| 月刊：考研レビュー既刊分─２０１０年１月 |
| ２０１０年 １月号 ４週：好奇心の向かう先 |
| ３週：不可欠なものか、必要なものか |
| ２週：生産管理の改善の方向：考房だより５1 |
| １週：must、can、will に振り分けて考える |
好奇心の向かう先
好奇心を持つことに対しては評価が別れます。良い評価とは、好奇心
こそ創造力の根源だということとか、何が起こっているかを細部に至る
まで知ろうとすることが問題解決の力になる、といったことです。
悪い評価とは、何事についても内容を知りたがって首を突っ込み、
相手が厭がるのを無視して何やかやと問いつめる、といったことです。
以上のような両論が有るにしても、社会の進歩や発展、そして個人や
組織の進歩や成長のことを考えますと、好奇心を持つことは好ましい
ことだと言うべきでしょう。
好奇心について論ずる場合、それが向けられる先に在るものが何で
あるかを考えに入れておく必要があります。大きく分けますと、その
向かう先は次の二つだと言えそうです。
・何であるか（What）ということ：何に向かう好奇心
・なぜなのか（Why ）ということ：なぜに向かう好奇心
前者は、何が起っているのかとか、誰がやったのかとか、どんなことが
議論されたのか、といったことです。後者は、なぜそれが起ったのか
とか、なぜそうなるのかとか、ある現象や事実が存在するのはなぜか、
といったことです。
幼児が何かを眼に止めるたびに、母親に「あれなあに？」と問いかける
のは前者に対する好奇心が働くからです。前に述べました悪い評価を
受ける好奇心は、概ね前者に対する好奇心であることが多いようです。
もう少し知恵の付いてきた幼児は、母親の答に対して「どうして？」
とか「なんで？」とかを繰り返して母親を辟易とさせます。これは
後者に対する好奇心の働きです。
創造的なこと、独創性のあること、特異な発想などは、「なぜに向か
う好奇心」から生まれると言われています。歴代の優れた科学上の発見
のほとんどは、「なぜそういうことが起るのだろうか」ということに
対する好奇心を持った人々によって為されています。
このような分野では、「何に向かう好奇心」は知識を増やすことには
貢献しますが、原理や法則の探究を促すことには弱いようで、単なる
物知りをつくるに留まってしまうようです。
両方の好奇心を持つことができればよいのでしょうが、それがなかなか
むずかしいようでもあります。多過ぎる知識が邪魔をすることもあるの
かもしれません。
改善活動の中では多くの問題を解決する必要があります。問題解決に
当って重要なことは、次の二つを的確に捉えることです。
・何が起っているのか
・なぜそれが起っているのか
この二つが的確に捉えられていれば、適切な解決策が生まれ、それが
実行に移され、問題は解決されて次のステップへ進むことができます。
しかし、問題が適切に解決されずに活動が滞ることもあります。
こうした活動の停滞が起るケースでよく見られることは、リーダーや
メンバーのスキルや経験が充分に身についておらず、問題を掘り下げる
ことができていないことです。
問題を掘り下げることができないのは、何が起っているのかをしっかり
と捉えに行かないからです。何が起っているのかをしっかりと捉えない
うちに、原因を、即ち、なぜそれが起っているのかを急いで考えようと
するからです。
早く原因を特定して対策を打ちたいというはやる気持が、現場、現物、
現実、現象の観察を疎かにしてしまうのでしょうが、それだけではない
ようです。「何に向かう好奇心」が弱まっているとも言えそうです。
問題解決において最も重要なことは、何が起っているのかを正しく把握
することなのです。そしてその方向への行動を促すものが、「何に向か
う好奇心」だと断言してもよいでしょう。
好奇心の向かう先は二つあります。このことを充分に理解した上で、
場面や状況を踏まえ、どちらに向かう好奇心が力になるかをよく考える
ことが、関係するメンバーの人選や動機付けに役立つと思います。
不可欠なものか、必要なものか
「不可欠なもの」と「必要なもの」とは、一般的には同じ意味に解釈
されることが多いと思います。しかし、現実を踏まえて考えてみますと
微妙なところに違いがあるように感じます。
文字面から見てみますと、次のように解釈することができそうです。
不可欠なものとは、欠けてはならないもののことです。欠けたら事や
ものが成り立たなくなるものです。
一方、必要なものとは必ず要るものです。「要る」とは人間の思いです
から、要ると思う人にとっては不可欠ですが、要るとは思わない人に
とっては不可欠ではないのです。
このように解釈しますと、不可欠なものと必要なものとは別物であると
捉えることができます。そして、こうした捉え方をしますと、何故なん
だろうと思われる現象の裏にあるものが浮かび上がってきます。
次のようなことがよく言われます。人々の生活に必要なものを一生
懸命造って売っていても儲からないのに、生活に必要でないよいような
ものを造って売っている者が莫大な儲けを上げている。
生活必需品である或種の食品や衣料と、ゲーム機や高級車との比較から
出てきたと言える一言です。そして、この一言は現実を正しく表現して
います。但し、一つのことを除いてです。
その一つのこととは、必要という言葉の使い方です。或種の食品や
衣料は生活に不可欠なものと言うべきですし、生活に必要でないような
ものは、生活に不可欠ではないものと言い換えるべきです。
生活に不可欠なものは全ての人が認識しています。不可欠ですから
製造し販売すれば必ず売れることも全ての人が知っています。ですから
多くの人がその製造や販売に手を着けることになります。その結果、
あまり儲からないということが起こるのでしょう。
ゲーム機や高級車は、生活に不可欠というものではありませんから、
必ず売れるとは断言できません。しかし、要ると思う人がいれば売れ、
いなければ売れないのです。そして、要ると思う人がいるかいないかを
知ることは容易なことではありません。
この類の商品を製造し販売する企業が儲かるのは、要ると思う人たちに
遭遇した場合です。こうした企業が儲けを上げているという現実は、
この類の商品を要ると思う人たちが大勢いるということです。
新規に事業を起こす際に言われることの一つに、「人々や社会が必要
としていることをやりなさい」というものがあります。全くその通りだ
と思います。しかし、言葉の捉え方に違いが生まれているようです。
この言葉を「人々や社会に不可欠なことをやりなさい」と捉えた場合と
「要ると思う人々や組織を相手にするようなことをやりなさい」と
捉えた場合との違いです。
説明するまでもないでしょうが、前者のように捉えますと前述の例の
必需品ばかりが頭を去来するでしょう。一方、後者のように捉えますと
ゲーム機や高級車のような発想も浮かんでくると思われます。
大切なことは、「必要」という言葉を曖昧に捉えず、不可欠なものと
必要なものとを混同することなく明確に区別して、物事を考えることだ
と思います。
こうしたスタンスで物事を考えることができて初めて、次の一言が理解
できるのだと思います。昭和のカリスマコンサルタント一倉定氏の名言
と言われているものです。
"世の中になくてもよいもの"は、高収益を期待できることを知れ。
この言葉を踏まえて、「世の中になくてもよい会社になる」ことを掲げ
ている企業もあるそうです。「世の中になくてはならぬ会社になろう」
という言葉も、もちろん存在感を保っていますが。
任天堂やポルシェの快走の理由はこんな所にあったのでしょう。
生産管理の改善の方向：考房だより５1
生産管理の概念はたいへん広い領域をカバーしています。大雑把に
思い浮かべてみますと、次のようなものが上がってきます。
＊納期や工程の管理 ＊原価管理 ＊在庫管理 ＊資材購買管理
＊生産計画 ＊設備計画 ＊要員計画 ＊品質管理 ＊生産性改善
また、生産管理の思考法はモノづくりだけに限定されている訳でもない
ようです。例えば、ソフトウェアの開発、調理場におけるシェフの行動
などにそれがうかがわれます。
このような生産管理に関して、どのような点に不満な点があり、改善が
求められるのか、自由に話し合いました。
・考えるためのキーワードとしては、ＩＣＴの活用、適切な生産計画、
適切な工程の流れ、といったものが上がってくる。
・生産計画や工程設計を考える際には２つの軸があると思う。１つは、
できるだけ正確に需要予測を行えるようにし、その上で信頼度の高い
生産計画をつくることである。もう１つは、正確な需要予測は困難と
受け止めて受注生産を基盤にし、受注後に最短で納入できる工程を
柔軟に設計できるようにすることである。
・実際には、基本は受注生産とし、これに若干の需要予測を加味する
やり方が多いのではないか。需要予測は有力な顧客から得る情報に
よって行うことになろう。
・繊維素材の染色事業専業に近かったある会社が自動車部品事業に参入
した際のやり方が、生産管理の改善を考える上で参考になるだろうと
思う。
同社は自社で練った企画をユーザーに提案する行動を採った。受注
生産を基本としていたが、提案行動によって受注を自ら仕掛けていく
ようにし、そこで得られた情報に基づいて、短納期にも応じられる
ように、部品、素材、生産ラインなどの準備をしていた。
・どの段階でどのレベルのもの（部品、素材、生産用器材など）に
オーダーを発するかが、生産管理を適切に行う上で重要なポイントに
なる。
・試験販売などを通して、何が売れそうかを探りながら生産計画を
作っていくようなものもある。消費材にはそういったものが多い。
・自分で売るものと、小売りに卸して売ってもらうものとでは、需要
予測や生産計画の立て方は全く違うものになる。小売りに卸すものに
関しては、直接取引先を越えて最終ユーザーに接触して需要情報を
収集・分析することが需要予測の確度を高め、効果的な生産計画に
結び付く。
・もう随分前のことだが、某大手アパレルメーカーでは小売りへの卸し
が圧倒的に多かった。需要予測に問題があることが判明してから、
何年もかけて直営店を増やすことに取り組み、現在では直販のほうが
圧倒的に多くなっている。これによって生産管理は効果的に行える
ようになったはずだ。
・スーパーチェーンの下請製造業は、発注元のＰＯＳデータに振り回さ
れながら生産しているのが実態だ。造り過ぎによる損失を出さない
ためには、受注生産が原則である。受注予測は困難だろうから、注文
から納入までの期間を最短にするような工程設計と生産管理の追究は
欠かせない。
・スーパーチェーンの盛衰は下請製造業の盛衰と一致する部分が多いの
ではないかと思う。スーパーチェーンでは、バイヤーが下請製造業の
生産の在り方を熟知し、これも考慮に入れて自店の営業戦略を考える
ことが重要である。下請製造業も発注元の戦略を頭に置くことにより
より効果的な生産管理が可能になるはずだ。
・現在のスーパーチェーンや飲食チェーンは自分で需要予測のリスクを
取ろうとしないケースが多い、というのが実態である。即ち、商品
提案やメニュー提案などをメーカーや納入業者に頼っているという
ことだ。
これでは人材は育たず、戦略力や経営力が落ちてくるのも当然だ。
某大手飲食チェーンの没落の原因も、こうしたことによるらしい。
小売りと納入業者は、もっと実質的な意味での相互協力、コラボ
レーションを展開するのがよいのだろう。小売りサイドは戦略力を
高めるために、納入業者はより効果的な生産管理を実現するために。
・ファッションやアパレルのメーカーには、本来の意味での生産管理が
欠落しているのではないだろうか。適当に作っているから、結局は
アウトレットモールや安売店を通して、余剰生産品を売り捌くことに
頼るしかなくなるのではないか。
以上のような談論が交わされました。こうした談論の中から見えて
きたこととして、次のような意見が重ねられました。
・商品や製品の規模がある程度以下のものは、標準化や部品共通化が
効果的な生産管理に貢献する。
・「発注は遅く、完成は速く」を可能とするような仕組みを追究し続け
るのがよい。
・効果的な生産管理に対するトヨタウェイの貢献は大きい。モノづくり
ばかりではなく、事務作業に対しても大いに有効である。
確かにそうだ。動線を短くするとか、滞留を減らすとか、手待ちを
減らすとかいうことは、事務作業で実効が出ている例もある。
・ゴールドラット博士の「着手と期間を管理する」という考え方も有効
のようだ。単純な期限管理では網に掛って来ないような問題を捉えて
解決策を打つことが可能になる。
大きな括りでまとめてみますと、次の２つの点が大切だということに
なりそうです。
・生産管理を効果的に実行しようとすれば、需要予測の信頼度を高める
ために、自社の事業戦略・営業戦略に基づく行動を通して有効情報を
掘り起し、これに基づいて計画を作ること
・生産管理の思考法は全ての業務に対して有効であろう。事務部門や
ホワイトカラー部門は、もっと生産管理の思考法と手法を取り入れる
ことの実践
以上のような議論になりました。この中から、自分にとっての生産
管理の改善や業務改善のポイントを見い出して頂ければ幸いです。
must、can、will に振り分けて考える
これまでにも思考の方法やその使い方について色々と研究し、その
いくつかを紹介してきました。人間の特性として大きなものの一つは
考えることですから、思考を追究することは人間の在り方を追究する
一つの道かもしれません。
思考とはきわめて多様なものです。同じことを考えていても、場面
次第で異なってきますし、立場によっても違ってきます。アウトプット
として何を求めているかによっても違ってきます。
あるテーマで事を運んでいる際にも、議論や協働作業の進行段階に
よって異なる思考法を使うことになったりします。その典型例が、発散
思考と収束思考でしょう。
画期的な企画を打ち出そうとしてアイデアを出し合うミーティングを
行う時には、自由な発想を引き出すことを狙って、発散思考を基盤に
据えて運営します。
しかし、発散思考に終始していたのでは、議論をまとめて結論を出す
ことができませんので、アイデアと発想が出尽くしたと判断される時点
で収束思考に切り換える、といったことが行われます。
収束思考では、論点の整理、各案のメリット・デメリットの明示、実現
可能性の分析、実行体制の検討などが対象になります。こうした制約を
全て取り払った状態で、自由な発想・発言を追求してきた発散思考の
段階から大きく転換する訳です。
事実から出発して演繹的に結論を導き出そうとする論理的思考と、
まず結論を想定し、その想定が妥当か否かを見極めるために情報を収集
・分析しながら検証作業を行う仮説・検証思考も、対をなす思考法だと
言えそうです。
実際に起こっている具体的な問題を解決しなければならない時には、
論理的思考が力を発揮します。一方、将来ビジョンをその実現策と
合わせて打ち出すような場合には、仮説・検証思考が有効です。
ビジョンを探ろうとする際に、現状から出発する論理的思考を使って
スタートしますと、夢が描けず人々に希望を与えるようなビジョンが
浮かび上がって来ないまま、陳腐な結論に落ち着いてしまうことが多い
からです。
この他にも色々な思考の方法や使い方がありますが、今回ここで紹介
しますのは、「must、can、will 振り分け思考」とでも呼んだらよい
ような思考の方法です。
ある事を実現しようとして議論が進む中で対立する案が生まれ、その
メリットとデメリットを話し合っても、それを主張する両者が共に譲れ
ない状態に陥ることがあります。
こうした状況の中で決定案をまとめることは困難です。無理にまとめ
ようとしますと摩擦が起こり、全員の意識を統合して事に当ることが
できない状態に陥ることが懸念されます。
こうした際には、それぞれの案の内容を具体的レベルで細分化すること
から始めます。次いで、細分化された実行項目を対立する両案から切り
離し、must、can、will の３分類に割り当てていきます。
mustとは、「どうしてもしなければならないこと」です。
can とは、「できること」です。そして、
willとは、「本来こうしたいこと」です。
実行項目をこうした枠組に分類して評価していきますと、本来の在り
たい姿、今は何ができるか、絶対にこれだけは必要だ、といったことが
全員に認識され、思考の目線が揃ってきます。
思考の目線が揃えば議論が噛み合うようになり、実行可能な統一案が
生まれる可能性が高くなります。この思考の中で重要なことは、本来の
在りたい姿を睨みながら考えるところにあると言えるでしょう。
対立する案の主張者たちが互いに譲らない、といった事態が発生した
際に、この「３分類に振り分ける思考法」を活用してみてください。
このページで解説されている内容の実践について、無料相談を承っております。
下記アドレスにＥメールでご相談ください。
hiro.oshima@nifty.com
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