| 月刊：考研レビュー既刊分─２００４年１１月 |
| ２００４年１１月号 ４週：「クイックレスポンス」と「ニーズの具体化」 |
| ３週：ワントゥワン・コミュニケーション |
| ２週：努力の方向性 |
| １週：思考法を使い分ける |
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「クイックレスポンス」と「ニーズの具体化」
クイックレスポンスという言葉をよく耳にします。誉め言葉として
使われています。問い合わせや要求への対応が早い、注文に対して
短納期で応じてくれる、問題を解決するのが早い、といったことに
使われます。
クイックレスポンスは相手に喜ばれ、顧客に喜ばれ、さらに自社や
自分の評価を高めることになるのです。そしてクイックレスポンスの
能力こそ日本人や日本企業の得意技の一つだと思われます。
何年か前に、これからの製造業の在り方を或学会の機関誌が取り
上げていました。その結論は次のようなことでした。
・如何にＩＴが高度化しようとも、需要予測の精度をある程度以上に
上げることは困難であろう
・市場はこれからも短納期を求め続けるだろう
・上記のような経営環境に適応できるのは、見込みによる大量生産
ではなく、適切な生産管理による受注生産であろう
・ＩＴは、需要予測の精度を高めるために活用するよりも、受注から
納入までのリードタイムを極小化するために活用するのが得策と
なろう
そして現実に、サプライ・チェーン・マネジメントといったことが
本格的に取組まれるようになってきています。このような流れは
まさに、規模の大きいレベルでのクイックレスポンスの追求に他なり
ません。
日本市場を対象とする製品でも、生産拠点を海外に移すことが
今風のようですが、国内の生産拠点を堅持している優良企業が結構
あります。その大きな理由の一つが、中国をはじめとするアジア諸国
との競争に、クイックレスポンスを徹底して追求し、この得意技を
活かして競争力を維持するというものです。
最近の傾向では、クイックレスポンスはグローバル市場でも勝負を
分ける上で大変重要な位置にあると感じられます。グローバル化
された市場では、市場ニーズの具体化のスピードがきわめて重要だと
言えるからです。
この実現のためには、クイックレスポンスを「ニーズの具体化」に
結び付けることが求められます。そしてこの２つの結びつきは
巨大な力を生むことになります。即ち、競争相手に先行して新製品や
新事業を世に出す力を手に入れることになるからです。
いま日本の産業界の至る所で耳にする言葉に、新製品の開発、
新産業の創造といったものがあります。これを他国の産業界に
先がけて実現するために必要なものがまさに、クイックレスポンスを
「ニーズの具体化」に結び付けて得られる力なのです。
最近の新聞記事を読んでいて寂しさを感じることがあります。
ソニーに関する記事です。最近話題のデジタル家電に関するソニーの
動きです。殆どの記事に「追撃」という言葉が使われています。
もともとソニーは「追撃する側」の企業ではなかった筈です。創業
以来常に先行し、他社の「追撃の対象となる側」の企業であり続けて
きました。
こうした状況から想像できることは、ニーズを掴み具体化することに
対するクイックレスポンス能力が、ソニーの内部で衰えているのでは
ないかということです。
そういった意味では、シャープや三洋電機などの企業にはクイック
レスポンス能力の発揮を感じることができます。
クイックレスポンス能力とニーズ具体化能力は創造力に大きく関係
していますが、それだけではなく経営判断における決断力が大きく
ものを言っています。
日本企業が市場で競争に勝つために、グローバル市場で競争に勝つ
ために最も必要なものは、ニーズの具体化能力とクイックレスポンス
能力を磨き上げ、これを有効に活用することだと言えそうです。
ワントゥワン・コミュニケーション
何時頃からなのか定かではありませんが、こういった言葉を耳にする
ようになりました。人間の集団に対して、一括して対応するのではなく
１人１人にたいして個別に対応する、という意味のようです。
企業が市場の顧客に対して、リーダーがメンバーに対して、経営者が
社員に対して、といったケースが思い浮かびます。その狙いは、顧客の
ロイヤルティの獲得、メンバーとの心の通い合い、社員の意欲の向上、
といったことになるでしょう。
いずれのケースでも悪いことはなさそうですし、むしろ良い事ずくめの
ように感じられます。そしてこの考え方は人に対してばかりではなく、
モノに対しても有効に適用されているようなのです。
生産ラインで使われる言葉に「１個流し」というものがあります。
部品などのモノを数を集めたロットで管理するのではなく、１個１個を
管理の対象とするのです。スーパーなどの量販店でも「単品管理」と
いうことが行われています。生産ラインでの「１個流し」とほぼ同じ
コンセプトと言ってもよいでしょう。
この場合の狙いは、異常の発見が早い、不良品を最小限に止められる、
無駄なモノを作らずに済む、顧客に不良品を渡さずに済む、といった
ことになります。
少々こじつけの感はありますが、これも人とモノとの間のワントゥワン
・コミュニケーションと言えそうです。要は、１人１人、１つ１つに
対する個別の対応が、物事を進める上で無駄がなく効果的だということ
なのです。
ワントゥワン・コミュニケーションを実践する上で何か問題があると
すれば、それは、時間と手間を大量に必要とするということです。
「１個流し」や「単品管理」では、高度に発達した情報技術の活用で
この問題を解決しています。
一時ブームになったＣＲＭ（Customer Relationship Management）
も、ワントゥワン・コミュニケーションの考え方を基盤にしています。
これも、時間と手間の問題を高度な情報技術で解決しようとしたもの
でした。
では、リーダーとメンバー、経営者と社員、といった関係ではどうで
しょうか。最近では電子メールやイントラネットなどが有効に活用され
るようになりましたが、未だにリアルのコミュニケーションを必要と
しているのが現実のようです。
ワントゥワン・コミュニケーションの効果について、筆者が経験した
ことを２件ほど紹介します。
ある企画を推進するために、顧客候補者の反応を事前に把握しようと
いうことになりました。保有するメールアドレスの中から対象となり
そうなアドレスを選び出し、グループ化してアンケート依頼を一括送信
しましたが、回答が帰ってきたのはほんの数件でした。
これでは判断のデータとしては貧弱過ぎると考え、少々工夫を加える
ことにしました。宛先に先方の担当者の個人名を入れました。「○○
さんこんにちは」というような呼び掛けは「気持ちが悪い」と受け止め
られる傾向にあることから、本文の冒頭には「○○様」とだけ個人名を
入れました。
こうして無回答アドレスに再度送信したのです。結果は如実に現れ
ました。回答件数は前回の数倍にもなり、何とか判断材料に使えるもの
となりました。先方の担当者の受け止める意識のレベルが大幅に向上
したためと考えられます。
生産設備を設計するグループでのお話です。やや規模の大きな受注が
あり、グループを上げて取組んでいました。管理ポイントを明示した
設計計画書を作って、スケジュール管理を行いながら進めていました。
定期的にミーティングを行い、進捗度のチェックや問題の確認と解決に
取組んでいました。終盤に至って何とか期限に間に合いそうだと思った
矢先に、製造現場から緊急の要求が上がってきたのです。
ある重要部品の図面に対する訂正依頼が、もう１ヶ月も回答がないと
いうものでした。リーダーが担当者に問い質してみますと、担当者は
１ヶ月間悩んでいたというのです。詳しい話を聞いてみますと、その
担当者の能力ではやや困難な訂正内容だったことが判りました。
この１ヶ月の間にミーティングは３回も行われています。その担当者は
この件について、ミーティングでは全く口に出していません。何故だ、
とのリーダーの繰り返しの問い掛けに次のような答が返ってきました。
自分は皆が集まっているミーティングの場では、一旦引き受けた仕事に
対して「できない」とは言えない。この１ヶ月の間、何とかしようと
色々考え悩んでいた。自分から「何とかしてください」とリーダーに
申し出ることもできなかった。
リーダーは呆れる一方で、こんな性格の人間もいるのか、と驚いて
しまいました。収拾を付けなくてはなりませんので、この仕事を自分が
引き受けた上で他のメンバーの協力も得て特急対応で処理をしました。
この１件でリーダーが覚ったことは、集合ミーティングだけでは、
グループ運営が困難だということでした。これ以降このリーダーは個別
レビュー（ワントゥワン・コミュニケーション）を積極的に行うように
なったのです。
余計に時間と手間が掛ってもワントゥワン・コミュニケーションが
必要なことがあります。仕事のプロセスには様々な局面が現れますが、
その時にどのようなコミュニケーションを取るべきか、ワントゥワン・
コミュニケーションの効果性を頭に置いて適切な判断をすることが
大切であろうと思います。
努力の方向性
どんな場合でも努力をすることは良いことですし、あらゆる努力は
敬服に値するものです。しかし、努力をすれば好結果が生まれるとは
限りませんし、努力の成果が社会的評価が高いとは限らないのです。
社会規範に反するような結果は、それを生む努力の仕方が如何に素晴ら
しいものであっても、社会的に糾弾されます。一生懸命やっているのに
その努力が業績に結実しなければ、高い評価を得ることはできません。
こうしたケースは、まさに努力の無駄遣いと言ってもよいでしょう。
努力の無駄遣いの原因は、努力の方向性が良くないことにあります。
努力の方向性が良くない状態は、これを見誤っているか、事前に適切に
評価できていないことから生まれるのが一般的です。
社会規範に反することを承知していながら、あえてその方向で努力を
するようなケースは、無条件に排除しなければならないものですから、
ここでは論外とします。
努力の方向性の誤りは、ビジネスの世界で多く見られることです。
一所懸命やっているのに成績が上がらないケースの殆どはこれに相当
します。
・一所懸命顧客回りをし、訪問件数は同僚営業マンより多いのに、
成績がついてこない営業マン
・毎日遅くまで残って仕事をしているのに、仕事が捌けずに期限に
遅れることが多い人
・目標を達成しようとして、一所懸命に多くの実験に取組むのですが、
なかなか成果が出てこない研究開発技術者
といった人たちは、大方この類の誤りをおかしているようです。
こうしたケースをよく調べてみますと、次の様なことが見えてきます。
・チームを組まずに１人で仕事をしているか、チームがあってもチーム
メンバー間のコミュニケーションが希薄である
・リーダーやマネジャーが放任的姿勢であり、結果の良し悪しのみに
注目して激励や叱責をするばかりで、本来の指導ができていない
・業務を進めるための適切な仕組みとその運営方法が組織内に整備
されておらず、結果に至るプロセスが見えないため、行動の適否を
具体的に把握することができない
このような組織ではメンバーの行動は本人にしか分らず、他のメンバー
やリーダーがアドバイスすることができません。また、自分の努力の
方向性が誤っていることは本人には分るはずもありません。
こんな状態ですから、この組織には人材能力の向上も組織全体の能力の
向上も期待することはできないでしょう。
努力の方向性の適否を把握するために必要なことは、目標に向う
行動がチームメンバーとリーダーに見えるようにすることです。その
手段の一つが業務を進めるための仕組みを明示し、これを適切に運営
することです。
その中には「報・連・相」やミーティングやレビューの仕組みが盛り
込まれることになります。そしてこれを適切に運営すれば、チーム
メンバーもリーダーも１人１人の行動内容を知ることができます。
ミーティングでは出席者の意見やアドバイスもあります。他メンバーの
報告内容から本人が行動改善に気付くこともあります。レビューや
「報・連・相」の場でリーダーの指導も可能になります。
こうして努力の方向性の誤りは是正されますと、１人１人の行動が
業績につながる度合いが増してくるようになります。そして、こうした
チーム全体の行動とリーダーの行動が１人１人の能力を高め、チーム
全体の能力を高めることになるのです。
組織を預かるリーダーの皆様には「努力の方向性の誤りを是正する」
という意識を持って頂き、適切な仕組みづくりと運営に努力して頂き、
人材を育て、チーム力の向上に努めて頂きたいと思います。
人間誰しも努力する素質を持っています。また、誤りを納得して是正
する素質も持っています。個人の、そして組織全体の能力を向上させる
ための鍵は、リーダーの仕組みづくりと運営にあるのです。
思考法を使い分ける
ビジネスの世界で強く求められる思考法といえばロジカルシンキング
でしょう。ロジカルシンキングとは論理的に物事を考え、論理的に説明
できる行動を引き出すための思考法です。
ロジカルシンキングでは「何故そうなのか」「それにはどういう意味が
あるのか」といったことを明確にすることを通して、問題解決の方策を
探ります。
そして、ロジカルシンキングの深さと早さを向上させるために、思考の
枠組み（フレームワーク）が考案されます。そういった状況の下で、
殆どのロジカルシンキングはフレームワークを使って行われています。
経営戦略立案の手法、マーケティングの手法などはフレームワークに
よって構成されている好例です。こうしたフレームワークの存在が、
多くの人たちがロジカルシンキングを学ぶことを容易にしています。
しかし、ロジカルシンキングも万能ではありません。先ずはフレーム
ワークの考案を考えてみます。フレームワークはロジカルシンキング
からは生まれてきません。そこには創造的な別の思考が働いています。
また、ロジカルシンキングを学習した人たちの感想として、「考え方が
固くなってしまった」「自由なアイデアが出にくくなった」「理由を
明確に説明できないが妥当性に疑念を感じることがある」、といった
ものがあります。
これらの事実から見えることは、ロジカルシンキングという思考法は
強力な武器であり、ビジネスの思考に欠くことはできないが、それだけ
で全てをカバーすることはできないということです。
人間は主として経験、勘（直感）、論理（ロジック）などに基づいて
判断し行動しています。そうした観点から見ればロジカルシンキングが
万能でないのは当然のことです。
大切なことは、ロジカルシンキングとそれに対置する思考法（ここでは
クリエイティブシンキングと呼ぶ）とを、対象や場面に応じて使い
分けることなのです。その使い分けのポイントを幾つか紹介します。
ロジカルシンキングの大きな特徴の一つは「分析」です。多くの情報
やデータを集めて分析を行い、何をするのが妥当か、どちらの方向に
進むべきか、といったことを判断しようとします。
ところが、より正確により精緻にと考えるあまり、分析が自己目的化
してしまい、判断できなくなってしまったり、万人が行き着くような
平凡な判断に陥ったりします。
判断という行為には論理的でない部分がかなり含まれます。決断という
言葉を使う場合にそれが顕著です。決断の際には、ロジカルシンキング
と拮抗してクリエイティブシンキングが働くと考えるのが妥当です。
適切な判断に向けて、ロジカルシンキングによる分析とクリエイティブ
シンキングによる決断を、うまく協働させることが必要だと言えるよう
です。
ロジカルシンキングは事実を重視します。従って思考の展開は事実に
基づいて行われることが多い訳です。発生している問題の適切な解決
方法を探る上で、問題の発生を取り巻く事実に基づいて考えることは
とても重要なことです。
一方、将来に向って夢やビジョンを描き、それを実現するための道筋を
考えるといった課題があります。こうした課題の実現施策に取組む場合
ロジカルシンキングの枠内で考えますと、「ダメだ」「無理だ」という
結論ばかりで、未来へ踏み出す思考にならなかったりします。
こうした課題に取組む際の初期の段階では、過去から現在までの事実を
重視しがちなロジカルシンキングよりも、クリエイティブシンキングを
活用するほうが得策のようです。
新製品や新事業開発、新規プロジェクトの立ち上げなどをテーマに
ブレーンストーミング的なミーティングが持たれることがあります。
こういった席では、想像や希望に基づく発言が多く出てきます。
このような発言に対して、「何故そう考えるのですか」「それをやる
ことはどういう意味があるのですか「そんなことがやれる根拠は
何処にあるのですか」といったロジカルシンキング的な突っ込みを
入れたらどうなるでしょうか。
恐らくミーティングにあふれていた熱い雰囲気はトーンダウンし、全く
ブレーンストーミング的でなくなってしまうでしょう。創造的な発言が
求められている場が、「うかつなことは言えないぞ」「どんな言い訳を
したらよいかな」といった沈滞思考の場になってしまうでしょう。
こうした場には、思いつきをどんどん発言できるような、拡散的な
雰囲気が必要なのです。この場面で要求されるのは、クリエイティブ
シンキングなのです。
しかし、こうした場でも最後にまとめを行うに当たっては、拡散して
いるものを何らかの結論に収束させる必要があります。この段階に
入ってから必要となるのがロジカルシンキングなのです。
幾つかの例に沿って思考法の使い分けについて考えてみました。
この他にも思考法を使い分けるのが得策と思われる場面は多々あるで
しょう。場面に応じた「思考法の使い分け」を是非考えてみて下さい。
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