| 月刊：考研レビュー既刊分─２０１０年２月 |
| ２０１０年 ２月号 ４週：因果関係を正しく捉える |
| ３週：ピンチはチャンス、という言葉 |
| ２週：開発マネジメントの在り方：考房だより５２ |
| １週：時間の縛りからの解放 |
因果関係を正しく捉える
Ａという要素が原因となってＢという要素が生まれる時、ＡとＢとの
間に因果関係があると言います。Ａが因でありＢが果という訳です。
多くの現象は因果関係によって解釈されます。
因果関係に似ていますが異なるものとして、相関関係と呼ばれるものが
あります。相関関係として受け止められるものの中には、因果関係に
あるものも含まれますが、同時に起こっていることは確認されていても
因と果の関係が掴めないものや、因果関係にはないけれども同時に
起こっているものなどもあります。
私たちが問題を解決しようとして調査をする時、解決策の手掛かりと
するために相関関係にある現象に注目します。そして、そのような
現象の中に因果関係を探り、見い出した因を対象とした解決策を打ち
出します。
こうした問題解決行動の中で冒しやすい誤りとして、次のようなものが
あります。
・因果関係にないものを因果関係にあると誤解すること
・因果関係の中で因と果を取り違えること
・因果関係が表に現れにくいため因が見えず、誤った策を採ること
こうした誤りを冒さずに因果関係を正しく捉えることは、問題解決の
上で大きな力となります。以下に二つのお話を紹介します。一つは
誤りに陥ったもの、もう一つは表に現れにくい因果関係をうまく掴んで
効果を上げたものです。
一つ目のお話は、社員教育と業績との関係性に関するものです。
管理者教育が企業業績に与える影響は、多くの人たちが知りたいと
思うことの一つです。これを見い出そうとして、教育のための総費用、
管理者１人当りの教育日数を調べます。
調査の結果、管理者教育に経費や時間を多くかける企業ほど業績がよい
ことが確認できたとします。この結果から、管理者教育に力を入れれば
業績が上がると解釈してこれを実行します。ところが、思うように
業績が上がってこないことも多いのです。
前述の調査結果は、業績がよい企業は資金に余裕があり教育にかける
費用を増やすことができる、と解釈することもできるのです。こちらの
解釈のほうが正しいとすれば、前述の施策は因と果を取り違えた誤った
施策だということになります。
相関関係の中から因果関係を見い出す際に、因と果を取り違えますと
こうしたことが起こります。
もう一つのお話は、アメリカでの実話です。１９９０年代にニュー
ヨーク市警察によって凶悪犯罪撲滅キャンペーンが行われました。
当時ニューヨーク市では殺人や強盗などの凶悪犯罪が多発し、社会問題
となっていました。
そこでニューヨーク市警察が凶悪犯罪を減らすために採用した政策は、
地下鉄の落書き、駐車違反、未成年者の喫煙などの軽犯罪の取締りを
強化することでした。
一見したところ、凶悪犯罪の撲滅にはつながりそうもない施策です。
しかし、この策を実行した結果として、１９９０年に年間２２６２件も
あった殺人の被害は、２００７年には４９６件と４分の１以下にまで
減少したのです。
これは、軽犯罪を犯した人は罪の意識が低下し、罪の意識が低下した
人は更に重いレベルの犯罪に手を染めやすくなり、それがエスカレート
して凶悪犯罪を犯す、という因果関係の存在によるものでした。
水際である軽犯罪を減らすことで、それに続く各種の重い犯罪を減らす
ことに成功したのは、こうした表に現れにくい因果関係をうまく掴む
ことができたからだと言えます。
因果関係を正しく捉えることができれば、問題解決に向けて大きく
前進することができます。この二つの例がそれを如実に示しています。
表に見えている因果関係だけではなく、表に現れにくい因果関係にも
注意を怠らず、因果関係を正しく捉える力を養うことが大切だと思う
次第です。
ピンチはチャンス、という言葉
一昨年のリーマン・ブラザーズの破綻に始まる世界同時不況の中で、
大小を問わず多くの人々が存続のために奮闘してきました。適切な目標
適切な戦略、適切な組織、適切な規模、等々が追究され、実行されて
きた訳です。
そんな中で重要な位置付けにあったものの一つが、個人や組織に対する
元気付けでした。適切な戦略を打ち出すにも、それを実行するにも、
個人や組織が意気高く元気であることが必要だからです。
個人や組織が意気消沈しているようでは、存続のための奮闘など期待
できるはずもありません。その元気付けに使われた言葉の一つが、
「ピンチはチャンス」というものです。
苦境の中にあっても意気が上がり、元気に活動できるようにするため
には、そんな環境の下でも希望を持ち、将来に対する期待が感じられる
ようにする必要があります。
そのためには、苦境の中にある時こそ次の発展の契機が得られるのだ、
という意識を持つことが効果的なのです。そのスローガンとして好適
だったのが、「ピンチはチャンス」という言葉でした。
この言葉を旗印に掲げて突き進んできた個人や組織は結構多いと思い
ます。しかし、結果は明暗両様に別れたようです。
チャンスを見い出し、それに取組んで未来への突破口を開いた者が
現れる一方、旗印は掲げたものの右往左往するだけで停滞のままで
あったり、落ち込んだりした者も生まれました。この両者の違いは
どこにあるのでしょうか。それを探ってみます。
ピンチはチャンス、まさにその通りだと思います。また言葉の響きも
耳に心地よいと言えるでしょう。それだけではなく、経営者が社員を
鼓舞する際にも、個人が自分の心に火をつける際にも、発信者が満足感
に浸れる言葉でもあります。
そこまではよいのですが、問題はその次の段階です。人々や組織が
適切に行動しなければ、鼓舞や点火は全く意味を成しません。適切な
行動を起こしてこそ適切な成果が得られるのです。
この首題の言葉を耳にするだけで、どれだけの人々、どれだけの組織が
適切な目標を定め、適切な計画を立案し、それに沿って行動することが
できるでしょうか。恐らく、これをできる人々や組織は少数派であろう
と思われます。
現実の組織で起っていたことの一つは、トップのこの言葉を繰り返し
聞かされるだけで、具体的にどのように考えればよいのかを示されない
ために、社員がだんだん白けていったという現象です。
自分たちがピンチに陥っている今、このピンチがそのままチャンスだと
受け容れられる人はいないでしょう。このピンチにどのように対処
すればチャンスが見えてくるかを示して初めて、人はこの言葉を受け
容れることができるのです。
チャンスを見い出した人々や組織とは、この言葉を受けて、ピンチに
対処するための具体的な行動を引き出すことができた者だったのです。
スローガンの言葉を具体的な行動に変換できる人たち、或いは、そんな
人たちを擁する組織だったのです。
その変換の一つの具体例は次のようなものです。
・いま自分たちはピンチに陥っている
・これまで通りに事を運んでいては存続できないだろう
・従って、この環境の中で自分たちは変わらなければならない
・変えるべきは、やっている事なのか、やり方なのか、内部なのか、
外部との関係性なのか、よく考えて方向性を明確にしよう
・考えを整理し、関連情報を集め、その考えの妥当性を検討しよう
・妥当だろうと判断できたら、行動計画を作って実行しよう
・そこに新しいチャンスが生まれるだろう
・ピンチに陥った今だからこそ、こうしたことができるのだ
ピンチはチャンスという旗を掲げるのなら、せめてこの程度のこと
くらいは明示し、具体的な行動を引き出せる雰囲気を作り出す必要が
あるのです。スローガンを掲げるだけで放置するのなら、「今は我慢と
辛抱の時期だ」と言って、皆で守りを固めるほうがよっぽどましだと
言えるでしょう。
「ビンチはチャンス」、いい言葉だと思います。この言葉が本当に
活きるようにするための、基盤づくり、風土づくり、雰囲気づくりを
怠らないようにしたいと思います。
開発マネジメントの在り方：考房だより５２
いま我が国の産業界に強く求められているのは、開発の推進でしょう。
技術開発、製品開発、事業開発、業態開発、市場開発、新分野開発、
など、どれを取ってみても重要性が感じられます。
ところが、開発の進め方に目を向けてみますと、曖昧な点が多いことが
わかります。“開発”が具体的に捉えられていないのです。どこまで
やるのが開発なのかも不明確なまま取り組んでいることも多いのです。
こうした状況を踏まえて、開発とはどのようにマネジメントするのが
好ましいかについて、自由に意見交換を行ってみました。
・開発を具体的にどのように捉えるかを明確にし、関わる人たち全てに
対し、誰がどの範囲まで責任を持つかを明確にして取り組むことが
必要だ。
・開発とは基本的にユーザーの開発ということになろう。ユーザーの
開発は当然ニーズからということになろう。
・何をするかが大きなポイントだろう。色々と調査した上で、最後は
トップの勘がものをいうのではないだろうか。
・かなり前のことだが、某自動車メーカーのトップの発言がある。
即ち、この車種の開発は・・・台売れてはじめて成功と言える、
というものだ。こうした捉え方は間違っていると思う。
・そんなことはなかろう。企業における開発は自社の事業に貢献する
ためにやるものだ。だから、最終目標に売上高とか利益とかが付いて
まわるのは当然のことだと思う。
・開発に関するある研究会で、次のような考え方が披露されていた。
現実を捉えた、なかなか良い考え方だと思った。
＊開発の話となると、大ヒット商品の事例を用いてケーススタディを
行うことが多いようだ。しかし、その類のものは殆どが特異な
アイデアによって開発された特異なものだ。
こうした傾向に引きずられて、開発といえば何か良いアイデアが
必要だと思い込まれているようだが、アイデアから新規開発が生ま
れる確率は千に三つも無い。それにも拘わらずアイデア商品が取り
上げられるのは、それが派手で一般受けしやすく、講演や講習に
もってこいだからだ。
企業の実務としての開発は、こんなことに惑わされてはいけない。
企業実務としての開発は、企業収益に寄与する確率の高いものを
対象としてそこに全力投球すべきなのだ。自社の事業を振り返って
みれば、そんなアイデアによる成功事業など見当たらないことに
気付くはずだ。
地味な商品でありながら、他社商品とは何らかの差別化された
競争力を持つ商品が、各社の「存在の基盤」となっているのが
現実だ。こうした「存在の基盤」を創り出すことこそが、開発の
目的なのだ。
・地味で地道な開発の中から飛び出した思わぬものが、大ヒットした
という例も結構多い。それは狙ったのではなく結果としてそうなった
というものだが。例えば、古いところではペニシリン、最近の例では
バイアグラ、といったものだ。
・地道に開発を進める基盤があれば、思わぬ大ヒットが生まれても、
惑わされることなく事業基盤の強化に貢献できる。
・前出の研究会で披露された考え方は、シングルヒットを重ねるのが
よい、ホームランは要らぬ、ということだろう。そういう風に開発を
捉えると、その開発によって業界における自社の位置付けを上げる
ことができるものを創り出すのが開発だ、ということになる。
そのような開発のベースにある考え方は、改善／改良とか、他分野
への応用とかをニーズ先行で、差別化を狙って追究することになるの
だろう。
このような開発のマネジメントの要にあるのは、その開発の実現に
よって何をどのように変えることができるのかを明確に捉えながら、
何をするかを決めることだろう。
・地道な開発というものがある一方、社運をかけて何かを開発しなけれ
ばならない、というケースもある。こういうケースは、また違った
マネジメントが必要になるはずだ。
・専任者をつくれるか、専任でなくても多くの時間を割ける担当者を
つくれるか、確実に開発品を買ってくれる人を見出せるか、といった
ことがポイントだろう。
・違ったマネジメントという視点から見ると、研究と開発とではマネジ
メントが異なる、という考え方がある。開発では目標達成のための
マネジメントが重要であるが、研究では担当者の情熱、意欲を高める
マネジメントに重心が置かれる、というものだ。
・情熱や意欲という側面から見ると、それは担当者に限ったことでは
なく、トップと経営陣にも言えることだ。このようなケースで最も
重要なことはテーマ設定だ。トップ、経営陣、担当者が情熱を燃やし、
意欲を高め、執念を持って取り組めるテーマを選ぶことだ。
・情熱、意欲、執念を高め、維持するためのマネジメントは経営者の
最大の仕事だろう。
・今の時代、業態開発というものも重要になっているのではないか。
スーパーからコンビニへ、アマゾンなどのネット通販、テレビ通販、
テーマパーク、等々成功例が色々ある。
・運送業もそうだ。今の形に先鞭をつけた企業は社運をかけた取組みを
していた。
・ＪＲ貨物も、モーダルシフトという形で運送輸送の業態開発に取り
組んでいる。
・業態は目に見えやすいので真似されやすい。しかし、表面の形だけを
真似したものの多くは失敗している。業態開発でも他の追随を許さぬ
ような差別化要因を創り出す開発力が必要なのだろう。
・でも、２番手３番手の参入により市場が膨らんだため、その業種が
さらに発展したという例は多い。
・自動車業界も業態開発が色々と予想される状況が見え始めたようだ。
・業態開発は、シングルヒットの積み重ねでは難しいようだ。社運を
かけて実現したようなものが多い。
以上のような談論が交わされました。開発という領域において自社が
進むべきはどの方向なのか、それを見い出すために少しでも参考になる
ようでしたら幸いに思います。
時間の縛りからの解放
時間は誰にでも平等に与えられていると言われますが、本当にそうで
しょうか。誰にとっても１時間は同じ１時間ですが、その１時間の中で
できることに差異があったり、こなした仕事の物量が違ったりします。
それは、与えられる時間が不平等なのではなく、能力の違いの現れだと
する考え方が一般的に受け容れられているようです。別々の個人間の
比較をする場合には、そういった考え方も成り立つでしょう。
では、同一の個人を考えてみた場合はどうでしょうか。ある１日には
仕事が捗って多くの成果が得られたが、別の１日には、仕事の内容は
ほとんど変らないのに、前の日の半分くらいの成果しか出せなかった、
といったことが結構あるものです。
これを能力の違いとすることはできません。成果に違いが出た理由は
色々と思い浮かべることができます。成果の出なかった日は、小さな
飛び込み仕事が多かった、少々風邪気味で体調が悪かった、何となく
気が乗らなかった、家族に心配事が発生していた、等々。
こうした事実から考えますと、働く個人や学習する個人にとっての
時間とは、絶対的ではなく相対的な在り方をするものと受け止めた方が
よさそうです。時間を絶対的なものと受け止めますと、計画づくりや
計画実行の際に、柔軟性が欠けてしまうように感じるのです。
１日の始めに、何の気掛かりもなく仕事や勉強に打ち込めそうだと
感じる時には「今日は時間が充分ありそうだ」と受け止め、何かが
引っ掛っていたり体調が優れなかったりする時には「今日はあまり
時間がありそうもない」と受け止めてみます。
このような意識を持って１日の計画を一覧し、その日の目標を達成する
ためにどのような行動を取るのがよいかをよく考えてから、仕事や
勉強に着手するようにしてみます。
こうした柔軟性を持つほうが、目標達成の圧迫感や、達成できそうも
ないという懸念に取り付かれずに、思考や作業に集中できると考える
ことができます。
もちろん、好調の時と不調の時とでは、成果の質や量が違ったものに
なります。しかし、上記のように受け止めることができない場合には、
圧迫感や懸念が払拭されないことが不調との相乗作用を起こし、成果を
ますます小さくしてしまうことになるでしょう。
時間を絶対的なものと受け止めますと、計画された時間内には計画
された作業をこなし、計画された通りの成果を上げなければならない
ことになります。そこには主体である当事者の状態は考慮されません。
このような状況の下では時間の縛りのようなものが働き、それが上記の
ような作用を及ぼして、思考や作業の集中を妨げる可能性があります。
こうしたことは目標達成に対する阻害要因となります。
一定の時間内で思考や作業の成果が上がるかどうかは、主体である
当事者がどれだけ集中できるかにかかっています。気がついたらもう
夕方だった、時間のことなど全然気にならなかった、といった経験は
誰でも持っているでしょう。こんな時には集中度が上がっていて、高い
成果が出ているものです。
集中度は色々なものに左右されます。そのうちの重要なものの一つが、
時間の縛りからの解放だと言えます。時間の縛りから解放されますと、
余計な圧迫感や懸念が払拭されますから、当然のこととして集中度が
増すのです。そして、集中度が増せばその時に存在する諸々の条件下で
最大の成果が得られるのです。
時間は絶対的なものだという考えを脱し、主体である当事者の状態で
変動する相対的なものだと受け止めることによって、時間の縛りからの
解放を手に入れ、物事に集中する力を高めたいものです。
時間の縛りからの解放は、「融通無碍」とか「自由闊達」といった境地
にもつながっているように感じています。
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