| 月刊：考研レビュー既刊分─２００４年１０月 |
| ２００４年１０月号 ４週：評価で動く人、想いで動く人 |
| ３週：基本の徹底の偉大さ |
| ２週：成果主義の罠：お金の魔力 |
| １週：対話は発想の泉 |
| 無料相談コーナー |
評価で動く人、想いで動く人
２分法によって人を分類する際に、「エリート」と「凡人」という
分け方をすることがあります。そして、エリートが勝つか凡人が勝つか
といった論争がなされたりもします。
意外に感じることの一つに、こういった場面でエリートと凡人に関して
適切に定義されていないことが多い、ということがあります。定義を
曖昧にしたまま熱くなって論争しているのです。
これが切っ掛けとなって、エリートと凡人の定義を考えてみることに
なりました。その結果の一つとして浮かび上がってきたのが、この表題
「評価で動く人、想いで動く人」です。評価で動く人がエリート、
想いで動く人が凡人という訳です。
全てに当て嵌まる訳ではありませんが、結構多くのケースに合致して
いるように思えるのです。この定義からの結論は、凡人が勝つ、という
ことになるのですが、読者の皆さんはどう考えられるでしょうか。
斎藤茂太氏の「人から求められる人の共通点」という著書の中に、
“求められる人は、「平凡」を全うできる非凡な人”という章があり
ます。こういう人をどちらの分類にいれるかについては議論百出となる
でしょうが、ここではエリートではなく凡人として論をすすめることに
しました。
即ち、非凡＝エリートとも、非凡＝凡人とも言えないと思うのですが、
この場合は、「平凡」を全うできる、という点を取って、凡人に分類
してみた訳です。
同様の人物像は、ジム・コリンズが「ビジョナリーカンパニー２」で
描く経営者群像の中にも多々現れています。即ち、ダーウィン・スミス
やコールマン・モックラーなどを知っている日本人は少ないでしょうし
多くの人は彼等をエリートではなく凡人と見るでしょう。
一方、日本でもよく知られているアイアコッカはエリートと言えます。
しかしご存知の通り、勝者はアイアコッカではなく、ダーウィン・
スミスやコールマン・モックラーだったのです。まさに凡人が勝ったと
いうことなのです。
こうした事例は身近にも多く見られます。しばらく前に、起業支援に
関わる仕事をしていて感じたことですが、起業に踏み切ることができる
のも、起業の成功を目指して人知れず苦労を背負うことができるのも、
エリートではなく凡人だと断言できそうなのです。
一般的にエリートは他者から評価される中で生きています。学業成績
然り、大組織の中での人事考課然りです。エリートは他者から評価を
獲得する世界では勝てる、そんな考え方が当て嵌まりそうなのです。
一方、凡人は他者からの評価はあまり高くありませんから、他者の
評価を気にするよりも、自分が思うことを軸にして行動できる自由度が
高いと言えそうです。
即ち、「これでよい」とか「これがよい」とかの判断の基準は、自分の
想いにあると言えます。たまには、他者の評価も高く、自分の想いで
行動できる人もいます。こういう人は凡人を超え、エリートを超えた
超人という別分類にすべきでしょう。大変希少ですが。
このような視点から、前出のアイアコッカとダーウィン・スミスとを
比較してみますと、なるほどという感じで受け止めることができます。
こうした見方をしていて気付いたことがあります。
それは、エリートと凡人という分け方と、有能者と凡庸者という分け方
とは全く別物だということです。ダーウィン・スミスは凡庸者ではなく
間違いなく有能者なのです。
上述のような特性を持つエリートが求める勝利は、周囲の人たちから
賞賛を得ることができるような勝利です。別の言い方をすれば、痛快な
勝利とも言えるでしょうか。
しかし、世の中には痛快な勝利など殆どあり得ないのです。勝利の裏側
には必ず苦いものがあります。それは、他者からの妬みであったり、
敗者からの手厳しい糾弾であったり、敗者の無惨な姿に心を痛めること
であったり、といったことです。
こうした苦いものを腹に収め、耐えることができる者でなければ勝者に
なることはできません。常に痛快な勝利を目指すエリートは勝者には
なれないのです。
自分の想いで行動できる凡人でなければ、この苦いものを腹に収めて
耐えることはできないのです。だから、勝つのは常に凡人ということに
なるのです。
勝者になり得る人物は、評価で動く人ではなく、想いで動く人の中に
います。その中にいて、平凡を全うできる非凡な人、有能な人、という
ような類の条件を幾つか備えた人物が勝者となるのだと思います。
勝者の定義をせずに論を進めてしまいました。その定義は敢えて
読者の皆様に委ねます。異論が多いであろうと思われる内容となって
しまいましたが、読者の皆様が勝者の条件を考える切っ掛けになればと
思い、敢えて配信させて頂くことに致しました。
基本の徹底の偉大さ
目標達成活動、業務改善活動、生産性向上運動などに取組んで
いますと、先賢の残した色々な理論や手法を活用することが多々あり
ます。目標管理の手法、ＱＣ手法、プロジェクトマネジメントの手法、
ＶＥ／ＶＡの手法、といったものです。
このような理論や手法は、適用する課題の特性や場面にピッタリと嵌り
ますと、絶大な効果を発揮します。そして、如何にも解決困難に見えた
課題が見事に解決されてしまうことになります。
こうした理論や手法が広く使われたり、新しい手法が考案されたりする
のは、上記の様な実績が多く積み重ねられているからだと思われます。
しかし、これらの理論や手法を駆使してもうまく進まない例も結構多い
のです。この異なる事例の間には何らかの違いがあるはずです。
筆者の今までの経験から言えますことは、これらの理論や手法は西洋
医学的な特効薬や抗生物質のような感じなのです。患部がはっきりして
おり、投与に耐えうる基礎体力があれば、きわめて効果的なのです。
ところが、そうでない場合には形は整うのですが手法が空回りする
ばかりで、実質的な効果が上がって来ないのです。実質的な効果が出る
場合もありますがその時だけのことで、組織に定着しないのです。
このようなことを通して、筆者は組織が基礎体力を養うことの大切さを
改めて実感させられました。
基礎体力とは基本を忠実に実行する習慣が根付いていることです。
ごく基本的なことですから当然できていると受け止めがちですが、実は
そうではないことが多いのです。
基本とは一般的に、次のようなことだといえるでしょう。
・自分で考える
・言った通りに行動し、約束を守る
・自分の言動に責任を持つ
・信頼を基盤として人に接する
・まわりの人のお陰で今の自分はあると受け止める
そして、ビジネスの上での基本行動も上記の基本の組合せとつながりに
よって構成されていると言えます。
基本を忠実に実行することは、大企業だからできているとか、中小
企業だからできていないとかいうものではありません。世界的に著名な
大企業でも、ビックリするようなことが起っているようなのです。
ＩＢＭの復活を指導したルイス・ガースナー氏が「巨像も踊る」の
中で、多くの場面にちりばめるようにして書いているのは、まさに
基本を徹底することなのです。１つの例の概要を示してみましょう。
ＩＢＭは、市場の変化や将来の姿を理解していなかった訳ではなく、
かなり的確に捉えていたようです。また、何をすればよいのかも解って
いたと言われています。
だから、多くのプロジェクトを立ち上げタスク・フォースをつくる、
といったことが行われていたようです。ガースナー氏の苛立ちは次の
ように表現されています。
＜引用開始＞
わたしは、計画実行の失敗を繰り返していること、それを際限なく
許しているように思えることに苛立ち、当惑していると話した。
「実行と進捗報告を要求していない。期限を設定していない。
あるいは、設定した期限を過ぎたときに、理由を問い質していない。
ところがわれわれはタスク・フォースを作る。そしてまたタスク・
フォースを作る。実行はしない。＜あと省略＞・・・・・・」
＜引用終了＞
世界中に揺るぎない地位を築いたＩＢＭにしてこの状態だったのです。
計画には期限を設定し、これを作ったら実行し、進捗管理を行い、
遅れや不備が発生したら報告し適切に対処する、といったことは
ビジネスの基本です。
恐らく、こういった類の基本が徹底されていなかったことが、天下の
ＩＢＭの屋台骨を危うくしたのだと考えられます。ガースナー氏の著書
からは、基本の徹底こそがＩＢＭ復活の最大の力になったことを感じ
取ることができます。
もう一つ例を挙げておきましょう。ソニーの取締役会に関するマス
コミ報道で知ったことです。
日産自動車を復活させたカルロス・ゴーン氏がソニーの社外取締役に
選任されました。ある時の取締役会に出席したゴーン氏は、取締役の
議論を黙って聴いていたとのことです。
決定事項がまとめられた後、最後にゴーン氏が発言したそうです。
「それはコミットメントですか」と。
これに対してソニーの取締役は一言も無かったと言われています。
決定事項に対してゴーン氏が求めたものは、それは責任をもって必ず
達成するべきものだということを明言しよう、というものです。
天下のソニーにしてもこうしたことが起っているのです。
意思決定したことに対して責任を持つことは、ビジネスの基本です。
日産自動車復活の最大の力となったものも、ゴーン氏の言葉に象徴
される基本の徹底であったように思った次第です。
こうした事例に触れるたびに、基本の徹底の偉大さを思い知らされ
ます。日々の業務や改善活動において基本の徹底を実践し習慣付ける
ことができたら、素晴らしく大きな果実が実ることでしょう。
成果主義の罠：お金の魔力
成果主義とは、成果に応じて賃金や報酬を決めるというものです。
則ち、意欲的、精力的に一生懸命仕事をした結果としての業績成果に
対して、金銭で報いようとするものです。
こうした考え方は一見妥当な印象を与えますが、重大な事実誤認が
あると主張する意見があります。人は本来、お金ではなく、やりがい
のある仕事を求めているのだ、という主張です。
そういった特性を持つ人間に対して、お金で報いようとすることは
結局は失敗に帰するという訳です。現に成果主義に失敗してこれを廃止
した企業も少なくありません。
古いところを辿ってみますと、ハーズバーグの「衛生要因、動機付け
要因」の理論でも、金銭的報酬は不満の解消には効果的だが、意欲を
高める上では効果は小さい、という実証的結論を提示しています。
成果主義の対極にあると受け止められる日本式の年功制度では、仕事の
成果は短期的・直接的には金銭的報酬には結び付かず、「次の仕事」で
報いられることになります。まさにハーズバーグ理論の動機付け要因で
報いることによって、意欲を高めていると言うことができるようです。
成果主義に対する批判を展開している、東京大学教授の高橋伸夫氏が
解説の中で次のような心理学の実験を紹介しています。エドワード・
デシという心理学者の実験です。
大学生にパズルを解かせる実験を行い、パズル解きの間の自由時間に
被験者の大学生が何をするかを観察したものです。一部の大学生に
対しては、途中で解けたパズルの個数に応じてお金が支払われました。
すると驚いたことに、無報酬のまま実験を続けた大学生のほうが、自由
時間にパズルを解いていた時間が長かったのです。つまり、金銭的な
報酬をもらった大学生のほうは、本来面白いはずのパズルであっても、
自由時間には休憩するようになってしまったという訳です。
金銭的報酬をもらうということは、麻薬のように機能するようです。
金銭的報酬に中毒した者は、金銭的報酬をもらい続けないと仕事に耐え
られないほど、仕事が苦痛になってしまうようです。
一旦金銭的報酬に中毒した人間は、金銭的報酬でしか動かすことができ
ませんから、そういう環境下では金銭的報酬による動機付けの手法が
捨てられずにいると言うことができるのかもしれません。
無報酬の大学生たちはパズル解きが面白く、やりがいを感じていたと
言えます。仕事も本来そういった類のものであることが望ましいはず
です。人は本来お金ではなく、やりがいのある仕事を求めている、
という主張は、この実験で裏付けられているのではないでしょうか。
自社の社員たちが金銭的報酬の中毒者群になっているのか、あるいは
仕事に面白さを感じて意欲的に取り組む人間集団になっているのか、
足下から見直してみることも大切ではないかと思います。
その上で、仕事の成果に報いるための自社のやり方を、人間の心理の
根本に立ち返って考えてみるのです。必ず得るものがあると思います。
「もっとやりがいのある仕事を与えることで、これまでの仕事の成果に
報いる」という言葉、たいへん魅力的に感じられるのですが。
対話は発想の泉
人に会う機会が多い人も居れば少ない人も居ます。職種によっても
違いが出てきます。営業マンなどは人に会うことが仕事とも言えます。
一方、研究者などは人に会う機会が少ないほうでしょう。
少々粗っぽい言い方をしますと、仕事で高い成果を生む人は、どんな
仕事をしていようとも人に会うことに積極的だと言えそうです。人に
会うことは、どうやら問題解決の最有力な手段のようです。
人に会う場面は様々です。顧客訪問、来客、会議への出席、職場の
ミーティング、業務上の連絡や調整、雑談や立ち話、相談、仕事外の
勉強会やグループへの参加、遊び仲間との会合、等々です。
そして、それぞれの場面の雰囲気、やり取り、話の内容も様々です。
報告と連絡、指示命令、議論、指導の授受、対話、プレゼン、取材、
交渉、ワイガヤ、ブレーンストーミング、といったものでしょう。
問題解決に当たっては、１人で考えているよりも上に示しましたような
人に会う機会をうまく使うほうがよいことは、多くの人が感じている
ことだと思います。
しかし、この機会や場面をうまく使える人とそうでない人がいます。
うまく使える人は、それぞれの機会や場面でどのように行動したらよい
のかを、体験を通して修得していると言えるようです。
人と会う機会や場面の上手な使い方の基盤となるものの中で、最も
重要なものは自分が発言することです。読者の皆さんも議論や対話の
中で、事前には自分が思ってもいなかったような発言をして、後に
なってどうしてだろうと訝ったことがあると思います。
それは、他者の発言を受けての反論だったかもしれません。あるいは
他者の発言の足りない部分を自分が補おうとした発言かもしれません。
読者の皆さんの経験の中にも、このような自分の発言の中に問題解決の
答を見い出したことがあるのではないでしょうか。
即ち、問題解決のための答は自分が耳を傾けている誰かの発言の中に
ある訳ではないのです。他者の発言は、問題解決のための答を引き出す
契機に過ぎないのです。他者の発言を受けて発する自分の発言の中に
こそ、問題解決のための具体的行動が現れてくるのです。
問題を抱えた時、人間の意識はこれを解決する答を求めて動いて
います。それは、別の仕事をしている時や眠っている時にも動き続け
ます。潜在意識（ユングは無意識と呼んでいる）の為せる業です。
この無意識は或段階で答に到達しますが、それは意識に現れてこないの
です。無意識にあるものが意識に現れてくるにはある条件が整う必要が
あるのです。その典型例は「夢を見ている状態」だということです。
先述の思いもよらなかった自分の発言も、無意識にあるものが意識に
現れてきたことを示す現象であろうと思われます。そしてこの現象が
起るための条件の一つが、対話という環境ではないかと思われます。
対話をすれば問題解決の答が必ず見つかる訳ではありませんが、対話
によって、無意識の中に形成されているかもしれない答が意識に流れ
出る可能性は高まると考えてもよいでしょう。
このように考えますと、対話はまさに発想の泉なのです。仕事で高い
成果を生み出す人が、人に会うことに積極的だということは、彼らが
本能的に或いは体験を通して、こうしたことを体得しているからだとも
言えるようです。
・考えに行き詰まったら人に会おう
・相手の発言に呼応して自分も発言をしよう
・左脳が働く議論よりも右脳が働く対話を心掛けよう
「対話は発想の泉」の実践として、上記の３項目を心掛けた行動に
トライされることをお勧めします。
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