| 月刊：考研レビュー既刊分─２０１０年８月 |
| ２０１０年 ８月号 ４週：新しいマネジメントを生むために |
| ３週：体質づくりを阻害する効率化 |
| ２週：目標管理の捉え方：考房だより５８ |
| １週：仕事と生き方とは、どんな関係？ |
新しいマネジメントを生むために
従来のマネジメントのやり方が通用しない話をよく耳にします。
それは、組織を運営する上で次のような問題を抱え、従来伝えられて
きたマネジメントのやり方では解決できない、ということのようです。
・能力のある部下が上司の言うことを聴かない
・メンバー間で相互に助け合おうという気持が無い
・改善活動を立ち上げようとしても誰も乗り気にならない
・組織の目標を達成することに対しては関心が薄いが、自分の目標を
達成することに対しては異常な執念を見せる
といったようなことです。
こうした問題が浮かび上がる背景には、激しく変化する経営環境の下で
人員削減が頻発するようになって終身雇用制度が崩壊し、「会社が一生
めんどうをみてくれる訳ではない」という受け止め方が支配的になったと
いう現実があります。
また、組織内で有利な地位を占めるために、組織外に出ても有利な処遇を
得るために、能力を付けることが最大の力になる、という考え方が大勢を
占めるようになったということも関係しています。
そしてもう一つは、人事評価制度において成果主義的傾向が主流になった
ということです。成果主義が普及しますと、一番気になるのは自分の成果
ですから、判断の大部分はこれを基準になされるようになります。
以前にこうした問題が起りますと、コミュニケーションを密にするとか
メンバーがお互いを良く知り合う機会を設けるとか、自分たちの組織が
会社を良くすることに貢献すればその成果は自分たちに戻ってくることを
理解させる、といったことが行われ、それなりの効果を上げました。
しかし今は、前に述べましたような背景の下で、そのような施策は全く
効果を生まなくなってしまったのです。多くのマネジャーの悩みごとを
聴いていますと、これが如何に深刻であるかを感じ取ることができます。
こうした問題を解決するために、マネジャーとしては何をどのように
するのがよいのかについて、多くのマネジャーや改善改革の指導者たちと
議論や意見交換をしてきました。その結果、見えてきたことがあります。
自分の能力を高めたい、自分の目標達成に強い関心を持つ、自分の成果や
目標達成や能力開発に結び付くのでなければ乗り気にならない、といった
特性は現在の環境下では変えることは困難です。
従いまして、このような特性をもった人たちを動機付け、意欲を高めて
組織としての重要業務に取り組んでもらうようなマネジメントが必要に
なる訳です。それはどのようなマネジメントでしょうか。ここに、その
基本的な考え方の一つを紹介します。
先ず第一に考えるべきことは、上記の特性を持つ人たちの関心と意欲の
在り処を正しく捉えることです。それは、自分の能力の向上、目標達成、
評価に値する成果の獲得、といったことになるでしょう。
マネジャーのするべきことは、マネジャーの言うことや、打ち出す方針や
施策、そしてマネジャーの指導が、こうした関心事の実現を支えてくれる
と感じられるものにすることです。
そして第二は、メンバーとの協力や助け合いが、自分の関心事の実現に
プラスになると感じられるような業務プロセスや、協働の仕組を設計する
ことです。
この二つは決して容易にできることではありません。しかし、これに
マネジャーが真剣に取り組み、悩みながらも知恵を出し、工夫を凝らす
ことなしには、今の時代に有効なマネジメントのやり方は生まれてこない
と言えるでしょう。
こうしたことに取り組む上で有効であろうと思われるものを二つ上げて
おきます。
・従来の組織図を逆さまにして、組織を逆ピラミッドとして捉える。
このように捉えることによって、マネジャーの役割が違ったものとして
見えてくる。マネジャーは、メンバーが良い仕事をし、能力を高め、
目標を達成し、高い評価を得る成果を出すことを支える存在なのだ。
・ファシリテーションの考え方を身に付け、メンバー全員の力を最大限に
引き出すためには何をするのがよいかを追究し続ける。好ましい協働の
仕組みや業務プロセスは、そのような思考と行動の中から生まれるはず
である。
今の時代に有効なマネジメントのやり方を生み出し、これを効果的に
実践するためには、以上のようなことに真剣に取り組むことが重要だと
思っています。
体質づくりを阻害する効率化
スピード重視、拙速主義、時は金なり、短納期、といった言葉が今の
時代を特徴付けていますが、その根底に流れているものは効率化という
概念でしょう。業務効率化、経営効率化、資本の効率化といったことを
よく耳にします。
業務効率化とは、少ない所要時間で、短期間で、少ない費用で、少ない
人数で、仕事を成し遂げられるように業務のプロセスを改善し続ける
ことです。
経営効率化とは、課題や問題が発生してから経営陣が意思決定を行う
までのリードタイムの短縮、その間のマンパワーコストや情報コストの
低減、といったことに取り組み続けることです。
資本の効率化とは、総資本に対する、付加価値を生み出すことに向け
られる資本の比率を上げる道を探し続けることだと言えます。
今の時代には、こうした効率化による効率の向上が業績を伸ばすことに
つながってくるのです。
このような効率化の追求活動が長期間にわたっているケースでは、
表面上の効率向上とは裏腹に、本来の目的にそぐわないことが発生する
こともあります。事例を上げながら話を進めます。
ある企業で新任マネジャーの研修が実施されることになりました。
人数が多かったので３組、３期に分けて実施計画が作られました。
プログラムの中には、ある著名な小説の登場人物とその行動を題材に
してリーダーシップの在り方を考える事例研究が組まれていました。
第１期に研修を受けたＡさんはある意味で典型的な効率主義者でした。
事例研究に参加しながら感じたことは、意見交換や議論であちこち迷走
しながら結論にたどり着くようなやり方の非効率性でした。
各チームが出した結論は必ずしも正解とは言えず、最後は指導員による
正解らしきものの解説で締め括られたのです。Ａさんの思いは、こんな
効率の悪いやり方をせず、進行過程の適当な段階で指導員が解説をする
ほうがよいのに、というものでした。
研修を終えたＡさんは、第２期の研修に参加する友人のＢさんに事例
研究のいきさつを伝え、指導員が締め括る正解らしきものの解説も伝え
たのでした。効率主義者であるＡさんにとって、これは何の疑いもない
正当かつ適切なことだという確信に基づく行動でした。
Ａさんから伝え聞いたことによって、Ｂさんのチームは事例研究の
意見交換と議論を通した結論のまとめを効率良く要領良く行うことが
できたことでしょう。しかし、研修の意図した成果は得られたとは言え
ないのです。
研修の狙いは、答の見えていない課題に取り組み、自分の頭で考える
ことを通して、他者の異なる意見も聞くことを通して、自立的に考え、
多くの意見を取りまとめることを体験させようとすることにあります。
Ａさんの伝言によって、Ｂさんはこれを体験する機会を奪われることに
なったのです。効率のことしか頭にないこういうタイプの効率主義者は
こんな罪つくりなことをする存在のようです。
実際の業務を進めたり、組織づくりをしたり、改善活動を進めたり
する上でも類似のことが起っています。次に上げるような事例は多くの
現場で起っています。
トップの指示をうけて、ある改善活動を推進することになったと
します。これを推進する実行主体には、社内で「優秀」と言われている
人材が招集されます。
こうして実行主体として組織された推進委員会の活動は、「優秀」と
言われる人たちの特徴が体現されたものとなります。即ち、
・成果と納期を明確にし、
・アクションプランを立案し、
・これをスケジュール化して明示し、
・関連部署や担当社員に指示を出す
このようにして活動は実行段階に入り、優秀な人たちによって作られた
「よく準備され、練り上げられたシナリオ」に基づいて進められます。
推進委員会の役割は、関連部署や担当社員に指示を出して実行させる
ことが中心となり「優秀」と言われる人たちはそこに精力の大部分を
費やすことになります。
こうした活動の進め方はきわめて効率的です。しかし、ここに問題が
潜んでいるのです。こうしたやり方の下では、社員たちは結局「どう
やるか」しか考えないのです。「なにをやるか」は推進委員会から指示
されますから当然の帰結だと言えます。
「なにをやるか」を考える必要がなく「どうやるか」だけに四苦八苦
している状態では、やらされ感ばかりが強くなり当事者意識が生まれる
ことはないでしょう。
このような状況の下では、現実を踏まえて「なにをやるか」を考えに
考え抜いて絞り出す「対応力」が育ってこないのです。このようにして
活動は主体性の薄い社員たちによる弱々しいものとなってしまいます。
改善活動とは、社員たちが主体性や自発性を発揮することを基盤に
据えて進めるものです。そうでなければ、成功と言えるような成果を
生むことはできません。
上記のような事例が伝えていることは、活動を効率的に進めようとする
ことが、活動に不可欠な社員の主体性や自発性の芽を摘んでしまうこと
になる、ということです。
社員の主体性や自発性を育てようとすれば、効率を犠牲にしてでも時間
と手間と忍耐が必要です。その必要なことをしなければ、好ましい体質
づくりは不可能だと言えます。
効率化が好ましい体質づくりを阻害する二つの事例を紹介しました。
効率化が「唯一絶対」ではないことを常に認識しておきたいものです。
目標管理の捉え方：考房だより５８
先月から先送りとなっていました「目標管理をどう捉え、どのように
実行するか」というテーマで意見交換を行いました。目標管理という
言葉の意味が多様なため、先ずはランダムな議論から始まりました。
・組織で取り組む場合と個人で取り組む場合とでは、中身も形も違った
ものになる。組織の場合には、組織目標の達成を軸に据えたものに
なるが、個人の場合には能力向上や技術・ノウハウの習得といった
ものが目標として掲げられる。当然、進捗管理、達成度評価、評価の
反映などは違ってくる。
・ヒューレット・パッカード社が創業後しばらくして、創業者の一人で
あるビル・ヒューレットが Management by object(MBO) という
考え方を提示したのが、目標管理の起源だと言われている。
なぜ目標管理という訳語をつけたのか、この訳語が多くの誤解を生み
だしたのではないか、という疑念が長いこと消えずにいる。即ち、
「マネジメント」は「管理」ではないからだ。
また、日本語の目標管理は、設定した目標とその達成度評価によって
“何か別のものを管理する”という色合いが濃い。例えば、賃金体系
成果報酬、昇進昇格、人事考課といったものだ。
ビル・ヒューレットの考えは、企業理念を徹底し、一人一人の社員が
目標を持ち、これを達成する活動を行うことによって企業のマネジ
メントをしようというものだった。即ち、企業の活動は目標達成活動
であることを考慮すれば、MBOは「目標を達成するための諸活動の
マネジメント」ということになる。
・日本が目標管理を導入した時代は、終身雇用全盛、職能資格制度の
下にあり、個人が自由に活動することを嫌う風土が強かった。
そういう環境下で、目標管理は職能資格制度の運用のための道具と
してねつ造されたとも言えそうだ。
・日本でも成功例はある。セル生産方式と成果主義の組み合わせの中で
目標管理が適用されたのもその一つだ。目標管理と成果主義は自ずと
結び付いてくる。
・目標管理を成果主義と合せて適用する場合、業務によって配慮する
点が異なってくる。新規開拓の営業、新製品の品質管理など、既存の
パターンの業績目標や評価指標では目標管理は成り立たない。
いわゆる業績目標を超えた考え方で目標や成果を考える必要がある。
・失敗をどう評価するかが大切なのではないか。失敗に対しても評価を
行うのだ。そのためには、結果だけではなくプロセスの評価が要る。
目標管理と言う言葉からは、目標達成の成否だけを対象にしている
ように見えるが、それではうまく機能しない。
・例えば、次のようなケースをどう評価すべきか、ということだろう。
＊やるべきことをきちんと実行して目標を達成した
＊やるべきことをきちんと実行したが目標を達成できなかった
＊やるべきことができていなかったが目標を達成した
＊やるべきことができておらず目標を達成できなかった
・目標を達成した暁には、達成者が得るものを事前に明確にしておく
ことが重要だ。昇進、ボーナス、金銭以外の報酬など。但し、昇進
昇格などは、目標達成評価以外にもコンピテンシーなどの評価も
必要になるが。
・目標管理という一言で全てを表そうとするのには無理がある。何を
目的として目標管理を導入するのかを、できるだけ具体的に表現し、
絞り込んでおく必要がある。
目標達成行動の強化・推進のために導入するのか、人事考課に有効
活用するために導入するのかでは、組織や制度、運用方法などが全く
違ったものになってくる。
・目標管理を導入しようとする組織に対する教育は重要だ。経営者向け
マネジャー向け、一般社員向け、などだが、目標達成行動の一般論の
習得などは必須だろう。
それに有効な手段として、改善活動との結び付け、目標達成運動の
全社化、のような活動がある。この活動の目的は、スキルや知識の
獲得、風土・文化の醸成、個人の目標達成体質作り、制度の模索、
といったものだ。
・どのような形で実行するにしても、トップの肩入れ、マネジャー教育
などが重要である。組織目標と個人目標の結び付けを考えれば、個人
向けのキャリアカウンセリングも重要だろう。
・目標管理の実行の中でも“落ちこぼれ”は発生する。これを放置して
いては組織として欠陥を抱えることになる。“落ちこぼれ”を救い
上げるのはチームだ。チームワークの中で救い上げて有効な戦力と
して活用しなければならない。
・最後に一言。目標管理だけの問題ではないが、「組織や制度は環境の
変化に応じて変えることを考える必要がある。設定した組織や制度は
あくまでも、環境の変化に応じて何をどのように変えたら良いのかを
探るための基準だ」。
小人数でしたが、それぞれが研究と経験に基づいた意見を披瀝し、
充実した談論となりました。この内容が皆様のお役に立つことを願って
います。
仕事と生き方とは、どんな関係？
何のために仕事をするのか。これは容易に答の出ない問い掛けかも
しれませんし、その時の自分の立ち位置と状況次第で多様な答があり、
変化していくものかもしれません。
ある時には、仕事は家族の生活費を稼ぐためにするものとなり、また
別の時には、自分の野望を実現するためにするものであり、また或時
には、社会的地位を獲得するためにする、といったことが現実だろうと
思います。
同様な問い掛けですが、若干ニュアンスのちがったものもあります。
どのような生き方をするのがよいのか、という問い掛けです。これに
対する答は、さきの問い掛けよりさらにむずかしく、永遠に答の出ない
問い掛けかもしれません。
これに対する答は、自分の立ち位置や状況に左右される度合は小さく、
むしろ当人の人生観と価値観によって決まってくると言えそうです。
そういった意味では、変化することは少ないと言えるでしょう。
この二つの問い掛けについて広く深く考えを巡らしていきますと、
この二つには深い関係があることが見えてきます。その関係とは、
次のような二つの意味合いを持ったものとして捉えられます。
１）仕事をうまくやるために、自分はどのような生き方をすればよいか
について追究し、答を出す
２）より良い生き方をするために、どのように仕事をすればよいのか
について追究し、答を出す
いずれにしても、追究の前にやるべきことがあります。１）の場合には
仕事をうまくやるとは自分にとってどういうことかを明確に定義しなけ
ればなりません。２）の場合には、より良い生き方をするとは自分に
とってどういうことなのかを明確に定義しなければならないのです。
従いまして、１）の場合に出てくる答は自分の立ち位置と状況に影響
されることになり、２）の場合に出てくる答は自分の人生観と価値観の
中から生まれてくることになります。
１）の場合には、仕事が主導的地位を占め、生き方はそれに従属する
ようにして決まります。極限すれば、人生は仕事をうまくやるために
あるのだ、と言うこともできます。
２）の場合には、生き方が主導的地位を占め、仕事はそれを支えるもの
とされます。仕事はあくまでも人生を実り豊かなものにするための手段
という訳です。
色々な立場の人たちがいますから、どちらが好ましい考え方なのかを
断言することはできそうもありません。しかし、多く人々の人生の過程
や、時代精神を反映する社会の変化から感じられることは、次のような
ことです。
・社会生活の始りから壮年期に至るまでは、１）の考え方が強く現れ、
そこを過ぎると２）の考え方の影が濃くなってくる
・経済成長の著しい時代には、１）の考え方が支配的となり、成長の
カーブが緩くなる安定成長の時代になると、２）の考え方が目立つ
ようになる
私自身も上記のような考え方の変遷をたどってきた、ごく一般的な
人間だと認識しています。しかし、これからの時代のことを展望して
みますと、できるだけ早く２）の考え方に思いが至るほうが良いように
感じています。即ち、
「仕事をうまくやるために、どのような生き方をするのが良いかを
考えるのではなく、より良い生き方をするために、仕事はどう
あるのが良いかを考える」
ということです。
このテーマに関連して、ある経営者の一言を紹介します。
「これからは、金銭的報酬をこれまでのように提供することができ
なくなる可能性は低くないと思います。そんな時代の到来を想定
して、人間の生き方と仕事への姿勢との関係を正しい関係に戻さな
ければならないと思います。
働き甲斐や生き甲斐、満足度の高い働き方や生き方、といった
ことを社員とともに語り合い、そのための業務設計や働く環境を
作っていく必要が生じるだろうと考えています。経営者として最も
重要な仕事はこうしたことになる、と今から覚悟を決めて取り組む
つもりでいます。」
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