| 月刊：考研レビュー既刊分─２００４年７月 |
| ２００４年 ７月号 ４週：その場に居る喜び |
| ３週：はづみ車をまわし続ける |
| ２週：想いへのコミットメント |
| １週：減収増益について考える |
| 無料相談コーナー |
その場に居る喜び
ビジネスの世界には色々なミーティングや会議があります。企業内の
もの、企業間のもの、業界の集まり、産学官の集まり、何の制約もない
オープンなもの、など様々です。
公式なもの、非公式なもの、制度で規定しているもの、自然発生的な
もの、という分類の仕方もあります。また、出席者が指定されている
もの、誰でも自由に参加できるもの、といった区別もできます。
ここでは企業内のミーティングや会議を取り上げてみます。こうした
ミーティングや会議が企業内で行われる時、その狙いもまた色々です。
意思決定、問題の解決、情報の交流と共有化、コミュニケーション、
教育・学習、といったようなことです。
こうした多種多様なミーティングや会議の中でも、活発な発言を呼び
起すもの、権威者だけが喋っていてその他のメンバーは聴くだけと
いったもの、出席者が喜んで集まってくるもの、仕方なく嫌々ながらの
出席者が多いもの、など色々です。
そもそもミーティングや会議は、上記のような狙いを実現するために
開催されている筈です。そういうことであれば、全てのミーティングや
会議は、その狙いの実現に相応しいレベルで活性化されていなければ
なりません。
必要な者が必要とされる議論をし、意思決定の方向を明らかにしたり、
問題の核心に迫ったり、相互に有用な情報を獲得し合ったり、相手の
考え方を理解したり、能力を高めたり、といったことを追究することが
求められることになります。
こうしたことが適切に実践されるミーティングや会議にするために、
どうしても欠かせないものは、出席者の前向きの姿勢です。出席者が
自発的かつ意欲的に集まってくるようでないと、ミーティングや会議は
活性化されたものにはなりません。
ミーティングや会議の主旨に自由な発言を奨励するようなことを謳い、
そんな発言を促すような運営が、活性化のために色々と工夫されている
ようですが、なかなかうまくいかないことが多いようです。
どうしてうまくいかないのでしょうか。殆どの人たちがミーティングや
会議の活性化の必要性を理解していながら、そのように行動できない
のは何故でしょうか。その理由を考えてみます。
義務で参加するにしろ、希望して参加するにしろ、ミーティングや
会議の出席者たちは、そこに意識的、無意識的に何かを求めています。
簡単に言ってしまえば、求めているものは出席するメリットです。
そのメリットとは、出席する意義であり、出席することによって得る
ことができる有用なものと言うことができるでしょう。それは具体的な
知識や情報や自己ＰＲであったり、その場に呼ばれたというステイタス
であったりします。
意識の上で把握できるメリットとはそのようなものだと言えますが、
無意識的に求めているものは、もう少し違うもののような気がします。
それは、その場に居ることによって感じることのできる喜び、といった
ものではないでしょうか。
人間の行動を支配しているのは無意識だという説があります。その説に
則って解釈しますと、理解しているのに理解とはうらはらな行動を取る
理由は、理解していることとうらはらなものが無意識下に内在している
ということになります。
意識の上で把握できる様々なメリットが有ったとしても、無意識下に
「その場に居る喜び」が無いのでしたら、その出席者はミーティングや
会議の場で活性化することは困難であろうと考えられるのです。
人々が自発的かつ意欲的に集まってくるために必要なものが、「その
場に居る喜び」だと言うことができるでしょう。その喜びの内容とは
次の４項目だと言えるのではないでしょうか。
その場には、
・参画する喜びがある
・自分の考えや主張を聴いてもらえる喜びがある
・自分の知的資産を蓄積する喜びがある
・実効的な知識、協力、アドバイスなどを手に入れる喜びがある
このような喜びを感じることができるミーティングや会議には、
人々が自発的かつ意欲的に集まり、その結果その人たちの活動は
活性化し、組織が元気づいてくることになります。
社内のミーティングや会議の運営を設計する際に、こうした喜びを
出席者に感じてもらうことにも着目してみては如何でしょうか。そんな
ところから、会社を元気にする芽が出てくることもあるのです。
はづみ車をまわし続ける
はづみ車とは、回転のエネルギーを蓄積するために、モーターや
エンジンの駆動系に取り付けられる慣性の大きな円盤です。
はづみ車の無い駆動系は運転開始後すぐに所定の速度に到達することが
できますが、大きなエネルギーを必要とする負荷が運転中に急激に
かかった場合、駆動系は急減速してしまいます。ひどい場合、急停止
することもあります。
一方、はづみ車が取り付けられている駆動系は、運転開始後に所定の
速度に達するまでに相当長い時間を要しますが、一旦所定の速度で運転
されていますと、はづみ車が僅かに減速するだけで大きなエネルギーが
供給されますので、負荷に急激な変動があっても安定した速度を維持
しながら運転を続けることができます。
企業経営においても、どうやらはづみ車が無いパターンと、これを
回し続けるパターンとがあるようです。時流に乗って急成長を遂げまし
たが、社会変化の中で業績を維持することができず、あえなく消えて
いったベンチャー企業などは、はづみ車の無いパターンでしょう。
一方、ある一つの技術に確信を持ち、なかなか成長の芽が出ないにも
拘わらず、その技術を深堀りして磨き上げ、少しずつでも弛まず前進し
続け、その世界で確固たる地位を築いた企業などは、はづみ車を回し
続けるパターンの企業と言えるでしょう。
急成長したベンチャー企業でも、着々と業績を重ねて確固たる地位を
築くところもあります。このような企業は、当初ははづみ車を持って
いなかったのでしょうが、年々の業績を重ねる過程で、自社の回すべき
はづみ車を見極め、これを回し続けてきたということになるでしょう。
急成長を遂げる企業であろうと、ゆっくりと成長する企業であろうと、
永続して確かな業績を上げ続けるためには、はづみ車が必要だと言える
ようです。即ち、企業経営にははづみ車が要るということのようです。
ビジョナリーカンパニーの著者、ジェームス・コリンズはその著書の
中で、劇的な転換はゆっくりと進む、魔法の瞬間はない、ということを
説いています。飛躍企業ははづみ車を持ち、これを弛まず回し続けて
きたというのです。
はづみ車を回し続けてある速度に達しますと、もはやその勢いは強大な
ものになります。このあたりから転換が始まり力強い飛躍が生まれて
くるという訳です。
こうした視点から見ますと、企業が飛躍するためにも、確実な急成長を
するためにも、はづみ車が必要なようです。即ち、飛躍の転換点に到る
までの間、はづみ車を弛まず回し続けて貯えたエネルギーが、飛躍の
ために、成長のために必要だと言うことができそうなのです。
私たちの身近なところにも、こうしたことに合致する事例が結構ある
ようです。メッキ技術を極めて零細メッキ業者からバイオ関連のグロー
バル企業となった会社。
自分たちが心から提供したいと思うものだけを、解ってくれる人だけに
買って頂こうという理念で努力し、町の小さな本屋から全国展開する
レベルに至った話題の本屋。
仕事が少ない中でもシリコンウェーハーの加工技術を追究し、業界でも
最高レベルの加工技術を確立して確固たる地位を築いたシリコン加工
事業者、といったような事例です。
こうした事例を調べていている過程で、共通性のある２つのことが
見えてきました。それは次の２項目です。
・それが社会に必要とされるものなら必ず日の目を見る、という信念の
もとでの辛抱と努力
・強い志の獲得と維持
或人の言葉を借りますが、志と野心とは違うそうです。志とは、自分の
代では成し遂げられないと思ってもそれを目指すものであり、次の代へ
継承されていくだけの価値があるものだそうです。
野心とは、何とか自分の代で成し遂げ、自分の功績とし、勲章としたい
と思うようなものだそうです。そして企業経営のはづみ車に載っている
ものは、野心ではなく志であろうと思われるのです。
我が社のはづみ車に載せる志とは何でしょうか。日の目を見ない間も
辛抱し、努力して回し続けることができる“社会に必要とされるもの”
とは何でしょうか。
想いへのコミットメント
研究者や研究開発技術者が自分の研究成果に対する報酬を要求して、
研究活動当時に在籍していた企業に対して訴訟を起すケースが増えて
います。
カリフォルニア大学の中村教授の例、東北大学の舛岡教授の例などが、
マスコミを賑わしてよく知られています。舛岡教授の例にあっては、
同教授が事業化の企画まで上申していたものが経営レベルで退けられた
とのことです。
一方、同教授の発明による特許の使用権は、これを保有する企業から
アメリカの企業に許諾され、この製品で先行したアメリカの同企業は
今でもトップシェアを取っているとのことです。
特許保有企業も使用権料だけではなく、後追いで事業化することにより
この製品で莫大な利益を稼ぐことになったようです。
日本の産業界の中では、このような事実は他にも数多くあるのでは
ないでしょうか。企業の経営レベルで、研究者や開発技術者の想いとか
取組んでいる内容とかが理解されないことはかなり多いと思われます。
特許保有企業の経営陣が舛岡教授の研究成果を理解でき、事業化を上申
する同教授の想いにコミットすることができていたら、同企業は先陣を
切って事業化に成功し、今はトップシェアを取っていたことでしょう。
こうしたことを踏まえて、今日本の産業界ではＭＯＴ（技術経営）が
声高に叫ばれています。技術の解る経営者と経営の解る技術者を育成
しようというのが主旨です。
この主旨のもとに適切な人材を育て、新開発技術や研究成果を事業の
成果に結び付けることを可能にしようという訳です。企業が保有する
技術をより効果的に企業の業績に結び付くようにしようという訳です。
半導体企業の日米比較をした事例によりますと、開発投資額とそれが
稼ぎ出す利益額の比率で、アメリカ企業は日本企業を２〜３倍も優って
います。日本のＭＯＴ熱はこの差を詰めようとするものとも言えます。
しかし、これに関しましては一つの問題があるうように思います。
ＭＯＴの実践が上記のような人材を多く排出したとしても、それだけ
では経営陣と研究開発者との間にある溝を埋めることは困難だと
思えるのです。
この困難を克服するためには、ＭＯＴに加えてもう一つ必要なことが
あるように思われます。それを、ある著名な経営学の先生が示される
論理に基づいて考えてみたいと思います。
その先生が使われる言葉に「事前合理性」と「事後合理性」というのが
あります。事前合理性とは、何かをしようとする時にできるだけ多くの
情報を集め、それが妥当な結果につながると予測することを言います。
事後合理性とは、何かをしようとする時に予測が困難であると考え、
とにかくやってみて、その結果が妥当であったことを言います。この
二つの言葉を使用して次のようなことが言えます。
事前合理性を徹底して何かを実行して成功した場合、その成功による
利得は余り大きなものにはなりません。なぜならば、予測がある程度
可能なものは多くの人たちが予測し、実行することになりますから、
競争者が多くなるからです。
一方、事後合理性を追求するような形で何かをする場合、失敗の確率も
低くはないですが、成功すれば大きな利得が得られます。なぜならば、
予測が困難なことをすることになりますから、これを実行する人は希少
であり、競争者が少なくなるからです。
そして、研究や技術開発についても、その成果の事業化についても、
上記と同様のことが言えます。大きな事業成果を生む研究や技術開発は
事後合理性の追求に関わっていることが多いのです。
研究者や開発技術者が、事後合理性の追求に関わっているテーマに熱中
して取組むのはなぜでしょうか。それは、そのテーマに想いがあるから
としか説明できそうもありません。現にこういったことは多いと思われ
ます。先に述べました中村教授や舛岡教授の研究テーマもこのような
ことではなかったかと思われます。
経営陣のことを考えてみましょう。経営陣は企業の存続に責任を
負っています。従いまして無謀なことや冒険をすることはできません。
しかし、同時に企業の発展を図る責任も有している訳ですから、少々の
リスクを負ってでも意思決定をしなければならないことも有ります。
リスクを負って意思決定をする場合、経営陣の行動はどうしても事前
合理性に傾きがちになるのです。経営を危うくすることを避けるために
可能な限り高い信頼度を有する予測を求める訳です。
研究者や開発技術者の想いと経営陣の意思決定との食い違いは、この
ようにして生まれると考えられます。従いまして、ＭＯＴの実践により
技術の解る経営者と経営の解る技術者を育成するだけでは、こうした
食い違いを解消することは困難だと思われます。舛岡教授の事例の
ようなことがまた何度も起こり得ると思われるのです。
この問題を克服するために必要なことは、研究者や技術者の想いに
経営陣がコミットすることだろうと思われます。これなしでは先述の
食い違いを解消することはできないと思います。
経営者の人たちには、想いへのコミットメント能力が備わっているはず
です。従来、多くの成功した経営者は働く人たちの想いにコミットして
きました。このコミットメント能力をＭＯＴの力を借りて研究者や開発
技術者の想いに向けることができれば、日本の企業は大きなメリットを
享受することが可能になるのではないかと考える次第です。
想いへのコミットメント、これは経営者が持つべき最も重要な能力の
一つと言っても過言ではないような気がしています。
減収増益について考える
最近よく耳にする言葉に「減収増益」があります。売上高は減少
したが利益額が増加したということを表す言葉です。この言葉が表す
現象を企業の行動にまで掘り下げて考えてみたいと思います。
利益額というものを考えてみます。利益率が変らないのであれば、
売上高が大きくなればなるほど利益額は大きくなります。また、
利益率が若干下っても、それを埋めて余りある売上高の増加があれば
利益額は大きくなります。こうした理由から多くの企業は売上高の
増加を狙うことになります。
ところが最近は、売上高は減少したが利益額は増加したという「減収
増益」という現象が結構あるようです。こういう場合には当然のことと
して利益率の向上が伴っています。
利益率向上の原因として考えられる第一は、人員削減による固定費の
減少です。営業活動および生産活動は従来通りに行ってきたのですが、
不況の影響で売上高が減少しました。
しかし、減少した人員で従来通りの仕事をこなしてきたのですから、
全社レベルでみますと固定費が削減された分だけ全社的コストダウンが
実現し、利益額が増大したという訳です。
この場合、一つひとつの製品についてみた場合、粗利益率は従来通りで
あることが多く見受けられます。即ち、営業活動も生産活動も従来と
変らず、あまり改善がなされていないというふうに考えられます。
利益率向上の別の要素として、営業利益率の改善が考えられます。
高めの利益率での販売や、受注時の交渉での高めの利益率確保を実現
するための営業活動改善がこれを可能にします。
営業政策として利益率の向上を打ち出し、従来の不採算顧客に対する
値上げ交渉の努力や、不採算案件には関与しないという意思決定も営業
利益率の改善に寄与することになります。
また、生産部門における製品の原価低減の努力も営業利益率改善の
成果に結び付くことになります。こうしたことによって、売上高が減少
しても利益額を増加させることに成功している訳です。
こうした営業利益率の改善の裏には、上に述べましたような営業活動の
改善や、生産性向上などに向けた努力が存在しています。
さらにもう一つ、利益率向上の要因が考えられます。戦略的視点
から行われる事業、商品、市場／顧客などに関する選択と集中です。
即ち、事業構成、商品構成、顧客構成などを見直して、利益率の低い
ものや採算が赤字のものは、営業活動や生産を縮小したり、撤退したり
することです。
それで浮いた経営資源を利益率の高い事業や商品や市場／顧客に集中
しますから、全体的に売上高が減少しても利益額が増大することが
可能になってくる訳です。
特に、採算の悪い多くの製品や注文を抱えていたがために売上高が
過剰に膨らんでいたような場合には、採算の悪いものを切ることは生産
部門の過剰負荷を解消することにもなり、クレームの激減にも繋がって
増益効果を高めることになります。
このように考えますと、同じ減収増益という言葉を使っていても、
その経営の内容は全く違うものである、と言うことができます。将来に
希望が持てる減収増益がある一方、将来が危ういのではないかと感じ
させる減収増益もあるのです。
将来に希望が持てるケースには、経営努力や業務従事者の努力による
改善が伴っていると言えるでしょう。そして更に、仕事の負荷を適正に
維持する努力により、無理や無駄によるロスが回避されていると言える
でしょう。
利益指向を徹底したので減収だが増益になった、という表面的な結果
だけに満足することなく、その裏にある経営改善の努力や業務改善の
努力の有無をしっかりと見極めたいものです。
その上で、利益指向の徹底という方針に基づく行動を、将来の希望に
つながるような方向に導いていきたいものです。
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