識のもとで取られる行動よりも、あまり意識され
ないままに起される行動のほうが、人間の行動を理解する上で重要だ
とも言えるようです。
睡眠中には、無意識の部分にあるものが意識される部分に流れ出す
ことがあるそうです。それが夢なのです。従って夢は、人間の無意識の
部分に何があるのかを理解する上で、重要な手がかりを与えてくれると
いう訳です。
この理論から言えますことは、ある人が見た夢はその人の無意識の
部分から流れ出したものだということです。そして、その人は自分の
無意識の部分にあるものによって、行動を支配されているのです。
ということは、この人は明瞭に意識しないままに、夢で見たことを実現
しようとして行動を起してしまう、といったことが起ってもおかしく
ありません。そして、こうしたことが実際に起り、その行動が成就され
ますと、その夢は予知夢と言われることになるでしょう。
予知夢に関しましてこのように解釈しますと、自分が無意識下で何を
望んでいるのか、何に向って行動を起そうとしているのか、といった
ことが、夢を通して掴めるのではないかと考えられます。
夢の内容の良し悪しに拘わらず、こうしたことが見えてきますと、
無意識に支配されている自分の行動をいくらかでもコントロールする
ために、どのような意識的行動を取ればよいのか、その方策を考え得る
可能性が生まれてくるのではないでしょうか。
なにしろ無意識に支配される行動ですから困難極まりないのですが、
自分の裁量や行動計画の一部を思い切って信頼できる他者に委任する
ほうがよい、といった判断も可能になるのではないかと思います。
日本の古代の最高権力者である天皇の役割は、眠って夢を見ること
だったとも言われています。万葉集などに載っている和歌において、
天皇に付く枕詞は「やすみしし」なのです。これは予知夢を前提にして
いるのだろうと考えられます。
自分以外の人々の生活や将来に関して、相応の責任を背負っている
経営者やマネジャーの方々には、自分の意識の世界や行動を自己認識
するために、このようなことを考えに入れておくことも必要なのかも
しれません。
コストをかけるから利益が生まれる
企業経営においてコストダウンは終りのない永遠の課題です。顧客の
要望に応えるため、競争に勝つため、そして自社が存続し発展する
ために継続的に取組んでいかなければなりません。
これを怠りますと、ある時突然顧客を失ったり、あるいは徐々に顧客が
減少していったりして目標とする業績成果が得られず、経営の危機が
訪れます。
コストダウンは全ての企業にとって、常時取組んでいるべき経営課題と
言えますが、コストに対する基本認識の違いにより、その取組み方や
考え方はまちまちのようです。そこで、コストをどのように考えるのが
よいか、一つの試論をお伝えしようと思います。
一番解りやすいコストの捉え方は次の数式によるものでしょう。
売上高−コスト＝利益
この数式により、コストを下げれば利益が上ることが明瞭になります。
こうした捉え方から生まれるコストダウンの考え方は、原価低減と費用
削減の限りなき追求です。一時日本の産業界を席巻していたリストラの
嵐の中での人員削減がその典型でしょう。
リストラによる人員削減により経営を立て直した企業もありましたが、
失敗した企業もありました。なぜそうなったのでしょうか。この事実は
コストダウンの考え方が一様ではなかったことを示しています。
コストダウンの考え方はコストの捉え方から生まれます。同じ数式で
解釈していても、コストの捉え方に違いが生じているのです。この数式
のみから言えることは「売上高が同じなら、コストを下げれば下げる
ほど利益が増える」ということです。
景気が低迷し売上が停滞しますと、その売上高でも利益を確保しようと
して、コスト削減に気持ちが向います。こうした経営行動はコストを
下げることにのみ注目することになります。
コストを下げることにのみ注目したコストダウンの行き着くところは
過度の人員削減でした。そしてその行動は、事故の発生、技術の喪失、
益々の売上ダウンなどを引き起こし、経営の立て直しの失敗という
結果をもたらしたのです。
この数式と合わせて、もう一つの関数を考慮したコストの解釈があり
ます。その関数とは、利益＝f(コスト）、です。即ち、コストの関数と
して利益があるということです。
数式において、コストを最小のゼロに近付けることを考えてみます。
数式の上では利益は最大値に近付いていきます。そこで現実を考えて
みることにしましょう。果たして利益は最大になるでしょうか。
企業が何らかの活動をするにはコストが必要です。コストをゼロに
近付けるということは、活動をしない状態に近付くということになり
ます。この状態では売上が上がるはずがありません。
即ち、活動をしない状態に近付くとは、売上高がゼロに近付くことを
意味しています。売上高がゼロに近付くのでしたら、当然のこととして
利益もゼロに近付くことになります。
このように、限りなきコスト削減は度が過ぎますと利益を減少させて
しまうことになるのです。即ち、コストを下げることにのみ注目した
コストダウンは、ある線を超えますと利益を増やすどころか、利益の
創出機能を失うという致命的な過ちにつながり易いのです。
こうしたことから明言できることは、利益を生むには売上高が必要で
あり、売上高を得るためには何らかのコストが必要だということです。
それを表現したのが上記の関数という訳です。
この関数は右肩下がり一辺倒ではありません。コストがある線を超え
て増加すれば、利益は減少することになりますし、コストがある線を
下回って減少しても、利益が減少することになるでしょう。
このようにコストを捉えますと、適正コストの下限線と上限線の存在が
感じられます。この下限線を下回るコストダウンや上限線を超える
コスト増大は回避しなければいけないのです。
こうしたコストの捉え方から生まれるコストダウン思想こそが、真の
コストダウン、効果的なコストダウンに結び付くものと思われます。
しかし、下限線や上限線を把握することは極めて困難な課題です。
コスト構造、業種業態、市場構造などによってバリエーションが無限に
あると考えられるからです。
こうした困難さは有っても、このようなコストの捉え方に基づいて、
コストを構成する一つ一つの要素の利益創出貢献度を検討することは
可能であろうと思われます。
このような検討結果があれば、削ってはいけないコスト要素と削っても
よいコスト要素に分類することができます。さらに、利益創出貢献度の
低いコスト要素の行動内容をどのように変えれば、貢献度を上げる
ことができるかを考えることもできます。
こうしたことを追究した上で、コストダウン活動の対象を決めて実行
することができれば、利益創出機能を阻害しないコストダウンが可能に
なるのではないでしょうか。
コストダウンの実践に当っては、上記の数式のみに依存するのでは
なく、「コストをかけるから利益が生まれる」ことを示す上記の関数の
考え方も取り入れて頂くことが肝要ではないかと思う次第です。
自社に合うやり方で
うまくやっている他人の真似をしてもうまくいかない、業績を上げて
いる他社を真似してみてもうまくいかない、といったことは多々ある
ことです。
うまくいかない原因は、それぞれが持っている特性の違いにあります。
筋肉構造が違う、習慣が違う、ものの考え方の基盤が違う、社員意識が
違う、価値観が違う、組織の統率の仕方が違う、といったことです。
こうした多くの事実が語っていることは「自分に合うやり方でやりな
さい」「自社に合うやり方でやりなさい」ということに他なりません。
しかし、決して真似を否定している訳ではありません。
真似をしようと思う相手の会社の特性を徹底的に研究し、自社の特性を
変えてしまうことができるのなら、そうした真似の仕方が自社に合う
やり方だと言うことができます。
解りやすいスポーツの幾つかの事例で考えてみます。先ずは、オリン
ピック女子マラソン代表を勝ち取った野口みずき選手の例です。テレビ
報道でも言われているように、野口選手の走法はストライド走法です。
この走法は専門家の間では、マラソン向きではないと言われているよう
です。多くの選手がピッチ走法を採用する中で、彼女は自分の特性に
合った力強いストライド走法にこだわったのです。
ハーフの女王と言われるように、これがハーフマラソンでは成功をもた
らしました。そして、自分に合ったやり方で努力を続けた彼女はパリの
世界陸上で銀メダルを獲得し、オリンピック代表を手にしたのです。
野球の世界ではイチロー選手がいます。彼は新人時代にジュニア・
オールスターに出場し、２本のホームランを打って大活躍をしました。
しかし、一軍の公式戦には顔を見せません。
何故だろうと思っているうちに、ある情報が流れてきました。彼の
打法は振り子打法と呼ばれる変則的な打撃フォームでした。当時の一軍
監督が、この打撃フォームを直さない限り一軍には上げないと言って
いるという噂です。
どうやら噂は本当だったようで、彼が一軍登録して大活躍をするのは
監督の代った３年目からでした。彼は自分に合った打法を二軍で徹底
して磨き上げていたのでした。これが大リーガーichiroの原点です。
もう一つ上げておきましょう。ジャイアンツの元エースの斉藤雅樹
投手です。彼は若い頃オーバースローで投げていたそうです。その頃は
なかなか成績も上がらずに苦しんでいたようです。
ジャイアンツに藤田監督が就任した時、同氏は斉藤投手のピッチングを
見て、彼の身体の構造がサイドスローに向いていることを喝破したと
言われています。横から投げるようになった同投手の活躍は、多くの
人たちが知っている通りです。
これに類したことは企業経営の分野でも多くの事実を数えることが
できます。例えば、トヨタ生産システムを導入しようとしてうまくでき
なかった企業、うまく機能するのに１０年余りを要した企業、短期間で
うまく機能した企業、といったようなことです。
うまくできなかった企業は、自社の特性がそれに合っていないことに
気づきますが、特性を変える訳にはいかなかったのです。長期間を
要した企業は、自社の特性をそれに合うように作り変えるのに、時間が
必要だったのです。
直ぐに機能させることができた企業はそのやり方が自社の特性に合って
いたと言うことができます。
世の中には色々な経営手法が溢れています。その中には自社に合った
ものもあれば、全く合わないものもあるでしょう。世間一般の評判等に
右往左往しないで、野口選手、イチロー選手、斉藤投手のように、
自社に合った方法を見極め、努力してこれを磨きあげることが、会社を
元気にして業績を上げることにつながるものと確信する次第です。
行動設計を通して目標達成を
行動設計という言葉にはどんな意味が含まれているのでしょうか。
計画というよく似た言葉がありますが、どこがどのように違うので
しょうか。
計画という言葉の使われ方を詳しく調べていきますと、この言葉で表現
される内容は多岐にわたると同時に、レベルにも大きな差があることが
わかります。
アウトプットを明示し、その期限を決めるだけでも、計画と呼ばれる
こともあります。アウトプットを明示するに止まらず、そのアウト
プットを出す過程でやるべきことを事細かに記述し、一つ一つの項目の
実行時期と期限まで明記したものも計画と呼ばれます。
こういった様々な事実から考えますと、アウトプットすべきことと、
その期限を目標として明示されていれば、これを計画と呼ぶことが
できるようです。
では行動設計とは何でしょうか。文字通りに解釈しますと、行動を
設計し、これをある形に表現したものと言えるでしょう。即ち、ある
目標を達成するためには、どのように行動したらよいかを具体的に明示
したものが行動設計です。
ラフな計画しかない場合には、目標を達成するための行動は当事者の
頭の中にしかありません。従いまして、どのような方法で何を何時実行
するのかは、客観的に第三者が知ることはできません。
また、目標達成に向って進んでいる状況は、期限が来る迄判りません。
なにしろ、目標とするアウトプットと期限だけしか明示されていないの
ですから、目標に向けて着実に進んでいるかどうかを、途中段階で確認
することは困難なのです。
一方、行動設計が存在する場合には、目標を達成するために必要な
行動が、実行の方法と時期を含めて明示されていますから、誰が何時
何をどのような方法で実行するのかを、誰もが客観的に知ることが
できます。
また、ある時点でどの行動が完了し、どの行動が継続中で、どの行動が
未着手であるかも、明確にすることができますから、目標に向っている
状況を途中段階で確認することができます。
行動設計の効用は、途中段階で環境や状況が変化した時に現れます。
こうした時には、変化に対応して行動の内容や構成を変更しなければ
なりません。
何を止めて何を追加するか、それぞれの行動の実行方法や時期をどの
ように変更するか、といったことを検討し、行動設計の変更を実施する
のです。
こうしたことは、行動設計が存在してこそ可能なのです。ラフな計画
しかない場合には、これまでの状況とこれからの予定を明示したものが
何もありませんから、変化に翻弄されることになります。
こうしたことから見えますことは、「目標を達成したいと心から思う
なら、行動設計をせよ」ということです。
工場でのモノづくりに例えるならば、ラフな計画とは構想図のような
ものです。構想図だけではモノをつくることはできません。モノを
つくろうとするならば、製作用の部品図が必要になります。
行動設計とは、工場でのモノづくりにおける製作用部品図の集合の
ようなものです。思い描いたものを現物にするために必要なものが
製作用部品図なら、思い描いた目標を達成するために必要なものが
行動設計なのです。
多くの人が年初に何らかの目標を設定します。そこでもう一歩踏み
込みたいと思います。目標を達成するために「今年は必ず行動設計を
して取組もう」と決意し、これを堅持していきたいと思います。
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