| 月刊：考研レビュー既刊分─２００７年３月 |
| ２００７年 ３月号 ４週：改善／改革意識と風土を生む標準化 |
| ３週：器の大きな人が組織の活性化に必要 |
| ２週：定性的なイメージづくりを大切に |
| １週：経営改善活動を担う人材の要件 |
| 無料相談コーナー |
改善／改革意識と風土を生む標準化
標準化という考え方と手法は、品質向上や業務の効率化が取り上げ
られる際には必ず顔を出すものです。製品や作業を標準化することに
よって、不良率の低下、クレームの防止、リードタイムの短縮などを
追究しようという訳です。
何種類もの形や仕様の中から、これが良いと判断されたものを標準品と
したり、何種類ものやり方の中から最も良いと判断された方法を標準
作業としたりする訳ですから、標準化には品質や作業成果を一定レベル
以上に保証する力があることに間違いはないでしょう。
ところが、標準化は誤って受け止められている面もあります。標準で
決められたもの以外は使ってはいけない、標準で決められた方法以外は
認めない、といった類のものです。
標準化され、決められていることは変えてはいけない、という考え方
です。もっと良い設計が可能なことが判明しても、もっと良い方法が
あると思われても、標準を変えてはいけないとの思い込みです。
こうした思い込みから生まれるのは、標準化は自由な発想や気概を型に
嵌め込み、創造力を殺し、改善や改革の阻害要因になっている、という
考え方です。
こうした受け止め方は明らかに誤解です。標準化こそが変革の意識と
風土の源となるのです。標準化された製品やプロセスがあるからこそ、
改善や改革の必要性に気付くことができるのです。今回はこうしたこと
についてお話を進めていきます。
先ずは、現場で実際にあったお話を２つほど挙げてみます。
・Ａ工場では、ムダ取りの推進のために指導員を招いて活動を始め
ました。活動がある程度進んだ段階で、活動推進管理者は指導員から
通告を受けました。メンバーのレベルがこの活動を推進できるまでに
至っていない、まずはメンバーの改善意識と改善に対する風土を
育てるような作業の仕組みと体制を作る必要があると。
・Ｂ社は標準化を改善活動の中心に置いています。活動推進の管理者は
自社の標準化にある程度の自信を持っていました。この路線に沿って
更に標準化を進めていけば、改善の成果は上がると思っていました。
ところが、あるコンサルタントの意見を聴いてみたところ、このまま
では活動は停滞していくだろうとのことでした。その理由は、製品の
標準化にばかり意識が向いていて、業務プロセスの標準化には誰も
意識を向けていない、このままでは改善の意識と風土が養われず、
改善活動は停滞するだろう、というものでした。
この２つのお話に共通しているものは、改善の意識と風土を作る
必要があるということです。１つ目のお話では、作業の仕組みと体制を
作ることと表現されています。２つ目のお話では、業務プロセスの
標準化に意識を向けることと表現されています。
この２つのお話の結論は、作業の標準化を進め、作業標準を徹底的に
守らせることに決着します。この決着は、改善に必要な創造力や発想を
殺してしまうもののように見えますが、そうではありません。
作業標準を決め、これを徹底的に守らせると何が起るでしょうか。
いくら緻密にかつ網羅的に作られた作業標準でも完全なものはありま
せん。今の世の中では変化が常態化していますので、完全に近いと
思われた作業標準でもカバーできないものが出現したりします。
こうした状況下で起ることの一つは、この作業標準ではうまく仕事が
運べない現実が見えてくることです。またもう一つは、作業標準を
徹底的に守ることを通して違和感が顕在化し、もっと別のやり方を工夫
したほうがよいのではないかという想いが湧き上がってくることです。
このようなことが起りますと、関係している人たちには、もっと
効果的で効率的な方法に変えることが必要だとの想いが強くなります。
即ち、改善意識が生まれるのです。
このようにして生まれた改善意識が、関係者全体のものとなっていき
ますと、常に改善を指向する組織風土が養われることになります。
こうしたことが基盤になってこそ、成果の出る改善活動が可能になり、
その中で、作業標準や製品の標準が改められたり、より効用の高い
新しい標準が制定されたりもします。
Ａ工場にもＢ社にも、こういったことが求められていたのです。
改善の意識と組織風土は、作業標準を定め、これを徹底的に守らせる
という簡潔明瞭な活動の中で醸成されるのです。これが通用するのは
製造現場だけではありません。ホワイトカラー職場にも当てはまるもの
だと言えます。
広く知られているトヨタウェイは、こうした活動の積み重ねを通して
確立されてきたのです。この実績が、このような活動の効用を現実的に
証明していると思います。
器の大きな人が組織の活性化に必要
組織を活性化するためには異質の人材を受け入れることだ、とはよく
言われることです。その考え方は妥当だと言えます。暗黙の諒解の
もとに事を運ぶことができる同質の人間ばかりで成り立っている組織に
異質の人間が加わりますと、暗黙では事を運べなくなります。
事の運び方を説明しなければならない局面が発生し、その説明のために
行動項目や規範を明確にしなければならなくなります。明確化の作業の
中で、うまく説明できないことが出てくることもあります。異質の人間
から「何故そうするのですか」という質問が出ることもあります。
こうした状況の下で、これまで何も感じずに考えたり行動したりして
いたことに対して、疑問が発生したり検討の契機が生まれたりします。
これが改善や向上に取り組む切っ掛けとなったりして、組織は活性化
するという訳です。
このような教科書的なプロセスですんなりいくようであれば好ましい
のですが、現実はなかなかそうはいかないようです。人間は理性だけ
ではなく感情も持ち合わせているからです。善悪の判断だけではなく、
好き嫌いの判断もあるからです。次のような話はよくあることです。
組織運営者が、業務最適ではなく、自分快適の人事を行うのです。
即ち、考えの合わない人、嫌いなタイプの人を閑職に追いやり、人事
評価で低い点を付けるようなことを行う訳です。こうしたやり方で、
組織に入ってきた異質の人材を追い出そうとするのです。
今まで通りに事を運んでいるほうが自分たちは快適ですし、同じような
思考パターンを持つ人間の中に居るほうが楽だからです。こうして
改善や向上の芽は摘まれ、組織の停滞は続きます。こうしたことは、
合理性から生まれているのではないので、合理的な解決は困難です。
解決のための一つの方法は、不利を被った側が実力を付けることに
専念することです。それも、少ない仕事を活用するとか、自分で組織の
ためになる仕事を作り出す、といったやり方を通してです。
反組織的な言動はかえって自己の立場を悪くすることが多いものです。
組織のために良いという視点から、仕事のやり方や自分が作り出す
仕事を追究しながら実力を養うのです。
しかし、冷遇されている人間にとって、そのような前向きの気持ちを
高めることはたいへん難しいことだと言わざるを得ません。それでも
強い意志をもって、その方向に進まなければ問題は解決しないのです。
組織内で復活するにしろ、配置転換を希望して新しい道を歩むにしろ、
自分の抱える問題が解決されるのは実力あってのことだからです。
こういう時にこそ、明るい言動と堂々たる姿勢が周囲に大きな影響を
与えます。
本来、こういったことは起らないようにしなければいけないのです。
全社からすればこうしたことは、有能な人材の能力を殺すことになり
ます。能力を活かせば可能なことも不可能になってしまいます。
全社にしてみれば大損害と言わざるを得ませんが、最高権力者のトップ
でも解決できないことが多いようです。強権発動による解決は何処かに
歪みを発生させ、更に大きな弊害を生むことが多いからです。
解決のための方法としてもう一つの有効な方法があります。日頃から
組織運営者をしっかり教育して相応しい識見を身に付けさせ、人間に
対しての器量を大きく育てておくことです。教育によって性格を変える
ことはできませんが、器を大きくすることは可能です。
器量の大きな人間は、異質の人材を容れる能力が高く、対立を抱えて
いる両者の能力をうまく活かすような行動や、対立者たちの間を上手に
つなぐコミュニケーションを取る力を持っていますから、前述しました
人材追い出しのような話は起りにくくなります。
ある資料に役員や部門長の条件として次のようなことが書いてあり
ましたので紹介します。
・役員に着くことで、その人の本性が現れる。それゆえ、
役員が身に付けておかなければならないのが“品性”である
・役員がこれまでに経験してきたことだけでは、新しい明日は創造
できない。真の発展は自己否定からと言われるように、役員はまず
自己否定をし、社内外の新しい意見に耳を傾けることだ
器量の大きさとは、こうしたことに当てはまる識見と心構えを
持っている、ということだろうと感じた次第です。
定性的なイメージづくりを大切に
好業績を維持し続ける企業に共通するものとは何だろうか、といった
ことに想いを巡らしていますと、色々なことが浮かんできます。経営者
に関すること、社員に関すること、経営戦略や経営管理に関すること、
組織風土や企業文化に関すること、等々です。
その中の一つに、各構成組織や各個人が明確な目標を持ち、それを達成
しようと活動している、というのがあります。このことがいかに重要で
あるかは、この裏返しを考えてみれば明らかです。
目標が明確でなく、何となく活動している組織や個人の集まりに堕して
いる企業が、好業績を維持することは困難なことは誰にでも解ります。
では、明確な目標を持って活動していれば、好業績につながるかと
言えば、必ずしもそうではないようです。
明確な目標を持って活動するという言葉で表現されることは、全て同じ
ではありません。目標の性格、目標が設定されるプロセス、目標達成に
むけて策定される活動計画や活動計画の作り方、活動の進め方と活動の
舵取りの仕方、活動成果に対する評価の仕方、などに違いがあるから
です。
ここでは、目標の性格と、目標が設定されるプロセスを取り上げて
みようと思います。その他の項目については、別途に機会を設けて
考えてみることにします。
目標がどのような性格のものであるかは、社員の中に生まれる達成
意欲に大きく影響します。例えば、上意下達で売上目標の数値を打ち
出したとします。
社員がこの目標数値を見て、どのようにすればこの目標を達成できる
のかを理解し、そのための行動を思い浮かべることができれば、社員の
意欲は高まるでしょう。
しかしそうでない場合には、何をすればよいのかを社員は理解できない
ため、目標に向かって効果的な活動を見出せず、社員も構成組織も
右往左往するばかりで、意欲は萎えていくばかりでしょう。
では、目標数値を上意下達ではなく、下部の組織の検討内容を集約
したものとして打ち出した場合にはどうなるでしょうか。社員も構成
組織も、自分たちの検討内容が反映されていることを受け止め、意欲を
高めると想像できます。
果して本当にそうなるでしょうか。残念ながらそうならないケースが
比較的多いのです。その理由は目標そのものの性格にあります。いま
ここで上げました例では、目標の性格を数値目標としました。そう、
単純な数値目標の場合、うまく意欲を高められないことが多いのです。
目標設定をボトムアップでやる場合でも、トップダウンでやる場合
でも、数値目標がよく使われます。最も解りやすい目標だからです。
しかし、数値はそれだけで存在している訳ではありません。
トップダウンで打ち出される数値にも、ボトムアップで集約される
数値にも、その数値を実現するための戦略や、組織の在り方や、具体的
行動が裏にあるのです。
問題は、戦略や、組織の在り方や、具体的行動を明らかにせずに、数値
だけを示すことにあります。数値だけを示されて「これを達成せよ」と
言われた社員や構成組織は、何をすればよいのか戸惑うのは目に見えて
います。
集約のための数値だけを求められた下部の組織は、自分たちの過去の
経験から妥当と思われる数値を割り出して提出することになります。
さらに上の業績を目指すためにどのような手を打つか、といったことに
思いを巡らすには至らないのです。
このように、トップダウン、ボトムアップいずれにせよ、数値だけが
一人歩きしてしまうようなやり方では、社員の意欲が高まることはあり
ません。せっかく目標を明確にし、これを達成すべく活動していても、
社員の意欲が高まらず、好業績を上げることができない、といった
ことが起るのです。
明確な目標を持ち、これを達成する活動を通して好業績を実現しよう
と考えるのでしたら、数値目標を検討する前に定性的な自社イメージ、
事業展開イメージを検討することが大切です。
どんな会社になりたいのか、どんな事業展開をしたいのか、そうなる
ためには現状をどのように変える必要があるのか、その変革はどの
ようにすれば可能か、といったことをしっかり検討するのです。
こうして浮かび上がった定性的イメージに基づいて、数値目標を検討
するのです。トップダウンにしろボトムアップにしろ、こうしたことを
検討して鮮明なイメージを持った後で打ち出された数値目標は、達成
行動のイメージが描きやすく、実現のための行動計画も具体性を持って
きますし、社員の意欲を高めることにも貢献することになるでしょう。
目標設定に当りましては、数値目標を検討する前に、自社の、そして
事業展開の定性的イメージを検討することを大切にしたいと思います。
経営改善活動を担う人材の要件
変化の絶えることのない社会環境、市場環境の下で企業が存続を追求
する時、事業の内容や運営方法を時代の流れに適応するように変えて
いくことが欠かせません。
それは、事業分野や市場に関する領域に限らず、人事労務や金融財務、
技術管理といった経営管理の領域にも及んでいます。すなわち、変えて
いくべき対象は経営全般にわたっているのです。
このように経営全般を変えていくことを称する言葉は、色々と浮かんで
きますが、やはり最も古典的な「経営改善」が適切なように感じます。
この言葉を使って表現しますと、「企業が存続するためには経営改善を
絶え間なく持続することが不可欠である」という風になります。
経営改善を絶え間なく持続することは、どのようにすれば可能か、
色々と想いを巡らしてみました。トップが号令をかければできるのか、
経営改善室のような組織を作ればできるのか、組織横断的な活動を立ち
上げて運営すればできるのか、色々なことが浮かんできました。
そして結論めいたものは、そのどれもが必要だということでした。
但し、それは形式的で固定的（スタティック）なものではなく、柔軟で
動的（ダイナミック）でなければならない、というものでした。
人は年を経れば、相応の年齢を加えますし、良し悪しに拘わらず相応の
経験が積み上げられます。これまでに自分が動いていた環境にも馴染み
ます。こうしたことが改善活動に与える影響は良い面もあれば悪い面も
あります。
経営改善とは、これまで経験したことのない環境に適応することを
目指して変革を進める活動ですから、新しいものを作り上げて新しい
行動を創り出すことを軸に推進すべきものです。これまでの良い面を
継承し悪い面を改める、といった内容も含まれますが、これが主軸に
なることはありません。
こうした考え方を進めていきますと、そこに見えてくるものは、
トップがスポンサーシップを持つ、柔軟でダイナミックな組織横断的
活動です。新しい人材を活動に迎え入れ易く、経験豊富な人たちの
知識も活かし易いのは、このような仕組みであろうと思われます。
柔軟でダイナミックとは、時代に合わせて、環境に合わせて、そして
状況に合わせて、適切な人材を活かすことができるということです。
このようにしない限り、旧弊を断つことは困難でしょうし、旧組織の
既得権益や権限を克服することも困難でしょう。
このような仕組みの中でも、活動の牽引役となるリーダーや、活動に
参加する人たちの力の引出し役となるファシリテーターが必要です。
むしろ柔軟でダイナミックに組織される活動であるからこそ、リーダー
やファシリテーターの存在がより重要なのだと言えそうです。
こうした思考の流れの中で行き当たったことは、経営改善活動の成否を
決めるのは、リーダー（及びファシリテーター）の能力、素養、識見、
人格、といったものだということでした。
経営改善活動を担う人材の要件として、その際に考えたことを下記に
整理して紹介します。
１．経営改善活動を担うリーダーに求められる共通の要件
１）経済、社会、産業界の動きや流れに対する高い関心と感度を
持っている
２）知識や情報を獲得しようとする意欲と行動力を持っている
３）物事に対する自分の考えをまとめ、これを具体的な言葉で表現し
伝える素質がある
４）自ら目標を定め、その達成に向けて計画的に思考し行動する
素質を持っている
５）チーム活動や組織活動の効用、そのマネジメントの重要性を理解
している
６）全体最適や問題解決指向を優先して考え、自分快適や部門都合
指向を封印できる
７）前向きな、積極的な方向で物事を考える習慣を持っている
８）人と会って話をすることに価値を見い出す素質を持っている
９）自己のリーダーシップを高めるための努力を続ける粘り強さを
持っている
２．経営改善活動を牽引する幹部および候補生に求めたい要件
１）経済、社会、産業界の動きや流れの中で、自社の在り方を考え
ようとする意欲と素質を持っている
２）戦略的思考と行動を理解し、実行する素質を持っている
３）組織トップの任務と責任を理解し、受け止める素質を持っている
４）物事を自己責任の対象として受け止める素質を持っている
３．経営改善活動を推進するマネジャーおよび候補生に求めたい要件
１）経営レベルから下りてきたテーマや課題を具体的な目標に設計
し直し、目標達成に向けた行動設計をすることに対する、理解と
実行の素質を持っている
２）預かるチームの業績が自分の業績であることを理解し、これを
基盤とした思考と行動を実行する素質を持っている
３）寄せ集めの集団を超えて、チーム力を発揮するための思考と
行動を実行する素質を持っている
存続と発展のための経営改善活動を企画、あるいは推進されている
経営者・経営幹部の皆様のご参考になれば幸いに存じます。
このページで解説されている内容の実践について、無料相談を承っております。
下記アドレスにＥメールでご相談ください。
hiro.oshima@nifty.com
現象考学研究所
有限会社 考研経営企画
〒655-0854 神戸市垂水区桃山台５－７－７
PHONE:078-755-2276 FAX:078-752-9097