| 月刊：考研レビュー既刊分─２００４年６月 |
| ２００４年 ６月号 ４週：存続し発展する組織に必須のもの |
| ３週：時間を割り当てる時に何を考えるか |
| ２週：知識を思考と行動に結び付ける |
| １週：効果性を効率性の前に置く |
| 無料相談コーナー |
存続し発展する組織に必須のもの
企業が存続し発展していくために必要なものは何か。これは、企業と
いう存在が社会に根付いて以来、経営に関わる人たちに付いて回って
きた命題です。そしてこれから先もずーっと、同じことが問い掛け続け
られることでしょう。
企業経営にとって最も重要なものは何か、という問い掛けに対して、
ヒト、モノ、カネという答が一般解のようです。最近はこれに加えて、
“情報”が挙げられるようです。さらに、知識、技術を挙げる場合も
ありますが、知識は情報の分類に、技術はモノの分類に入るようです。
ヒト、モノ、カネ、情報が揃っていれば企業経営は安泰でしょうか。
そうではないことが経営学者の研究で明らかにされたのは、そう新しい
ことではありません。
テレビ放送開始以後のアメリカの映画産業の衰退を例に取って、企業
経営に最も重要なものは、ヒト、モノ、カネ、情報を、何に対してどの
ように使うかを明示した“戦略”であることが明らかにされたのです。
優秀な人材が活かされるのも、最先端の設備や技術が活かされるのも、
豊富な資金が有効に使われるのも、蓄積された知識や入手される最新の
情報が活かされるのも、それらの要素が使われる領域や使い方次第、
即ち戦略次第である、という訳です。
そして、その考え方はまさに的を得ていたのでしょう。その後飛躍的に
成長した著名企業の多くは、戦略に基づいた経営を実践してきた企業で
あったと言えるようです。
ところが、２０世紀最後の２０年間を経て、新しい考え方が力を得て
きました。この２０年の間には、日本の産業界の隆盛とアメリカの
産業界の凋落があり、それに続いて日本の産業界の衰退とアメリカの
産業界の復活と繁栄がありました。
この新しい考え方は次の一文に凝縮されています。
一つの製品が如何に革新的であとうと、一人のリーダーが如何に
創造的かつビジョンに満ちていようと、生産性が高く常に進歩を
しようとする意欲を持つ組織の力のほうが、企業が長く存続する
ことに貢献できるのである。
この考え方は、どのような組織を作るか、どのような人たちで組織を
構成するか、が重要であると主張しています。このような風土と体質を
持つ組織があってこそ、人が育ち、技術や業務生産性の向上が実現し、
利益も上がり、有効な情報も入手できる、ということのようです。
そして、そこには当然のこととして優れた戦略も生まれることになる
という訳です。この考え方にピッタリの実例として、今や世界中に
普及しつつあるトヨタ生産システムが頭に浮かんできます。
上記の一文に強く意識されていることは、存続と発展です。単に企業
経営にとって重要というのではなく、企業が長く存続するという具体的
な表現をしています。そして、そのために最も力になるのが「生産性が
高く常に進歩をしようとする意欲を持つ組織」というのです。
こうした特性を持つ組織の人々は何を、どういうことを思考と行動の
規範としているのでしょうか。それを考えてみました。それは恐らく
次の二つであろうと思われます。
１）自分たちが情熱を込めて顧客に提供できるもの（こと）は何か
２）自分たちの提供するもの（こと）の何に、何処に顧客は価値を
認めてくれているのか
世間一般では次のように言われています。成功しようと思うなら売れる
ものを売れと。一見正しいように思えますが、それは錯覚でしょう。
何もしないで売れるものなど世間に存在する訳がありません。
売れているのは、誰かが一生懸命売っているからです。一生懸命売れる
仕組みを作っているからです。一生懸命やれるのは、それに情熱を注ぐ
意欲が湧いているからです。
他所の店でよく売れている商品をそのまま自分の店に並べてみても、
お客様にその商品をお勧めする熱意を社員や店員が持っていない場合、
一時的には売れてもすぐ売れなくなってしまうものです。
売れているのは、商品の持つ何かに対して、商品を売る人たちの何かに
対してお客様が価値を認めてくれているからです。そういうものがある
からこそお客様はこちらに顔を向けてくれるのです。
これはよいものだと自分たちが思い込み、情熱を込めてお客様にお勧め
すれば、一時は売れるかもしれません。しかしお客様が価値を認める
ものが何も無いのでしたらすぐに売れなくなってしまいます。
長く存続する企業の組織では、こうしたことが組織の風土や体質として
定着し、無意識的に社員の行動規範として作用しているものと考えられ
るのです。
基本に帰ってよくよく考えてみますと、上記の２項目は商売や事業の
原点なのです。だからこそ、この２項目は存続と発展する組織にとって
必須のものだと言えるのです。戦略を検討する前に、先ずこの２項目に
ついてしっかりと考えをまとめることをお勧めします。
時間を割り当てる時に何を考えるか
殆どのビジネスマンは多くの仕事を抱えていることでしょう。そして
その仕事の数や量が自分の持ち時間を越えている、と感じている人が
大部分ではないでしょうか。
こうした状態に置かれた時に頭を悩ませていることは、どの仕事に優先
的に時間を割り当てようか、その仕事にどれだけの時間を割こうか、
その仕事にどのような方法で取組もうか、といったことです。
このようなことに対する意思決定は、どのような判断基準に基づいて
行われているのでしょうか。残念ながら、これを明確に意識して意思
決定している人は少ないようです。
一般的に言われていることは、重要度と緊急度との組合せで検討する
方法です。当然のことですが、重要度１位で緊急度も１位の仕事に
まっ先に時間が割り当てられることになります。重要度最下位で緊急度
最下位の仕事は、恐らく着手されずに消滅するのでしょう。
時間を割り当てられた仕事にどれだけの時間を割くか、どの方法で
取組むかに関しましては、不足勝手な時間を有効に使うという意識が
先に立ちますから、できるだけ少ない時間で済ませられそうな方法を
選択し、それに合わせて時間を当てることが多いのではないかと思われ
ます。
以上に述べましたような考え方は一般的であり、使いやすい方法だと
思いますが、これまでに遭遇しました種々の具体的なケースから考えて
みますと、あまり適切でないように思えるのです。
このような方法で時間を割り当てて仕事を進めた結果、狙った成果が
得られずに別の方法でやり直しとなったり、究極の目的に向う道筋から
遠ざかることが判ったりして、時間の浪費に終ってしまうことが結構
多いように感じられるからです。
こうした時間の浪費を防ぐためには、別の側面からこの課題に対処
する必要があります。本誌２０１号で、効果性と効率性についてお話を
しましたが、この考え方を取り入れることも必要のようです。
そしてもう一つの取り入れるべき考え方は、自分あるいは自分の組織が
究極の目的とするものに合致している度合い、即ち「合目的性」では
ないかと思われます。
合目的性、効果性、効率性という３つの角度から「どの仕事に優先的に
時間を割り当てるか」「その仕事にどのような方法で取組むか」「その
仕事にどれだけの時間を割くか」を考え、意思決定するのです。
究極の目的に近付こうとすれば、合目的性の高い仕事を優先しなければ
なりません。狙う成果を高い確率で得るためには、効果性の高い行動
項目を選択する必要があります。
そして、より早く目的に近付こうとすれば、より早く狙う成果を獲得
しようとすれば、効率性の高い方法を編み出す工夫が求められます。
自分の、自分の組織の仕事に時間を割り当てる時、こうしたことを
真剣に考え、適切な仕事の優先、適切な行動項目の選択、そしてさらに
生産性の高い方法の工夫、といったことの実践を励行したいと思って
いる次第です。
知識を思考と行動に結び付ける
私たちが知識を獲得する上で役に立つ源は豊富にあります。出版物、
放送、インターネット、教育研修、講演会、交流会、知人友人との対話
など、まだ他にも色々とあるでしょう。
このように、私たちがその気になれば欲しい知識の殆どは獲得できると
言えるようです。そして実際に、私たちはこうした源から必要な知識を
獲得しています。
会議や討論の場で何らかの問題が浮かび上がってきた時、その問題に
ついて豊富な知識を披露するような人がいます。そしてそれは、普段の
その人の考え方や行動からは想像もできないことだったりします。
世の中には豊富な知識を持っている人が如何に多いか、ということの
ようです。そしてその知識が、知識の所有者の思考と行動とは全く別物
として存在している場合が如何に多いか、ということのようです。
知識がその所有者の思考と行動と無縁に存在していることは、見方に
よっては悲劇であり、無駄であり、滑稽でもあります。そういった知識
所有者は、考え、行動する人間というよりも、知識の土蔵といった姿を
曝け出しているからです。
こうした人たちが輝ける時代も過去にはありました。知識の獲得源が
現代のように豊富でなかった時代です。物知りとして、聴けば何でも
分る人として、彼らの勉学の成果や学歴がものを言った時代です。
そんな時代には、彼らにとって知識は獲得し保有するものであり、それ
以上のものではなかったと言えます。ところが現代は違うのです。獲得
した知識は、唯それだけでは力にならないのです。
現代にあっては、知識は活用されなければ力にならないし無意味なの
です。技術知識を基に考え、考えた結論に基づいて行動し、その結果を
事業成果に結び付けることが求められています。
経営学の知識に基づいて考え、その思考に基づいて行動して経営改善を
実現し、業績の向上に結び付けることが求められているのです。この
ような要求に応えるためには、人材育成の考え方の変革が必要です。
これまでの多くの教育や研修のプログラムは、講義・講話・講演で
知識を学ばせるものが大勢を占めていました。まさに、知識を獲得して
もらうためのプログラムです。
学校教育のプログラムはそれでよかったのでしょうが、企業人に対する
教育や研修はそれでは物足りないことが分ってきました。企業経営や
業務の現場では、知識を持っているだけでは成果を生まないのです。
業務上の思考と行動に、保有する有効な知識を結び付けることによって
初めて成果を生むための突破口が見えてきます。だから今の世を生きる
企業は、知識を持つだけではなく、知識を思考と行動に結び付ける
ことができる人材を育てる必要があるのです。
保有する知識を思考と行動に結び付けるために必要なことが三つあり
ます。それは次の三つです。
１）獲得した知識を活かす体験ができる教育プログラム
２）知識を仕事に活かそうという想い、心構え、意欲、熱意などの醸成
３）知識を活かせる場、環境、体制、仕組み、風土、体質の整備
１）は教育プログラムに関わることです。２）は個々人に関わること
です。３）は組織に関わることです。この三つが揃って初めて、獲得
した知識を思考と行動に結び付けることが可能になり、知識が経営や
業務の成果を生むことになるのだと思います。
１）が欠けている場合、学んだ人たちは知識を獲得はしたものの、どの
ような場面でどのように知識を活用するのか見当がつきません。２）が
欠けている場合、学んだ人たちは知識を活用しようとは思いません。
３）が欠けている場合、学んだ人たちは自分の知識を組織の中での
活動に活かすことができないことを察知し、組織を去っていくことに
なります。
企業が外国に派遣してＭＢＡを取得させた社員が、数年経って辞めて
いったという話が、以前によくありました。これは３）が欠けている
場合の典型的な例でしょう。
知識を思考と行動に結び付けることは極めて重要なことですが、
これを個人の資質、姿勢や考え方だけに依存するようでは、実現は困難
だと言えるでしょう。
こうしたことに対しましては、組織の仕組みや風土や体質の面からも、
人材育成のプログラムの面からも、適切な取組みを行うことが不可欠で
あろうと思う次第です。
効果性を効率性の前に置く
「もっと生産性の高い仕事の仕方をしよう」というかけ声のもとに、
追究されてきたのが、業務の効率化です。その具体的行動は、無駄な
作業の排除、より短い時間での作業を可能にする方法の工夫、作業の
間にあるロスタイムを極小化する計画手法の工夫、作業時間を短縮
できる装置や機器の導入、といったことです。
このやり方による成果が大きかったのは、工場の作業、アウトプットが
明示されている事務作業や技術的業務などでした。そしてこの手法を
企業内の業務の全てに活用しようとしたのが、生産性向上運動や一部の
ＴＱＣ活動でした。
ところが、生産性向上運動やＴＱＣ活動がうまく機能しなかった例が
数多く報告される結果となったのです。営業部門や研究開発部門がその
代表例ですが、他にもあります。今回は何故こういうことになったのか
について考えてみたいと思います。
業務効率化の活動が成果をもたらしたと言われる対象業務の共通性を
追究していきますと、次のようなことに行き着くようです。
・インプットに対するアウトプットが１００％であることが保証されて
いる業務
・業務に従事している者が何をするのかを、目に見えるように表現する
ことができる業務
・作業時間や手間をあるレベル以上の精度で把握できる業務
工場に入ってくる殆どの仕事は、それに対応して１００％のアウト
プットを出すことができます。ルーティンワークになっている事務作業
や技術的業務も、入ってくる仕事に対して１００％のアウトプットを
出すことができます。
そして、このような仕事は業務分解をして作業時間や手間を把握する
ことができますし、業務分解の結果を作業計画表として表現すれば、
業務の従事者が何をするのかが、目に見えるようになります。
そこで営業の仕事を考えてみましょう。営業に入ってくる仕事とは
案件です。これを受注して初めて売上高や利益に結び付く仕事になるの
です。そして受注できる可能性は１００％にはならないのです。
営業の仕事は、１００％のインプットに対して３０％とか６０％という
ような確率でしかアウトプットを出すことができないのです。この点が
先ほどの成果事例の仕事と違うところです。
では研究開発の仕事はどうでしょうか。これもまた試行錯誤の多い仕事
です。成功の可能性が高いと判断した作業を業務計画に盛り込むことに
なりますが、その判断の通りにいく可能性は１００％にはなりません。
研究開発の仕事も１００％のインプットに対して１００％に届かない
アウトプットしか出すことができないと言えます。これもまた先ほどの
成果事例の仕事とは違う特性を持っている訳です。こうした類の仕事は
他にも色々とあるでしょう。
こうした仕事に対して業務効率化の一般的な手法を適用しますと、
どのようなことが起るでしょうか。あれもこれもトライしてみようと
考えて挙げてきた行動項目や実験は、無駄の排除の対象となってしまい
ます。
顧客への説明や提出資料は、効率化の旗の下に最少限に絞られてしまい
ます。そして結局は何かが不足することになり、受注の失敗という
結果に至ったりします。
実験項目も最少限に絞られ、いくつかの実験に基づいて開発の方向性が
決まります。そしてその方向で進めた開発が失敗に終るといったことも
少なくないようです。
こうしたことがなぜ起るのかと言いますと、営業や研究開発のような
仕事において優先されるべきものは、効果性であって効率性ではない
からです。
即ち、効率的に進めることを考える前に、成功に結び付くことが期待
できる効果的な進め方を追究する必要があるのです。上記のような話は
効率性の追究しか見えなくなり、効果性こそが大切であることを忘れた
結果だと言うことができます。
効果性とはアウトプットを１００％により近付けることです。即ち、
営業では受注の比率を高めること、研究開発ではその成功率を高める
こと、ということになります。
即ち、営業マンが一見無駄だと思われる顧客訪問や資料提出を、顧客の
要求を超えて実行することもあり得るのです。研究者が他者の目には
余計に見える実験をしなければならないこともあり得るのです。
こうした類の仕事において効果性を追究することは、結果として効率の
向上をもたらすことになります。受注比率の低い営業活動や成功率の
低い研究開発は、受注や開発の失敗に使った時間やエネルギーが多く、
その分だけ効率を低下させていることになるからです。
効率性を考える前に、必ず効果性に考えを巡らすこと。これが仕事を
適切に進める上で重要であることを肝に銘じていきたいと思います。
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