| 月刊：考研レビュー既刊分─２０１０年９月 |
| ２０１０年 ９月号 ４週：感情が情報をもってきてくれる |
| ３週：マトリックス：使いやすい「見える化」ツール |
| ２週：雇用に絡む談論：考房だより５９ |
| １週：開発や企画における現場主義 |
感情が情報をもってきてくれる
いきなり奇妙なタイトルを掲げてしまいました。あるＥＱの専門家の
コラムを読んでいて、スットーンと腹に落ちるものを感じてしまった
結果です。そのコラムの内容と、それを読んで私が感じたことを合せて
お伝えします。
ＥＱ(Emotional Intelligence Quotient)とは、ＩＱ(Intelligence
Quotient=知能指数）に相対する概念として、「感情能力」とか「心の
知能指数」という日本語で紹介されています。
このＥＱを追究していきますと、これまでは陰に隠れて表に現れていな
かった色々なことが見えてきます。例えば次のようなことが鮮明に
なってきています。
知識や技術を習得しなければならないスピードが従来よりも格段に
速くなっている今の時代には、もはや自分で一から勉強して身に付ける
のでは遅過ぎると言えます。そんな訳で、専門知識や技術を持っている
人に自分のブレーンになってもらう、といった付き合いができるか
どうかが重要になってきます。
一人の優秀な人物が、すべての書類に目を通して決済をする、といった
ことも不可能になっています。その分野に詳しい人物と連携し、人的
ネットワークを構築しなければ仕事が進まないのです。
昔でしたら、ワンマン型の優秀な人、行動力のある人が先頭に立って
突き進めば何とかなりました。ところが、ＥＱを発揮できない人が
先頭に立っても、人は集ってきませんし、ついてこないのです。
さらに言えますことは、ＥＱの低い人のもとには、人だけではなく
情報も集ってこないということです。よく考えてみれば当り前のこと
ですが、嫌いな人にわざわざ耳寄りな情報を伝えようとする気にはなら
ないでしょう。
日頃からＥＱを発揮している人が、社内メールで「・・について教えて
ください」と発信すれば、すぐに多くの返信を受け取ることになるで
しょう。しかし、ＥＱの発揮に難点のある人が同じことをした場合、
返信は来ない、メール開封さえされない、ということになるでしょう。
いくらＩＱの高い人でも、発信したものを見てもらえなかったり、相手
にはただの雑音としか受け止めてもらえなかったりするようでは、
ビジネスで成功することは覚束ないでしょう。
ビジネスは感情を持った人間が関わるものです。ＩＱやロジカルシンキ
ングも大事ですが、「嫌い」という感情の前にはロジックは通用しない
と受け止めるべきなのです。
こうしたことから引き出せることの一つが、今回のタイトルの
「感情が情報をもってきてくれる」ということなのです。「情報を
もっていって上げよう」という感情を、関わる多くの人たちに持って
もらえるように努めることが大切だ、と表現することもできます。
こうしたことに役立つのがＥＱを高める努力です。ＥＱは後天的に開発
できる能力だと、この専門家は強調しています。ＥＱを高めるための
いくつかのポイントを上げてみます。
・常日頃から心の感度を上げることに努める。そのためには先ず、
自分の感情に気付くように意識して暮らすようにする。感情の変化と
いうものを理解するためには、自分の感情を知ることが必要なのだ。
・自分の気分を感じて、その感情を心の中で具体的な言葉にしてみると
よい。言葉にすることにより、漠然とした感情が見える形に変化し、
前向きの感情が湧いてくるようになる。
・相手がハッピーになる瞬間を知り、そのテーマに沿って話しかける
ように努める。自分がハッピーになれる話を聴けば、誰でも気分が
よくなり、自然に笑顔が現れるものだ。
感情には様々な情報が詰まっているのです。感情の背景には多くの
情報が存在しているのです。「なんか嫌だなあ・・・」と感じた時には
何か嫌なことになりそうだと、感情が伝えれくれているのです。
感情を閉じ込めずに情報として、或いは情報媒体として捉えることに
より、その背景にある様々な情報を掬い上げることができるのです。
まさに、「感情が情報をもってきてくれる」のです。
マトリックス：使いやすい「見える化」ツール
「見える化」という言葉が普通名詞のように、当り前に使われている
ようです。「見える化」と聞けば多くの人たちが、「ああ見える化ね」
と理解するようです。
「見える化」とはどういうことか、きちんと定義されている訳ではない
ようですが、書いたものや描いたものにすることは欠かせない条件だと
言えるでしょう。それらしい意味を幾つか上げてみます。
１）見ようと思う人が見にいくことができるようにする
２）普段の行動の中で目に入るようにする
３）それを見れば、裏や背景にあるものや状態が浮かび上がってくる
１）は、個人用に保存されている資料や文書などを電子情報化して、
共有のデータベースに登録したりすることです。紙ベースでも、共有し
ている分類法に基づいて共有ファイルに綴じ込み、共有の書棚に保存
することも、これに該当します。
２）は、不良の発生状況、個人別営業成績、目標達成までの期限・
未完了項目・完了項目、などを表示した図表を、誰の目にもとまる所に
貼り出したりすることです。
３）は、あるテーマに関して、ある種の手法を用いて複数の要因や
要素の関係性を図表化して表現したりすることです。ＱＣの７つ道具の
散布図、パレート図、特性要因図、などを使って表現することは、この
典型例です。
どれも「見える化」と呼ばれますが、１）は「見える化」というより
も「情報の共有化」と言うほうが相応しいでしょう。なにしろ、見に
いこうという意志の無い者には見えないのですから。
自分は何をしなければならないか、どのようなことに注意しなければ
ならないか、といったようなことを、メンバー全員が常に意識して行動
することを徹底する際には、２）の「見える化」が有効に機能します。
現象の真因や問題の在り処を探るような場合、データや情報を見詰めて
いたり、それを前にして考え込んだりしていても、求めるものを掴む
ことは困難です。こうした際には、３）の「見える化」を使うことが
有効なことが多いものです。
今回取り上げますのは３）の「見える化」です。比較的簡単に使えて
効果の高い「見える化」ツールとして、マトリックスを取り上げます。
マトリックスとは、一つの類の要因や要素を縦軸に列挙し、もう一つの
類の要因や要素を横軸に列挙した表で、縦軸要素と横軸要素の交叉する
欄に状況を記入して完成させます。何の状況も現れていないと判断され
れば、その欄は空欄とします。
こうして作り上げたマトリックスを眺めているだけで、色々なことが
見えてきます。不良・不具合の低減策の追究、売上拡大策の追究、能力
開発計画の立案、などといったことに活用することができます。
不良・不具合の要素を縦軸に取り、部品を横軸に取ってマトリックス
を作り、交叉する欄に不良・不具合の発生件数を記入した表からは、
最も発生頻度の高い不良・不具合がどの部品で多発しているかが見えて
きます。
さらに、この部品の納入業者を縦軸に取り、部品の適用製品を横軸に
取ってマトリックスを作り、この部品の不良・不具合の発生件数を該当
する欄に記入した表を作りますと、どの業者がどの製品用に納入した
ケースに不良・不具合が多発しているかも見えてきます。
このように、マトリックスを幾重にも使って問題を深掘りしていくこと
により、何処に手を打てばよいかが見えてきたりするものです。
比較的よく使われるのは、縦軸に商品を取り、横軸に顧客や市場を
取ったマトリックスです。こうした整理をすることによって、売上に
貢献している商品と顧客・市場の組合せが見えてきます。
それと同時に、開拓不足の商品と顧客・市場の組合せも見えてきます。
このような整理をして「見える化」することにより、新しい営業戦略や
市場開拓を検討するための情報が得られます。
解りやすい例を上げてみました。「見える化」の効果的なツールで
あるマトリックスを充分に使いこなすことは、問題の解決や戦略の立案
などの場面で、大いに貢献することになるでしょう。
雇用に絡む談論：考房だより５９
事前に予定していたテーマは「産業構造内の位置取りをどう探って
いくか」でしたが、開始前の雑談がエスカレートし、当日参加者の同意
も得て、特にテーマを決めずに談論を進めることになりました。首題の
ようなことが底流にあったように思います。
・最近、農業の就業人口が増えているようだ。それも若い人たちも結構
多いと聞いている。好ましいことではないだろうか。
・若い人たちは必ずしも自分の希望で就農している訳ではなさそうだ。
自分の希望する就職がかなわなかったために農業に仕事の場を求めて
いる、というケースも多いのではないか。
・取り組んでみると農業は奥が深く、面白いということに気づくことも
多いと思う。自分は家庭菜園程度だが、色々なことに気づかされる。
土作りによる違い、山の自然の土の力、自然の力の凄さ、等々だ。
・自然の力は凄い。田に水を張るとすぐ蛙の声が聞こえてくる。雨の
季節になると庭の草むらにも雨蛙が来ているのに出会う。何処から
来たのだろうか、それまで何処にいたのだろうかと考えてしまう。
自然の生命力とはこういうものだろう。農業はそんな生命力に密着し
ながら生産活動を行うのだから、奥が深いのも当然だろう。
・「奇跡のりんご」という本が面白い。青森のりんご農家が死ぬほどの
辛酸をなめながら無農薬りんごの生産に挑戦し、あることが切っ掛け
となり成功に至るまでの話だ。
その中で感じるのは農業の奥の深さであり、不要と思われたり、有害
と思われたりしている自然物の存在意義だ。やはり自然物は共生して
いるのだ、雑草も共生に一役買っているのだということを感じる。
・共生の話は、これからの生産活動においてきわめて重要なことだ。
山に木を植えたら魚が取れるようになったとか、漁協から「切って
くれるな」との要求がでた魚付き林と呼ばれるものがあるとか、
そういう話はよく耳にする。
・その大規模な話がいま顕われてきている。黒部ダムの建設がボディ
ブローのように効いてきて、富山湾での漁獲量がどんどん減っている
と聞く。ダム建設当初はそこまで思いを至らせることができなかった
のだろうし、共生関係についての研究も未熟だったのだろう。
・そのような分野の研究には長い年月を要する。大学の研究テーマに
取り上げても直ぐに成果を発表できない。しかも、大学の大きな課題
として学生の就職がある。こうした研究に携わった学生は就職活動で
苦労するのは目に見えている。これがネックだ。
・学生の就職の側面から捉えると、製造業の海外移転の問題が大きい。
国内生産を重視すると宣言していた、液晶テレビの勇と呼ばれる企業
もとうとう中国へ進出することになった。これで国内の主力工場は
犠牲になり、縮小の一途をたどるだろう。新しく建設した工場は
早くも大きな負担になってきたようだ。
・液晶技術は諸外国に圧倒的な差を付けていたのに、なぜ韓国の企業の
後塵を拝することになったのだろうか。日本の産業界が何か重要な
問題を抱えているのではないか。
・以前に半導体業界でも起こっていたことだが、技術者の海外流出の
問題がある。リタイアーした技術者に限らず、厚遇で招かれている
らしい。それ以外にも、現役の技術者がヤミのヘッドハンティングを
受け、休日を利用して短期指導を行ったりすることがあると聞く。
かなりの報酬が振込まれるらしい。
・転職やヘッドハンティングを受けることに対する意識とか、技術者の
在り方が日本は特殊なのかもしれない。日本では転職はキャリア形成
にマイナスイメージが強いが、アメリカを始めとする諸外国では転職
を重ねることがキャリア形成になっている。
日本の技術者は一連の技術体系を一人で押さえるケースが多いが、
アメリカでは技術体系のある部分だけを押さえている技術者が多いの
ではないか。
一部分だけの専門技術者の渡り歩きは、企業としても容認しやすい。
また、ヘッドハンティングをしても全体の体系を獲得することには
ならない。だから日本の技術者が狙われるとも読める。
・技術の海外流出による日本企業の競争力低下や、その影響で製造業が
生産拠点を海外に移すことなどが雇用の悪化につながっているのだ。
雇用は、今一番の問題だ。
・過去の雇用状況と経済成長を考えてみて、浮かんできたのはインフラ
整備だ。インフラ整備が盛んな時代には雇用状況が良好で経済成長も
好調だ。経済成長が好調だからインフラ整備が進むのか、インフラ
整備をするから経済成長するのか、恐らくその両方だろう。重要な
のは、どういうインフラ整備をするべきかを間違えないことだろう。
・今、国際競争力を回復するために、港湾や空港の整備が話題となって
いるが、それがどのように雇用状況の改善や経済成長に結び付くかを
概念的な表現ではなく、具体的に現実を踏まえて、データや学問など
のあらゆる知識と知恵を、そして頭脳を結集して明らかにし、国民に
公表することが必要だろう。
・先ほど話題になった農業、林業、水産業に関するインフラが重要に
なるかもしれない。林業にとっては道路はまだまだ不足しているし、
排他的経済水域を活用するためのインフラも重要かもしれない。
・世界のインフラ整備に関わることも重要だろう。日本の技術やノウ
ハウや運営技術が世界全体の役に立ち、日本人や日本企業の仕事の
増加に寄与することになるはずだ。
以上のような内容でした。将来の仕事や事業を考える上での参考に
なる部分があれば幸いです。
開発や企画における現場主義
現場を重視する傾向が強まっています。日本の産業界の強みが現場に
あることが見直されるようになったためでしょう。三現主義や四現主義
でも現場が主戦場です。
しかし、現場主義とは言うものの、それは生産現場や営業現場の話だろ
うという先入観が強く存在することも否定できません。この先入観から
脱し、本当に現場主義が必要なのは、開発や企画の仕事なのだという
認識を持つことがいま重要になっています。
開発とか企画とかを論じる時、必ず出てくる言葉があります。発想、
構想、アイデアといった類の言葉です。よいアイデアが出れば開発は
成功すると思われている節があります。
よい構想が湧けば魅力ある経営戦略の企画が可能になると思われている
節もあります。そのような考えの下では、発想やアイデアの掘り起しに
ばかり力が入ります。創造性を追いかけ創造力の発揮が求められます。
その結果としてアウトプットされたものは、現実にマッチしないもので
あったり、表現は見事だが実行されないものであったりします。こう
したことが起る背景にあるのは、開発や企画における現場主義の曖昧さ
ではないかと思われます。
開発や企画で最も重要性が高いものは情報ではないでしょうか。
発想にしろ構想にしろ、保有する情報に左右されます。アイデアも何も
無いところからは生まれません。従いまして、開発や企画における現場
主義とは、情報に関わる現場主義だということができそうです。
開発における試作のことを考えてみます。アイデアや発想の具体化が
進み、製品設計がなされ、製造物として製作されるものが試作品です。
この試作や試作品の役割とは何かを考えてみます。
構想したものが、実際に作れるかどうか、設計通りの機能・性能を実現
できるかどうか、市場で売れる値段で生産できるかどうか、といった
ことを確認するのが重要な役割になります。
しかし、もっと大きな役割に思いが至らないことが少なくありません。
試作に至るまでの開発の過程では、多くの情報が集められ分析された
ことでしょうが、それらの情報は、開発品が未だ影も形もなく言葉と
イメージだけの状態で集められたものに過ぎません。
そのような情報に基づいて設計された試作品は、市場やユーザーの期待
に充分に応えるものとはなり得ないでしょう。試作品の最大の役割は、
市場環境やユーザーの使用環境にぶつけてみて、より有用かつ適切な
情報を得ることなのです。このような行動を通してようやく見えてくる
ものが多々あるのです。
情報に関わる現場主義で、試作品や試作というプロセスを捉えますと
こうした見方が浮かび上がります。同様のことが立案段階の戦略企画に
対しても言えます。
意図が見透かされないように上手にやらなければなりませんが、立案
された戦略を経営環境や市場環境にぶつけてみて、より有用かつ適切な
情報を得ることが、戦略に実行可能性と実効性を与えることに大いに
貢献することになるはずです。
実際に販売されたり使用されたりする現場に、或いはそれを適用して
活動しようとする現場に、開発や企画のアウトプットをぶつけてみて、
反応を観察する。そうした働きかけの結果として得られる情報こそが
現場主義の成果と言えるものです。
現場はどこにでもあります。その現場に行きさえすればよい情報が得ら
れるだろうと思って現場に足を運ぶ。これは本当の意味の現場主義とは
言えないでしょう。
現場に行き、現場に対して適切な働きかけを行い、その働きかけに
対する反応としての情報を取り、既存の情報と合わせて分析し、有用な
情報（インテリジェンス）を創造する。こうした行動を生む考え方こそ
いま開発や企画に必要とされている現場主義なのです。
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