| 月刊：考研レビュー既刊分─２０１０年３月 |
| ２０１０年 ３月号 ４週：要にあるのは生産者 |
| ３週：安心を品質の最上位に置こう |
| ２週：来年度の中小企業支援策：考房だより５３ |
| １週：問題解決の最強の手段とは |
要にあるのは生産者
メーカーの技術者であった私が、会社をやめて今の仕事を始めた時、
基本理念に掲げたことの中に、
「生産者と生活者の両方にお役立ちを」
という１項目がありました。そして今も厳然と存在感を示しています。
この１項目を取り上げた背景には、お客様第一主義や消費者上位の時代
精神がありました。そして、それは今でも変っていないでしょう。
これに加えて、私自身が生産者の出身であったこともあり、「生産者と
生活者」という表現を採用したのでした。
それから１７年が過ぎました。その間、色々な生産者、色々な生活者
の存在を知りました。心からユーザーのことを思い、ユーザーのために
良いものを造り続ける生産者もあれば、手抜きや不正によってコストを
下げて利益を手に入れようとする生産者もありました。
生産者がより良いものを造れるように、自分の使用体験を生産者に開示
したりクレームを丁寧に説明する生活者がある一方、クレームの補償を
目当てにして、無理な注文を付けることを常習とするような生活者も
ありました。
こうしたことが、生活者、消費者、ユーザーといった使う側の人々と
生産者との関係の在り方を、掘り下げて考える契機となりました。
消費者上位の考え方が注目され、社会で優位を占めるようになった
のは、１９６２年のケネディ大統領の消費者保護特別教書からです。
そこには、消費者の４つの権利として次の４項目が上がっています。
・安全を求める権利
・選ぶ権利
・知らされる権利
・意見を聞いてもらう権利
また、お客様第一主義を大衆のものとしたのは、我が国の某人気歌手が
よく口にした「お客様は神様です」の一言の影響も大きかったと受け
止めることができます。
お客様とは消費者だけではありません。生産設備や生産材を製造したり
販売したりする事業者にとっては、生産者がお客様になります。
消費者はお客様の一部だということです。
もともと人間は、自分の生活のために必要なものを自分で採取したり
造ったりしていました。そんな時代には全ての人間が自分用の消費材の
生産者であり消費者でした。
種々の工夫や技術の向上によって人間の作業の生産性が上がってきた
結果、消費材や消費材を造るための道具（即ち生産材）を、自分以外の
人々のために造る余裕を持った人々（製造業者）が現れてきました。
そうなりますと、そういった材を人々の間で交換しやすくするための
労を取る人々も現れてきます。また造る人々の仕事をしやすくするよう
サポートする人々も現れてきます。
即ち、流通業とサービス業が興ったという訳です。そして、これらの
人々は流通やサービスの対価として、製造業者が造る消費材を入手して
生活します。こうして、現在の社会構造の原型とでも言えるような
社会が形成されてきたのです。
きわめて複雑化している現代社会でも、基本的なところは変っては
いないようです。流通業やサービス業を営む人々も、生活する上で
製造業が造り出す材を使わない訳にはいきません。
食料、住宅、衣類は言うに及ばず、電気製品や情報機器もその類です。
即ち、生活者は生産者の製造物を使って生活しており、生産者の存在が
無ければ生活は成り立たないのです。
生産者の重要性を強調するために少々極端な言い方をしますが、生活と
いう側面に限定して言いますと、流通業もサービス業も生活用の材を
万人に分配するための仕組みだ、と言ってもよいくらいです。
貨幣経済の発達によって金融経済が支配的になり、貨幣を操作する
ことを通して利を得ることが優勢な社会になりました。そのため、
物資の生産の絶対量のレベルをはるかに上回る貨幣が、世界中を駆け
巡るようになりました。
そして今、もっとも多額の利を手にしているのは金融事業者だと言え
そうです。しかし、その金融事業者も生活者としては、生産者の造る
消費材を使わない訳にはいきません。
金融立国を声高に叫ぶ一群の人たちがいますが、どの国においても
国民は全て生活者です。生活者である限り生産者の造る消費材を必要と
します。
彼らの主張は、金融で稼いだお金で消費材を他国から買えばよいという
ものです。この論理は、他国に生産者が存在する、生産立国の国々が
あることを前提にしています。
美味しそうに見える金融立国を、全ての国とは言わないまでも大多数の
国が目指すようになったら、何が起こるでしょうか。生産者の存在する
国が稀少になったらどうなるのでしょうか。
一昨年のリーマンブラザーズ破綻のショックを振り返ってみますと、
色々なイメージが浮かんできます。金融立国を謳歌していた国々で
起こったことは説明の必要もないでしょう。
国有化されたアイスランドの銀行を解雇された人の一言が強く印象に
残っています。
「また、昔やってた漁師に戻ります」
漁師はまさに、生活者が必要とする材の生産者です。
ここでは敢えて、好況不況とか好景気不景気とかいうことは脇に置く
ことにして論じないものとします。こうした言葉はどうも実態がない
ように感じられるのです。
基盤に据えるべきは、全ての人間が生活者であるということではないで
しょうか。そして、生活者を成り立たせているのは生産者の造り出す材
なのだということではないでしょうか。
消費者優位もお客様第一主義も、生産者が健全であり適切な材を供給
することができてこそ意味があるのです。そして、消費者やユーザーが
健全な言動を取ってこそ健全な生産者が活動することができるのです。
本誌１０周年の節目に１７年間を振り返ってみました。その間、
社会の風潮から何となく感じてきた違和感に探りを入れてみました。
その結果は、消費者優位やお客様第一主義は、生産者を責めることでは
なく、生産者の重要性の認識を広め、生産者をもっと大切にすることで
実現するほうがよいのではないか、ということでした。
そこでこの機会に、生産者こそが要にある重要な存在であることを
訴える次第です。
安心を品質の最上位に置こう
使う際に危険を心配する必要がない、即ち、安全なものとして受け
容れることができるものは、安心して使うことができます。食品なら
安心して食べることができる、ということです。また、サービスなら
安心して受けることができる、ということになります。
安心を感じてものを使用したりサービスを受けたりする時、使うことや
サービスを受けることを楽しむことができますし、作業の効率も高く
なります。また、食べるものに関しましては、その美味しさは最大級に
なると言えるでしょう。
このように、私たちが生活する上でも、生産活動に従事する上でも、
安全に裏打ちされた安心は大へん重要な位置にあります。ところが、
この安心を阻害するものやサービスが世間に出回っており、私たちを
不安に陥れています。
食品の有害物質混入や偽装、度重なる自動車のリコール、労働災害の
可能性が潜んでいる生産設備、理不尽な金融サービス、といったことが
すぐに思い浮かびます。
もう何十年にもわたって私たちの社会は、より性能の高いものをより
安く、かつより多く供給することに邁進してきました。そのために、
生産性を高める、不良の発生を少なくする、コストダウンに取り組む、
新技術や新製品を開発する、といったことに力を注いできました。
こうしたことに取り組む過程でも、品質管理や品質保証が重要視され、
製品やサービスの品質の向上にも努めてきました。不良率の低減、
クレームや不具合の撲滅、といったことが中心でした。
労働災害や製品の欠陥による事故被害の増加にともない、危険防止や
安全確保に人々の目が向き始めましたが、事故責任に関する法体系の
不充分さもあって、安全確保のために充分な経営資源が投入されている
とは言えない状況が続きました。
安全に経営資源を振り向ける流れを生んだ一つの切っ掛けは、製造物
責任法の施行であったかと思います。これを契機として品質管理や
品質保証は、安全な製品やサービスの提供という概念との結び付きを
強めて考えられるようになったのです。
安全を品質管理や品質保証の体制の下で追求する形がようやく表舞台に
現れたと言ってもよいでしょう。
製造物責任法が施行されて、かなりの年月が過ぎています。この間
にも、安心・安全を脅かすような事故や不祥事が多発しました。世間の
批判を浴びて、結構大きな規模の企業が消滅したこともありました。
しかし、前出のような不安は一向に解消されそうもありません。
その原因は、安心に対する意識が不充分なことにあるようです。安全に
ついては相応の考慮が為されているようですが、安心に対する意識が
低いように感じられるのです。
例えば、食品の消費期限の偽装や産地偽装のことを考えてみますと、
食べて安全かどうかに関しては一応の考慮が為され、当事者たちは
「大丈夫」という判断を下したものと見られます。
しかし、消費者に安心して食べてもらうということに関しては、全く
配慮されていなかったと思われます。偽装ですから、ばれなければ
消費者は心配しない、とでも考えたのでしょうか。
不正を隠し通すことはできません。偽装がばれた時、消費者はその会社
や店に対する安心感を失います。こうして経営が傾いていくのです。
安心は、存続を旨とする経営の根幹にあると言えるでしょう。
検査で不良品を取り除くのではなく、工程で造り込むのが品質だと
言われています。安全もそのようなものとして追究されるようになって
います。安心にも同様の考え方が当てはまります。
前に上げました例のように、安心とは、ものづくりのプロセスを超えた
ところにまで思いを広げなければ確保できません。安心とは、全ての
業務プロセスに埋め込むべきものなのです。
このように考えを進めていきますと、安心とは究極の品質であり、
品質の最上位に置くべきものだということがわかります。
来年度の中小企業支援策：考房だより５３
新しい政権により、事業仕分けを踏まえて来年度予算が組まれました。
中小企業支援策も例外ではなく、事業仕分けの対象となりました。
その結果、平成２１年度に計上されていた「地域力連携拠点事業」と
「新現役チャレンジ支援事業」が削られ、新たに「中小企業応援センター
事業」が計上されました。
・インターネットから取り出した資料に基づいて、参加者の一人から
大略の説明がありました。
＊中小企業支援の予算は、中小企業庁所管の部分は減少しているが、
全体としては増えている。
＊財政投融資に関わる中小企業支援予算は激減している。
＊主な項目は次の８つである。
(1) セーフティネット貸付等の万全な実施
(2) 緊急保証制度等の万全な実施
(3) 中小企業の研究開発支援
(4) 国内外への販路開拓支援
(5) 低炭素型社会への対応
(6) 事業再生・承継支援
(7) 下請取引の適正化の推進
(8) 社会活動に対応した商店街の取組支援
・冒頭に触れた中小企業応援センターは、(6) 項に「中小企業経営支援
体制連携強化事業」として位置付けられ、次のように説明されている。
中小企業の日常的な経営支援に取り組む中小企業団体や税理士・
公認会計士などのパートナー機関の経営支援機能を補完・強化する
ため、その後方支援機関として「中小企業応援センター」を全国に
１００か所設置し、パートナー機関を通じて、中小企業への専門家
派遣等を行う。
・比較的大きな予算が付いている前向きの項目は、(3) 項に含まれる
「戦略的基盤技術高度化支援事業」である。次のような説明がある。
我が国製造業の国際競争力の強化と新たな事業の創出を目指し、
「特定ものづくり基盤技術」の高度化に資する中小企業の研究開発
から施策段階まで含む取組を支援する。
特定ものづくり基盤技術とは、昨年度以前に既に指定されている
２０数項目の技術を指す。
こうしたことも踏まえて、平成２２年度の中小企業支援策について
意見交換を行いました。
・中小企業応援センター事業は、事業仕分けで上記２つの事業が削られ
たために、お役所が新規事業と称して提出した感が強い。実態は
削られた２つの事業を統合したものと言ってもよさそうだ。
・新連携や新現役チャレンジに関わった者としては、応援センターは
後退の感が拭えない。民間の力を取り込んでやっていた前年度の
２事業に比べて、民力の活用度が低いと受け止められる。
前年度の２事業の進展は民力に負うところが大きかったことを考慮
すると、応援センターは前年度ほどの進展は見込めそうもない。
・自分が現役経営者の頃ＩＳＯ認証取得活動を実施した。某コンサル
ティング会社に多額の費用を支払ったが、当時に新現役チャレンジ
事業があればこれを活用できただろう。
こうした活用の仕方がこれから増えてくると思っていたのだが、制度
運営の面から見て「応援センター」にはそれを期待できそうにない。
・２１年度予算がどれだけ実行されたかを知りたいものだ。例えば、
セーフティネットの実行額はどのくらいあったのだろうか。
セーフティネットとは、実行に意味があるのか、それとも「これだけ
準備してありますから、どうぞ安心して進んでください」というアナ
ウンスに意味があるのか、どちらだろうか。
・研究開発支援は２１年度並みに実行されると期待して良さそうだ。
２１年度は初年度だったため、明らかに資金繰り目当てと判定できる
申請が結構あった。２２年度は本来の研究開発、試作実験などの
魅力ある申請を期待したいものだ。
・「新連携」は昨年度までは“目玉事業”として掲げられていた。
２２年度は一体どれを中小企業支援策の目玉事業として掲げるのだ
ろうか。中小企業支援策の輝きが感じられなくなるのは寂しい。
・商店街の活性化は、もう昔話になりそうな以前から掲げられている。
これまでにどんな効果があったのかが明確ではない。商店街に構える
店自体が変容してきており、店の収益で運営していないものも多く
なった。そういう実態を考慮した上で、商店街をどうするかをもっと
実効側面から検討すべきだろう。
・支援とはどうあるべきかを根本に返って考えなければならない時に
至ったのではないか。全ての企業の命が永遠に続くことは不可能だ。
支援＝延命では全く意味がない。
希望はあるか、希望は持てるかに基づいて、死ぬべきは死に、生き
延びるべきは生き延び、生まれるべきは生まれる、といったことを
現実化するような支援策こそ重要なのではないか。
・いまの支援策には、我が国の産業をどういった方向に導こうとするか
についての産業政策の背骨が見えてこない。この辺を具体的にしない
と実効のある支援策にはならないだろう。
良し悪しは脇に置くことにして、過去の或時期、産業政策としての
エネルギー政策があったからこそ、三井三池争議のようはハードな
局面も乗り越えることができたとも言えそうだ。
・いまの日本では、強力な産業政策は経済産業省の力だけでは打ち出せ
ないだろう。農林水産省も国土交通省も、そして文部科学省も一緒に
なって知恵を絞り汗をかいてもらわねばならないだろう。
こういった分野にこそ国家戦略室に力を発揮して欲しいものだ。
その他、詳細な領域や具体的に踏み込んだ部分などに多くの意見が
出されましたが、ここでは省略することにします。
この意見交換の内容が何らかのお役に立つようでしたら幸いに思います。
問題解決の最強の手段とは
問題解決という言葉の意味は曖昧なところがあります。先ずはこの
言葉の意味を明らかにすることにします。問題解決という言葉は、
大きく別けて二つの意味で使われます。
その一つ目は、「問題の処置」と表現することができます。そして、
その二つ目は、本当の意味での問題の解決と言うことができます。
こちらの方を「問題の解決」という言葉を当てはめることにします。
問題の処置とは、不具合などの問題が起こった時に、とりあえず
それに対処することです。例えば、作業場が汚れたり散らかったりする
時、まめに掃除を行うことを徹底する、といったことです。
これに対して問題の解決とは、不具合などの問題が起こった時に、この
問題が再び発生しないように作業プロセスを改善したり、発生防止の
仕組みを作ったりすることです。
例えば、前出の作業場の汚れや散らかりの問題に当てはめるならば、
汚れがついたりゴミが出ないように、さらには道具や資料を放置しない
ように、作業プロセスを改善したり、この問題の発生防止の仕組みを
作る、といったことです。
本当の改善・改革が実行されず、「改善・改革もどき」が横行する
ことがあります。その原因は、問題の処置を、問題の解決と取り違えて
しまうところにあるようです。
問題が発生した時、多くの人はできるだけ早く問題の影を消したいと
思うものです。そこで、とりあえずは処置に走ります。一旦処置を行い
ますと、問題の影は消えて見えにくくなりますから、問題の解決を
先送りしがちになります。
こうしたことを繰り返していますと、処置上手と言えるような人材が
生まれ、何かの不具合が発生した時にてきぱきと対処してくれるように
なります。こうした人材は上司の目に頼もしく映るものです。
ここに落とし穴があります。時間とエネルギーを要する、問題の解決に
向けた活動を避けて、処置上手に頼るようになることにより、本当の
改善・改革は遠ざかり、問題の処置を繰り返す「改善・改革もどき」
ばかりが目立つようになります。
こうした状態にありながら、当事者たちは問題の解決に向けて改善・
改革を進めていると錯覚してしまい、いつまで経っても同じテーマが
繰り返し取り上げられるのです。
問題が発生した時には、問題の解決を目指す改善・改革を実行する
ことを、先ず決めることです。そして、実行に必要な要件を明示した
上で、とりあえずの問題の処置を早急に行うようにします。
こうした対応を可能にするためには、関係者全員が、「問題の処置は、
問題の解決とは違う」ことを理解していなければなりません。そして、
時間とエネルギーを要する改善・改革の活動を厭わない風土が根付いて
いる必要があります。
さらに、適切な評価をできる上司を育成しておくことも大切です。処置
上手を頼もしく思い、こうした人材に高い評価を与えてしまう上司の
下では、本当の改善・改革に取り組もうとする人材は現れてきません。
上司は、「問題の処置は、問題の解決とは違う」ことを正しく理解し、
時間とエネルギーを要する改善・改革の活動をどのように進めるのが
よいかを常に考え、問題の解決に向けた改善・改革の活動に前向きに
取り組む人材に、高い評価を与えるだけの器量を持つ必要があります。
問題の解決に向けた改善・改革の活動を進めるに当って、もう一つ
重要なことがあります。それは、「環境は、今この時点でも変り続けて
いる」ことをしっかりと捉え、頭に置いておくことです。
改善・改革の活動は時間とエネルギーを必要とし、ある程度の期間を
かけて進められます。活動の開始時点と完了時点とでは環境が違って
くることは、当り前のことです。
従いまして、活動開始時点の環境を固定化して進めた改善・改革活動は
失敗に帰する可能性が高いのです。改善・改革は、環境変化を常に肌で
感じながら進める必要があり、変化を捉えてこれに対応できる、柔軟で
かつ融通のきく活動計画を必要としています。
こうしたことをしっかりと押さえて進める、本当の改善・改革の活動
こそ、いま求められている問題解決の最強の手段だと言えるでしょう。
このページで解説されている内容の実践について、無料相談を承っております。
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