| 月刊：考研レビュー既刊分─２００４年２月 |
| ２００４年 ２月号 ４週：アリの集団ＩＱの高さに学ぶ |
| ３週：活動の新しい在り方の追究 |
| ２週：活動の成功の鍵／ファシリテーター |
| １週：変化への適応は学習する組織で |
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アリの集団ＩＱの高さに学ぶ
アリという昆虫は誰でも知っている身近な存在ですが、そのアリが
かなりＩＱの高い行動を取ることはあまり知られていないようです。
一つの例を挙げてみましょう。
ある目標物の存在にアリの集団が気付いたとします。それは甘いもの
（例えば砂糖など）だとします。何らかの気付きを得るきっかけ
（例えば風にのってきた匂いなど）もあったとします。
このような状況下でアリの集団は、目標物の獲得のために多くのアリを
放ちます。個々のアリはそれぞれに自分の道を探りながら目標物を
目指して進んでいきます。
こうした行動をアリが採る時、アリは自分の通った道に何らかの痕跡を
残していくのだそうです。多くのアリが目標物に到達し、能力に合った
量だけを持ち、痕跡を辿っていま来た道を戻っていきます。
ここまではＩＱの低い一匹のアリの行動と理解することができます。
この行動を何回も繰り返すのでしたら、アリの行動はＩＱが高いとは
言えませんが、実際のアリの集団はそのような行動を採らないのです。
目標物を持ったアリたちは自分たちの根城へ帰ってきます。早く
帰ってくるアリもいれば、かなり遅くなってから帰ってくるアリも
います。注目されるのは早く帰ってきたアリです。
一番早く帰ってきたアリが再び目標物を採りにいく時、居合わせた
アリたちは一番アリに続くのです。そして後から戻ってきたアリたちも
一番アリのルートを辿ることになるのです。
このアリの集団が行ったことは最適解の探究だと言えます。一番アリの
切り開いたルートが目標物を最も効率的に手に入れるための最適解だと
言う訳です。
最適解の探究という行動には高いＩＱが必要とされます。一匹一匹の
アリのＩＱは低いものですが、そのアリが集団として行動する時、この
ような高いＩＱを必要とする行動を取ることができるのです。
こうした自然界の生き物の行動は実に感動的であり、私たちに多くの
ことを教えてくれます。人間社会における個人と組織にも、このような
ことが起っているのではないでしょうか。
即ち、強い組織、生産性の高い組織、創造的な行動が取れる組織は、
個人のＩＱや能力レベルを超える組織ＩＱや組織能力を持っていると
解釈することができるのではないでしょうか。
このような考え方をしますと、私たちが組織を作って何らかの目標を
達成する活動を行う時、効果的かつ効率的に活動を進めるためには、
個人のＩＱや能力を超える組織ＩＱや組織能力を引き出すことに力を
注ぐことが極めて重要であることが分ります。
それは組織運営の問題であり、組織の構成メンバーの問題でもあり、
組織内外のコミュニケーションの問題でもあります。もう一度アリの
集団の例に戻って考えてみます。
遅く帰ってきたアリは誰かから責められる、といったことはないよう
です。そうだからこそ、全てのアリが一番に帰ってきたアリのルートを
辿って、全力を尽くして目標物の運搬に努めることができるのです。
私たちの組織に置き換えてみますと、遅く帰ってきた者は何らかの形で
責められるケースが多いのではないでしょうか。こうして責められた
者たちは意欲を削がれ、一番ルート開拓者に続くことに全力を尽くす
ことができなくなってしまいます。
そうなりますと、組織能力を最大限に発揮することは困難になります。
個々のＩＱが或程度以上に高いために起ってしまう現象だと言えます。
個々のＩＱの高さが組織の能力を高める上での阻害要因となるという
背反の理が働いているのです。
生産性の高い組織を作る上で重要なことは、このような背反の理が
働かないように知恵と工夫を動員して、効果的かつ効率的な運営方法を
見い出し、これを実践することだと言えます。
競争の原理が働く環境では、遅く帰ってきた者が責められるのは仕方が
ないという考え方もあるでしょう。しかし、最短ルートを発見する場面
では、アリたちも競争をしているのです。
競争しているからこそ最短ルートの発見が可能になるのです。最適解に
対する本能的認識があるからこそ最短ルートの価値が認められ、全ての
アリがそのルートを使うことに従うのです。
アリの集団は競争の原理と協働の効用とを本能的に使い分けているよう
にも見えます。自然の摂理の何と見事なことでしょうか。私たち人間は
自然の力が生み出すものをもっと学ぶ必要があるようです。
組織運営が壁に突き当たった時、問題が発生した時、むやみに人為に
たより力ずくで何かをしようとするよりも、自然の摂理が示すところは
どういうことなのかに思いを巡らし、そこから何かを学び取り、それに
従って解決方法を探ることが必要とされているようにも感じます。
アリの集団の行動をじっくりと味わいながら振り返ってみましょう。
そこから汲み上げられるヒントや知恵や発想は、必ずや組織運営や
経営改善に有効なものをもたらしてくれるものと思います。
活動の新しい在り方の追究
企業内における活動の成功の鍵として、ファシリテーターのことを
先週号に書きました。本号ではまた別の視点から、活動を成功に導く
要因について見ていこうと思います。
ＱＣサークル活動は、日本の産業界における企業内活動の成功例の
典型と言えます。これを基盤としたＴＱＣ活動が１９８０年代の日本の
製造業の隆盛をもたらしました。
各職場ごとに組織されたＱＣサークルが、自分たちの仕事上の課題を
見い出し、問題解決に取組んだのです。サークルメンバーたちは単に
労役を提供し、その対価である賃金を受け取る労働者の域を超え、経営
課題に取組んできたと言うことができます。
彼らの取組みは、自分たちの職場で発生する不具合や不良を低減し、
コスト削減を実現し、仕事の生産性を高めました。職場ごとの取組みは
方針管理という手法により、トップの経営方針の展開として実行され、
企業内活動としての統合を維持していました。
しかし、１９９０年代に入ってバブル経済が弾けますと、このＱＣ
サークル活動が低迷するようになりました。多くの企業で活動が休止
されたり、活動の効用が疑問視され始めたのです。
良い成果発表をするためにやり易いテーマに取組んでしまうので価値
あるテーマが職場から上がってこない、自分たちの職場のメリットしか
追究しないので全体的メリットを生み出すことができなくなっている、
活動がマンネリ化している、といったことがその理由だったようです。
しかし、そこにはより重大な背景がありました。それは次の通りです。
・職場単位の活動に必要な仲間意識が薄れてしまった。その理由は成果
主義の取り込みにより年功賃金制度が崩れ、競争意識が強くなった
ことにもある。
・社員の会社への貢献意識が薄れ、通常業務以外の活動に熱が入らなく
なってしまった。その理由は、終身雇用制度が崩れ、将来に対して
社員が不安を感じるようになったことにもある。
・職場単位の課題解決では、経営課題の解決や業績向上への貢献が
困難になった。その理由は、経営課題の解決が、業務の流れの最上流
から最下流まで一気通貫で見通し、職場の枠を取り払って問題解決を
図ることが求められる状況に至ったことである。
こうした状況の中で、日本的経営の否定、グローバル経営への転換が
叫ばれ、ＱＣサークル活動は衰退の一途を辿ったのでした。しかし、今
再びＱＣの知識と素養の必要性が見直されてきています。
重要な業務課題の解決が適切になされないことが多くなってきており、
その原因が、中堅社員や若手社員の知識と素養の不足にあることが
見えてきたからです。
そして、その知識や素養が、ＱＣサークル活動の中で１人１人が身に
付けた知識や手法や問題解決に対する考え方であり、それが仕事を
適切に進める上で欠かせないことが解ってきたからです。
今や在来産業の１０年選手の社員でも、こうした知識と素養を持って
いる人は少ないのです。ましてや新興産業においては言うまでもない
ことです。
こうした状況の中で品質管理の講習会や研修会が行われるようになり
ましたが、ＱＣサークル活動を復活させたり、新たに取り入れたりする
動きは少ないようです。
上記の理由から、昔と同じＱＣサークル活動ではダメだということを
感じ取っているからでしょう。しかし、そういった企業でも何らかの
活動を実施したいと考えていることは間違いありません。
既に色々な模索が始まっています。その一つの成功例は、トップ方針に
基づいて部門横断的な「活動推進委員会」を組織し、この委員会で経営
課題の重要テーマを設定し、各テーマごとにやはり部門横断的な「プロ
ジェクトチーム」を編成し、委員会とプロジェクトチームが有機的に
絡み合って活動を進めるやり方です。
こうしたやり方では、委員やプロジェクトメンバーは通常業務と活動の
業務の両方を担うことになりますから、組織としての業務管理とともに
個人としての業務管理が重要になってきます。委員やメンバーに新たに
業務管理、時間管理の知識と素養を身に付ける教育も必要になります。
このように活動を成功させるためには、経営環境、業務環境、雇用
環境などを配慮に入れ、これに応じた活動の在り方を常に追究している
必要があるのです。
こうした追究から生まれる適切な形の活動が、活動を成功に導くと
ともに、社員をそして会社を元気にすることになるのです。
活動の成功の鍵／ファシリテーター
グループ活動やプロジェクト推進活動が多くの企業で行われています。
ＱＣサークル活動、生産性向上運動、業務改革運動、情報システム構築
プロジェクト推進活動、開発プロジェクト推進活動、といったものです。
活動推進の基本的な流れは次のようなものでしょう。
・活動の企画・起案
・活動準備会の組織化
・活動の基本計画の立案
・活動の推進委員会の組織化
・活動テーマの決定とプロジェクトチームの編成
・キックオフミーティング
・プロジェクト推進計画作り
・プロジェクトチームによる実行
・推進委員会によるチーム活動と全体のレビュー
・目標達成を睨んだ推進計画の修正と実行
・活動の終了と成果の振り返り
・次ステップの活動の企画
このような形態で進められる活動にも、成功例がある一方、失敗例も
数多くあります。成功と失敗を分ける要因は色々とありますが、重要な
要因の一つは、活動推進の主役の人たちの役割の在り方です。
一般に、こうした活動を行うに当っては、活動目的に結び付いた
「活動の中身」と、活動をうまく進めるための「活動の在り方」とを
適切に管理することが求められます。
活動の中身とは、チームやグループが目的を果たすためにメンバーが
意見を出し合い、議論し、意思決定を行う対象となる事柄そのものの
ことです。
活動の在り方とは、活動を円滑に進める上で必要とされる、メンバーの
協働の在り方、コミュニケーションの在り方、意思決定の在り方、
それぞれの場面におけるメンバーの参画の在り方、といったことです。
活動の中身を管理する役割を担うのがリーダーであり、活動の在り方を
管理する役割を担うのがファシリテーターという訳です。
リーダーはチームやグループを引張っていく人であり、チームや
グループの出した結論に対して責任をもつことになります。従いまして、
リーダーは常に活動の中身を意識してチームを運営することになります。
ファシリテーターは、チームやグループの活動が円滑に進むように
サポートするのが役割ですから、メンバーが成果を上げる方向で議論
したり、協働作業をしたりできるように誘導することになります。
ファシリテーターはメンバーの一員ではありますが、他のメンバーとは
一線を隔した立場を合わせ持ち、チームやグループにおける議論や
作業を客観的に把握し、目的に相応しい活動の在り方を求めて行動する
ことになります。
議論が熱気を帯びてきますと、メンバーが感情的になることがあります。
感情が先に立ってしまいますと、議論が空回りしたり、対立が解けずに
座礁してしまうこともあります。
また、チーム内の雰囲気が停滞したりしますと、とにかく結論をだそう
として、安易な議論や安直な思考が横行するようなことも起ります。
こうした状況を克服し、議論や作業を好ましい状態に導くためのファシ
リテーターの存在は、活動を成功させる上で極めて重要な意味を持って
いると言うことができます。
ファシリテーターの役割をリーダーが兼任することも少なくないよう
ですが、リーダーとファシリテーターの任務の重さを考慮しますと、
それぞれ別の人を任命したほうが良いようです。
ファシリテーターは活動全体に対して１人いればよいという訳では
ありません。各プロジェクトチームごとに１人いることが望ましいと
言えます。小さなチームの場合には、ファシリテーター的に物事を見る
人がいればよいでしょう。
リーダーだけがいて、ファシリテーター役を担う人がいない活動では、
メンバーに余計な負担がかかることになったり、協働作業が効果的に
行われなかったりして、望ましい成果をあげることができなかった例も
少なくありません。
従来、リーダーの必要性は強く意識され、その在り方は重要視されて
きましたが、ファシリテーターに関しましては殆ど意識されなかったと
言えるようです。
こうした視点から過去の活動を振り返ってみましょう。そして、ファシ
リテーターの存在意義を捉え直してみましょう。今後の活動の成功の
ために意義あるものを掴むことができると思います。
変化への適応は学習する組織で
変化の中で生きるためには、個人が変ることが必要であると同時に、
チームや組織も変らなければなりません。個人にしろ、チームや組織に
しろ、変るということは学習し成長することなのです。
個人やチームや組織が学習し成長していく過程を理解し、これに信頼を
置くことは、周囲で起こっている変化のプロセスを受け入れることと
同じくらいに、変化に関わる上で重要なことなのです。
以上のようなことに理解が至り、信頼が置かれると、学習する組織の
基盤ができ上がります。言い換えれば、自分が変るための基盤ができる
ということになります。
学習する組織の中で行われる組織学習とは、「集団の中でメンバーが
互いに学び合うことで個人的な成長を遂げると共に、集団そのものの
機能をも高めていく」ことです。
組織学習は、他者とともに問題に立ち向かい、それを解決することで
発展していきます。その過程で、メンバーは自分自身と他のメンバーの
資質や今後の課題について学習していくことになります。
個人の学習は組織学習を支える肝心な要素です。向上心に欠ける者は、
組織の機能や力を高めるために貢献することができないからです。
組織学習が生まれるのは、集団内で次の様な認識が高まった場合です。
・メンバー１人ひとりの独自の貢献を集団に活かす必要がある。
・集団が一つの単位として決断を下し、行動を起こす必要がある。
・危機が生じる前に、変革の必要性を見抜く必要がある。
激しく変化する環境の中で個人が、また集団が生き抜いていくために
組織学習は大きな力を与えてくれるものです。このような環境の下で、
最近の経営を語る際によく使われる言葉があります。
協業とかナレッジ・マネジメント（知識経営）とかいう言葉です。
これらの経営概念に現実の実践的な形を与えるものの一つが、学習する
組織だと言うことができます。
学習する組織の中で一人ひとりのメンバーは、他者から学び、他者と
ともに学び、そして他者と力を合わせることを学ぶのです。こうして
組織自体も個人とともに、学習し成長して変化に関わっていくのです。
人材育成と課題解決を兼ねた手法として注目されている「アクション
ラーニング」も、組織学習の実践的形態の一つと受け止めることが
できます。
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