| 月刊：考研レビュー既刊分─２００４年８月 |
| ２００４年 ８月号 ４週：課題解決業務を上位に置く |
| ３週：予測、決断、組織づくり |
| ２週：権限は取りにいくもの |
| １週：報告・反省会のお勧め |
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課題解決業務を上位に置く
継続的に事業を運営している企業では、業務の進め方が確立している
ものです。多くの業務が定型化、標準化され、業務分掌が明確にされ、
適切な機能組織に委ねられます。
各機能組織はほぼ定型化されたやり方で、受け取ったインプットに
応じて業務を処理し、然るべきアウトプットを出すという訳です。こう
した業務の流れに効率良く対応する組織形態として確立されたのが、
官僚組織とかピラミッド型組織と言われる縦割り組織です。
業務に関わる権限は、縦割り組織の部門長に対して経営トップから委譲
されます。このようにして企業は効果的かつ効率的に事業を運営する
ことができます。
世の中が安定しており、経営環境の変化も緩やかでしたら、こうした
縦割り組織の中で解決できる問題が殆どですし、部門間にわたる問題が
発生しても、これを下部から上司へ上げ、部門長の間で交渉や協議を
積み重ねることによって解決するだけの時間的余裕もあるでしょう。
しかし、今の経営環境は違います。変化が激しいため問題の発生が多い
のです。さらにその問題も定型化された業務の範疇を超えていたり、
一つの部門では解決できなかったりするものが殆どなのです。
今の経営環境の下で発生するこうした問題に素早く対応し、適切な
答を出すことを目的として生まれたのが、プロジェクトチームとか
タスクフォースと呼ばれる部門横断型の組織です。
部門横断型の組織は、対応すべき問題の解決に相応しい人材を各部門
から選抜して編成されます。この横断組織にもリーダーが任命され、
問題解決業務を指揮することになります。
横断組織で業務に当たる人たちは、所属する部門の業務と横断組織の
問題解決業務とを兼務することになります。即ち、横断組織リーダーの
指示を受けると同時に、縦割り部門長の指示も受ける訳です。
このようなワンマン・ツーボスの体制で頻繁に発生する問題があり
ます。リーダーの指示と部門長の指示とが相容れないということです。
リーダーは担当する問題解決の視点から指示を出しますが、部門長は
部門で担当する業務を処理する視点から指示を出します。両者の指示を
同時に実行することが困難な場合に、この問題が発生します。
一般的に言えることは、企業内で組織規定や業務分掌規定によって権威
付けられているのは、縦割り組織のほうです。従いまして、部門長の
権限が強い状態にあり、結局は部門長の指示が優先されてしまうことが
多いようです。
こうした状況の下では、リーダーが自分の意思をどうしても通す必要が
ある場合には部門長にお願いに行く、といった行動を取る以外には
適切な方策が見当たらないようです。
経営上の重要課題の解決という視点からこの問題を捉えてみますと、
違った姿が見えてきます。そもそも部門横断組織を敢えて作ったのは、
どうしても全社的に解決したい経営上の重要課題に取組むためです。
重要経営課題に取組んでいる組織のリーダーの指揮権を、定型業務を
担う組織の部門長が無視するような形で別の指示を出すことは、部門
横断組織を作った主旨に反することになります。
予想するのが困難であったり、予想できてもついていくのが困難で
あったりする変化が、日常茶飯事のように起る今の経営環境の下では、
固定化された組織規定や業務分掌規定を墨守するのではなく、規定の
意義を認めつつも、臨機応変な対応が必要なのです。
即ち、ここに上げたようなケースでは、部門横断組織を作った時点で
リーダーには組織規定や業務分掌規定を超える権限が発生していると
受け止めるべきであろうと思います。
いま元気な著名な企業で、こうしたことを実践しているところがある
ようです。リーダーの権限が部門長の権限より上位にあることを明示
しているとのことです。
こうした状況にありますと、リーダーからの要求を容れると自部門の
業務に支障が予想される場合でも、部門長はこれを受け入れなければ
ならないことになります。
部門長には、業務の効率化、業務生産性の向上、組織能力の向上など、
自部門の業務の支障を取り除くための施策を練り、実行することに力を
注ぐことが求められます。
こうして、縦割り組織の生産性は向上し、重要経営課題もスムーズに
解決されていくことになる、ということでしょう。その企業の現状を
みますと、まさにこういったことが起っていると想像できます。
定型業務よりも問題解決業務を上位に置く、といった考え方。
これは会社を元気にし強くする上で、極めて効果の高いものであろうと
思う次第です。
予測、決断、組織づくり
経営戦略を練ったり経営計画を作ったりする際に、よく使われる
言葉があります。「自社と市場について、現状を分析・把握し、将来を
予測し、それに基づいて自社のビジョンを描く」といったものです。
こうした考え方に則って、経営戦略や経営計画に実際に取組んだ多くの
人たちは、このフレームワークを忠実に実行して計画を作っても、その
通りの将来展開にはなりにくいことを実感しています。
だからと言って、経営戦略や経営計画が無意味ということにはなりま
せん。組織がどちらの方向を目指すか、どのような方法でどのように
行動するか、といったことを明示する、大きな意味があるのです。
しかし、世の中の変化が予測した通りにはならないので、適切な時期に
計画のレビューと修正が必要になる訳です。こうしたことになるのは、
完全な予測が不可能だからです。全ての経営計画は予測が不完全である
ことを前提に作られると言えます。
いま家庭用電気製品の市場で期待されている、薄型大画面テレビを
取り上げて考えてみます。その大きな潮流は、液晶ディスプレイと
プラズマディスプレイとにあります。
この２種類のうちどちらに軍配が上がるでしょうか。多くの技術知識と
情報を集めて予測することを考えてみます。恐らく液晶勝利説とプラ
ズマ勝利説の両方があるでしょうが、大多数の人は予測できないと
答えることになるでしょう。実際にこの勝負の予測はできないと考える
ことが妥当なようです。
液晶やプラズマの勝利予測をした人たちが、予測を打ち出すことが
できたのは、彼らの思考の中にロジカルシンキングを超える思い入れ、
コミットメント、意思決定の想いといったものが働いていたからです。
家電大手のＳ社は液晶一本槍の戦略を取っています。一方Ｆ社、Ｈ社、
Ｐ社などはプラズマに賭ける戦略を取っています。予測が完全にできる
ものであれば、こうしたことは起こり得ないはずです。
これらの各社は自社が取組むものにコミットし、これがモノになるまで
押し続けるという決断をしたのです。こうしたコミットメントや決断が
ない限り、全社を引張る経営戦略や経営計画は作れないと言えます。
このケースでほぼ確実に予測できることは、従来型のテレビは衰退の
一途をたどり、薄型大画面テレビに市場を明け渡すであろうということ
だけでしょう。
完全な予測は不可能な訳ですから、ロジカルな予測だけに依存して
将来計画を作ることはできないと見るのが妥当です。
ロジカルな予測だけで将来計画を作ろうと考えていたら、Ｓ社は液晶
テレビへの特化に踏み切れなかったでしょうし、Ｆ社、Ｈ社、Ｐ社も
プラズマテレビに賭ける行動を起すことはできなかったでしょう。
時代の流れに遅れることなく、納得できる将来計画を作るためには、
状況に応じて可能な限りの予測に努めるとともに、自社は何に、どれに
コミットできるのか、とことん押し続けることができるのかを徹底追究
した上での、大いなる決断が求められるのです。
こうして作られた将来計画でも、環境の変化の中でその通りでは通用
しなくなることが多い訳ですから、その兆候が見えた時、新しい環境の
下でも通用するように素早く計画を修正することが欠かせません。
このような素早い対応の可否を大きく左右するものが組織の特性です。
組織の体質、風土、体制、制度などがどのようなものであるかによって
組織の行動が違ってくるということです。
グローバル化した経済活動の影響の下で、過去に例のない早さで変化
する経営環境の中にあっては、精緻に将来を予測することよりも、適切
と受け止めることができる早い決断のほうが必要とされています。
そして、その決断に結果としての正当性を与えるものが、変化の兆候の
早期把握と素早い修正対応を可能にする組織の機能なのです。
不完全ながらも妥当な予測、妥当と受け止められる早い決断、素早い
修正対応を可能にする組織づくり、この３項目が未来を展望する経営に
とって重みを増してきていると言えます。
権限は取りにいくもの
事がうまく運ばず、その進め方のまずさが明らかになった時や、自分
には荷が重過ぎると感じた時に、「自分にはそこまでの権限がない」と
いう言い訳がよく使われます。
その言葉を耳にすると結構多くの人が、少々の不満を感じながらも納得
することが多いようです。どこまでの権限が与えられているかを、誰に
でも見えるように明示していないことが多いからです。
しかし、権限の委譲の内容や範囲を明示することは容易なことではあり
ません。ある種の権限に関しましては、業務分掌規定などで明示する
ことが可能ですが、困難なケースのほうが多いようです。
組織規定に明示されている部課の管理者と違って、組織横断型のプロ
ジェクトチームのリーダーの権限などは、明示するのが困難なものの
典型と言えるでしょう。
企業の活動や運営における権限とは、本来的には全てが経営トップに
あると言えます。企業の目的を果たすための組織運営において、企業
組織が効果的かつ効率的に活動できるように、経営トップの権限の
一部を割いて下部組織のリーダーや管理者に委譲する訳です。
企業内の組織のリーダーや管理者は、委譲された権限を行使するという
意味で、経営トップの分身ということになります。では、組織横断型の
プロジェクトチームのリーダーに関しましては、どのようなことが
言えるでしょうか。
プロジェクトチームとは、ある種の経営課題に関わる目標を達成する
ために編成されるものです。従いまして、そのリーダーには、目標を
達成する責任が課されます。
リーダーはチーム目標達成の責任を果たすために、活動を推進し、管理
することになりますので、そのために必要な権限がリーダーに委譲され
なければなりません。
プロジェクトチームのリーダーも、下部組織のリーダーや管理者と同じ
ように、経営トップの分身なのです。業務分掌規定などに明示されて
いなくても、責任の発生と同時に権限が委譲されていると受け止める
べきなのです。
ここで一つの問題が浮かび上がります。規定に明示されない権限を
具体化するには、何をどのようにすればよいのか、ということです。
この問題の答を見い出すためには、柔軟な考え方が必要になります。
まず、権限に関する解釈を改めなければなりません。権限とは規定と
して固定化できるようなものだけではなく、目標達成の責任を負った
者がそのために必要だと判断するもの全部だと考えるのです。
こうした考え方に立ちますと、権限の内容と範囲とは、目標を達成する
ために必要なことの実行権と受け止めることができます。その内容は、
場合によっては誤りとなるかもしれないリスクを冒すことの許諾も含む
ことになってきます。
目標達成のため必要なこととは、その責任を負って全身全霊を投入して
取組んでいるプロジェクトリーダーだけが把握できるものです。
従いまして、その推進権限は誰かに与えてもらうというのでは不充分
です。だから、リーダー自らが積極的に取りにいく必要があるのです。
更にもう一つ解釈を広げるべきことがあります。権限と言いますと、
決定権限、決済権限、実行権限などに限定して解釈することが多いよう
です。このことが「自分にはそこまでの権限はない」という言い訳を
引き出していると言えます。
「事を進める力」が権限であると解釈しますと、交渉権限、要求権限、
進言の権限、問題提起の権限などが浮かび上がってきます。この他
にも、状況に応じて多様な権限を考えることができます。
交渉をして思い通りの決済が得られれば、事は前に進みます。この時の
事を進める力とは、交渉する意志と能力です。これがあれば交渉権限を
持っている、と言えるのです。
プロジェクトリーダーを務めた若い人の次の一言が心に残っています。
自分は権限を持っているんだという意識を持つことが大切だ、という
ことがよく分りました。
先に述べましたような言い訳をする心は、こうした意識と意志を強く
持つことによって克服されていくものと思います。
権限とは事を進める力。そういう権限は責任を負ったリーダーである
自分が取りにいくもの。こうした考え方を実践することが組織に活力を
生み、前向きの人材を育てることになるものと思います。
報告・反省会のお勧め
一つの仕事が終った時、一つのプロジェクトが完了した時、きちんと
成果報告をしているでしょうか。そしてさらに、反省や振り返りをして
いるでしょうか。
報告はきちんと行っていても、特別の場合を除いて反省は行っていない
ことが多いようです。しかも報告の内容も、目標の達成状況とそこに
至るまでの経過、といったことに限られることが多いようです。
報告や反省におけるこのような現状は、経営改善や業務改善に関わる
多くの有用な機会を無為に見過ごしていると解釈することができます。
報告や反省のやり方次第で、わざわざ特別な活動を組織したりする
ことなしに、経営改善や業務改善を進めることができるのです。
仕事やプロジェクトを進める基本的な意義を再確認してみましょう。
それは次の３点にあると言うことができます。
１）その仕事やプロジェクトの目標を達成すること
２）その目標の達成が業績に貢献するという確証を掴むこと
３）その仕事やプロジェクトの推進の経験から、業務改善や経営改善に
関する提案を行うこと
仕事やプロジェクトの意義をこのように認識しますと、その当事者が
推進過程において何を考え、何をどのように行い、何を有用情報や知見
として記録すべきかが明確になります。
そして同時に、完了時の報告内容も明確になり、反省の対象とすべき
項目も明らかになってきます。こうした基本認識に基づいて、仕事や
プロジェクトのＰ−Ｄ−Ｃ−Ａを回すことが先ずは肝要なのです。
このようにして進められた仕事やプロジェクトが完了した際には、
できるだけ早い時期に成果報告と反省を実施したいものです。そのため
には、報告と反省のための場が必要になります。この場としては、
既存の会議やミーティングに適切なものがあれば、それを活用する
ことができます。
適切なものという意味は、上に述べました基本的な意義３点を明らかに
するのに相応しいということです。既存のものに適切なものが無い場合
には、会議体系などを見直して新たに適切な場を創設すべきでしょう。
この場として欠かせない要件は、報告を受けた側がその報告内容を
経営改善や業務改善に反映させ、それを実行するための仕組みを作る、
という機能を持っていることです。
反省は報告の場で合わせて行うようにしたいものです。報告会と
反省会とを別にして２回もミーティングを持つことは、時間的な効率の
上でも、ミーティングの効果の上でも好ましいとは言えません。
反省の中にこそ、経営改善や業務改善のための情報が多く含まれている
と言えます。反省の討論を進める中で、上記３）に相当する提案が
まとまってくることも少なくないのです。こういった理由から、
「報告・反省会」というスタイルをお勧めする訳です。
報告・反省会の中で取り上げる項目は概略次のようになるでしょう。
１．設定した目標に対する達成度の評価
２．目標を達成する上で役に立ったこと
作業、行動、手段、ツール、コミュニケーション、計画手法、
管理手法、など
３．目標達成に立ちはだかった障害
・克服できたもの、これを克服した方法、など
・克服できなかったもの、この克服のために今後採用したい方法、
これを発生させないための方法、など
４．目標達成の成果による業績貢献度の予測
計数上の貢献度、行動レベルに関わる貢献度（定性的、定量的）
５．経営の在り方、業務の進め方に関する改善／改革の提案
計画、作業、ツール、管理、コミュニケーション、など
６．今後の同種の仕事やプロジェクトに対する今回の経験からの助言
先ずは特定の仕事やプロジェクトに特化して、こうしたスタイルの
報告・反省会を実施してみては如何でしょうか。
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