| 月刊：考研レビュー既刊分─２０１０年１１月 |
| ２０１０年１１月号 ４週：営業マンの仕事力向上を考える |
| ３週：言葉の使い方：考房だより６１ |
| ２週：タンパー・プルーフ |
| １週：改革麻痺症候群を克服する |
営業マンの仕事力向上を考える
営業マンの生産性を検討する際によく使われるのが、次の式です。
営業マンの：（生産性）＝（稼働率）×（営業能力）
生産性 ＝売上高／全時間
稼働率 ＝営業活動時間／全時間
営業能力＝売上高／営業活動時間
生産性とは、営業マンが働いている時間でどれだけの成果（売上高）
を上げているかを表します。
稼働率とは、営業マンが働いている時間のうち、どれだけを営業活動に
振り向けているかを表す比率です。
営業能力とは、営業活動に振り向けている時間を使ってどれだけの
成果（売上高）を上げているかを表します。
このように表現しますと、営業マンの行動と能力の大まかなところが
見えてきます。稼働率から判ることは、時間の使い方の良し悪しです。
営業能力から判ることは、営業活動の内容の良し悪しです。営業マンの
仕事力の重要な要素はこの２つだと言えます。
たったこれだけのことでもリーダーが把握できれば、各営業マンへの
おおよその指導のポイントが見えてきます。即ち、時間の使い方を指導
するのがよいのか、営業スキルの向上を指導するのがよいのかを判断
することができるようになるということです。しかし、これだけでは
具体的な指導ポイントを掴むことは困難でしょう。
稼働率から判断できることは、営業活動時間と営業活動以外に使って
いる時間との比率だけです。営業活動時間の中には、商談のための資料
作りの時間もあれば顧客面談時間もあります。顧客面談時間のうちには
全く無駄に終った面談の時間もあれば有効面談時間もあります。
有効面談時間という視点から見ますと、それは時間の使い方のみに
帰するのではなく、営業活動の内容にも関係していることが判ります。
このように見ていきますと、時間の使い方をさらに具体的な要素に分解
する必要があることが判ります。
営業能力から判断できることは、営業活動時間の１単位あたりの
売上高です。これによって営業能力が高いか低いかは判りますが、どの
能力が高いのか、どの能力が低いのかは全く判りません。
営業能力には、初訪問の顧客から信頼を得て次の訪問アポを取る能力も
あれば、商談を次の段階にステップアップさせていく能力もあります。
また、最終段階でクロージングに持ち込む能力もあります。
このように受け止めますと、営業能力についてもさらに具体的な要素に
分解して捉える必要があることが判ります。
こうした考え方を適用して営業マンの仕事力を捉えることができれば
リーダーが各営業マンの仕事力向上のポイントを掴むことが容易になり
有効な指導が可能になります。
営業マンの仕事力向上のために、このような分析的な手法を有効に活用
したいものです。ある一つの分析事例を下記に紹介しておきます。
営業マンの：
（仕事力）＝ （稼働率）×（面談効率）×（面談成果率）
×（ステップアップ能力）×（クロージング能力）
×（ターゲティング能力）
仕事力 ＝売上高／全時間
稼働率 ＝営業活動時間／全時間
面談効率 ＝顧客面談時間／営業活動時間
面談成果率＝有効面談時間／顧客面談時間
ステップアップ能力＝ステップアップ顧客数／有効面談時間
クロージング能力 ＝クロージング顧客数／ステップアップ顧客数
ターゲティング能力＝売上高／クロージング顧客数
一人一人の営業マンについてこれだけの分析数値が明確になれば、
時間の使い方、および営業活動の内容について、何を改善する必要が
あるかが明確になり、仕事力の向上に向けてリーダーが適切な指導を
行うことができるようになるでしょう。
リーダーの指導の内容については、また別の機会に触れます。
言葉の使い方：考房だより６１
「言葉の役割」というテーマが上がっていました。開始に先立っての
歓談で、テーマのイメージが大き過ぎるので話の対象を絞った方がよく
ないか、との意見がありました。
絞るのが困難なので、言葉に関して思うこと、感じることを自由に放談
しようということになりました。言葉の使い方が仕事で重要な位置を
占めるような人たちばかりでしたので、成り行きとしてタイトルに示す
ような談論となりました。
・日本人が１対１で議論をすると、気まずい空気が生成されるという
結末になりやすい。一方、アメリカ人の議論を見ると、早いうちから
ディベイトで鍛えられている彼らは、日本人以上に激しく議論するが
それが終ると再び和気あいあいの関係に戻ることができる。これも
言葉の使い方の問題なのだろうか。
・日本人は皆仲間だという意識が底流にある。だから、相手と考え方が
合うのは当然だと感じている。一方、アメリカ人は異文化の集りの
中で生きている。だから、自分と異なる考え方を持つ人間がいるのは
当り前のことだと思っている。その違いがもたらすとも考えられる。
・感情言語が主体となる日本人の会話と、論理言語が主体となる
アメリカ人の会話との違いによる影響も大きいと思う。
・この問題の解決にはファシリテーションを活かせると思う。ファシリ
テーションの狙いの基本は、信頼関係を作ることだ。そのために必要
なことは、まず相手の言うことを１００％受け止めて聴くことだ。
相手の話が終ったら次に自分は何を言おうかと考えながら聴いている
人たちが実に多いが、それではダメだ。
双方が好ましい聴き方をすれば、自分が主張するということの本来の
意味が重みを増し、対話や議論がうまくいくことになるだろう。
・かなり以前のことだが、「おうむ返し」対話の訓練を受けたことが
ある。自分の主張をする際に、前置きとして必ず相手の主張をおうむ
返しすることを義務付け、それに絡めて自分の主張を述べるという
対話法だ。意見の違いがあっても和気あいあいと議論を進めることが
できたと記憶している。
・場の雰囲気を壊さずに、うまく自分を相手に伝えるためのコミュニ
ケーションにアサーションと呼ばれるものがある。このスキルやテク
ニックも有効な言葉の使い方を示していると思う。
・同じ言葉でも、感情の在り方によって違った意味を発したり、違った
意味に受け止められたりするものだ。感情がすれ違った状態では、
いくら論理的に筋が通っている話でもうまく伝わらない。
・初対面あるいはそれに近い対話の場合、先ずは論理的な会話は避けて
感情をすり合わせるような会話から入るのがよいだろう。感情的な
言葉を使う場面と論理的な言葉を使う場面との演出が重要だ。
・議論の場合１対１を避け、そこにもう１人入れて３人で議論をすると
いう方法もある。２人が気まずいことになりそうな時、もう１人が
自然に緩衝役を担ってくれることが多いものだ。
・勝った負けたの感情を持たないように訓練しておくのも効果的だ。
勝ったと感じた時には自分を抑え、負けたと感じた時には怒りの情を
抑えることができるようになることだ。
・議論の当事者が勝ち負けの判断をできないようにするのも一方法だ。
即ち、アメリカの大統領選挙のテレビ討論方式だ。判断するのは、
第三者である聴衆の一人一人だ。
・質問会議というものがある。相手に対する反論をせず、質問を重ねる
ことで進めるものだ。
・質問には質問で答える、というコンサルタントの技法もある。相手に
考えさせる方法の一つであり、過激な主張の衝突にはなりにくい。
・究極の質問と言われるものがある。相手の主張に対して「それで...」
を繰り返す質問だ。これも相手自身が考えて何かに気付くことを促す
ための方法の一つだ。
・日常的に次のようなことを心掛けるとよいだろう。
＊自分と違う意見であっても、なるほどそういう考え方もあるのかと
感じることに関しては詳しいところまで聴く。
＊議論は情報量を多くしたほうがうまく回る。
＊伝達事項も文書で伝えるよりも、情報量の多さや安心感の持てる
話し言葉で伝える方がうまく伝わる。
＊聴くこと、聞くことを重ねて本音を知ることに努める。信頼感は
そこから生まれる。
・言葉の使い方や議論に関してスキルやテクニックだけを求め、人間性
を高めることを忘れると、何をやってもうまくいかないだろう。
・ヨットマンとしての長い経験から見えてきたことがある。夫婦２人で
クルーズやレースに参加したペアーは８割が離婚に至っている。何故
だろうかと考えた。
洋上での激しい言葉のやりとりが原因のようだ。実際、未熟な者ほど
危険度の判断が適切ではなく、危険度がそれほど大きくない事態にも
激しく強い言葉を発することが多い。
こうしたことが、相手のレベルを尊重することを忘れさせ、相手に
合わせて言葉を選び適切な話し方をすることを遠ざけてしまっている
ようだ。ここに、言葉の使い方の一つの様相が現れていると思う。
対話の中で、対話の行方がどうなっていくのかを事前に察知し、ある
いは予測し、適切な言葉を選び、適切な話し方を考えながら進める
ことが重要だ。その上で自分の意見を述べたり主張したりすることが
対話の成功をもたらすのだと思う。
以上のような内容でした。仕事や生活の場面で参考になる部分がある
ようでしたら幸いです。
タンパー・プルーフ
フール・プルーフという言葉は広く知られています。製品を良く知ら
ない人たちが誤った操作をしたり誤った使い方をしても、危険や危害が
発生しないような機能を製品に組み込むことを言います。
機械や装置に適用されることが多く、起動しない、安全に停止させる、
圧力を逃がす、といった機能が組み込まれます。安全を旨として製品を
設計する際には、きわめて高い重要度を持つ考え方です。
フェール・セーフという言葉もよく耳にします。言葉通りに解釈し
ますと、失敗やミスが発生したら安全側の状態にして維持する、という
ことになります。
機械や装置で言うならば、故障が発生しても、その２次的影響が及ば
ないようにし、尚かつ故障状態でも安全側の状態が維持されるように
設計するということです。
フール・プルーフやフェール・セーフの考え方を採用して設計された
機械や装置はきわめて安全度が高いと受け止められています。実際に、
運転中の操作ミスや故障によって発生する可能性の高い、重大事故や
人的被害を防止するのに大いに貢献しています。
しかし、これだけでは防げない故障や事故の可能性もあります。それは
人間に、いたずら心や自分勝手な心があることに起因しています。
せっかく安全装置を付けておいたのに、運転に若干の不便があるからと
いう理由でこれを取り外すことがあります。こうしたことが好奇心など
から行われることもあります。
このようなことに起因する事故や人的被害を防止しようという考え方を
タンパー・プルーフと呼んでいます。例えば、安全装置を取り外せない
ように設計することなどがこれに該当します。
製品やシステムの操作において、操作性と安全性が表と裏の関係に
あることが多いものです。安全性を厳しくすると操作性が悪くなる、
といったことはよくあることです。
このような場合、操作者が自己流に安全装置を改造したり、好奇心など
から、安全装置を取り外して危険な場所へアクセスしたり、決められた
安全確保の手順を省略するといった、事故や人的被害につながる行動を
取る者が必ずいます。こうした行動をタンパー行動と言います。
タンパー行動には次のようなものがあります。
１）手を加える、いたずらをする
２）不当に変更する、勝手に開封する
３）障害物を排除してその先に接近する
４）馬鹿げたことや危ないことをしようとする 等々
タンパー・プルーフはフール・プルーフやフェール・セーフに比べ、
より確実な危険の封じ込めを狙う考え方だと言えます。高度な技術を
駆使し、知恵を絞り、工夫を凝らしてフール・プルーフやフェール・
セーフを実現したのなら、それが無効になってしまう危険性を防止する
タンパー・プルーフを是非採用したいものです。
ここまで機械や装置の安全について話を進めてきましたが、安全とは
モノだけに関係している訳ではありません。企業や行政などの組織は
常に安全を求められており、そのための基準やルールも制定されて
います。
最近よく話題に上る、個人情報漏洩問題や企業の内部統制の問題、
そして地球環境への影響の問題などが、組織を運営する上で重要な安全
問題になっていると言えるでしょう。
こうした安全を確保するために必要なものが組織の設計です。それは
組織の運営の方法やルールに関わるもので、機械や装置で言えば運転に
相当するものだと言えます。
こうした組織の運営を対象にして安全設計をする際に、機械や装置の
安全を追究する中で生まれてきた考え方が有効だろうと考えることは、
そう不自然なことではないでしょう。
安全な組織運営のために、フール・プルーフ、フェール・セーフ、
そしてタンパー・プルーフの考え方を取り入れて、組織運営のルールや
体制を設計するのがよいのではないかと思います。
改革麻痺症候群を克服する
多くの企業や団体などの組織では、改革運動や改善活動が行われて
います。しかし、運動や活動の成果は上がっているかと問われますと、
答はまちまちのようです。それどころか、上がっていると思い込んで
いる組織の中には、それが錯覚に過ぎないものもあるのです。２件ほど
例を上げてみます。
Ｅ社では種々の経営改善手法を取り入れ、それなりの成果が上がって
いると思っていました。管理者育成特別コース、ＴＱＣ、組織開発、
生産性向上手法、ＩＳＯの認証取得、プロジェクト推進活動、といった
ものです。
長期間にわたってこれだけの実績を積み重ねてきたのですが、同社の
経営幹部の一人は、改善活動がうまく進まないと感じていました。
仕組みづくりの上でも、仕組みの運営や実行の上でも、同社のやり方は
ほぼ完璧に近く、優等生と言えるものでした。しかし、好ましい結果が
出ていないというのです。
その理由を明らかにするために、ヒアリングによる詳細調査が行われ
ました。それを通して判ったことは、一人一人の社員の改善活動に
対する認識、責任感、意欲などが希薄であるということでした。
さらに、自分の仕事、改善の活動、会社の事業という三つのものが、
一人一人の社員の意識の中で適切に関連づけた形で捉えられていない
ということも見えてきました。
Ｗ社は、「社長の肝いり」で、ＩＴ活用推進プロジェクトを立ち上げ
ました。選任されたメンバーたちは、日々の業務を抱えて多忙でしたが
連日のミーティングに参加していました。
やがて、具体的な策が見えてきましたが、社内のあちこちからできない
理由が聞こえててくるようになりました。それを受けて修正を重ねて
いるうちに、実施策は骨抜きになり、メンバーたちの行動も勢いをなく
していきました。
そんな状況下で聞こえてきたのは、近々コスト削減プロジェクトが立ち
上がるという噂でした。
この２つの例は、次々と改革運動や改善活動を立ち上げて推進して
いるという事実を、改革や改善の成果が出ていることと思い違いをして
いる状態を示しています。このような状態は、改革麻痺症候群に陥って
いると言えるようです。
Ｅ社の社員たちは、次から次へと立ち上がる改善活動に対応するだけで
精一杯で、自分の仕事への効果や会社の事業への貢献を考えることが
できなかったのです。
改革運動や改善活動に対応する行動を取っているだけで、活発に活動
していると思い込む社員と、それを見て運動や活動の成果が出ていると
思い違いをしている経営陣の存在が、改革麻痺症候群の典型的症状だと
言えます。
Ｗ社の場合は、先行するプロジェクトに具体的な成果が出ないままで、
次のプロジェクトが立ち上がるという、これから改革麻痺症候群に
陥っていく危険な状況にあると言えるでしょう。
改革麻痺症候群に陥らないために、そして陥ってしまった状態から
脱するために必要なことは、どのような成果を出すかを目標として
鮮明に描いて、目標を達成するための実行を徹底することです。
成果を出し、それを「見える化」することによって、改革運動や改善
活動の意義が誰にでも明確に理解できるようになります。そうなれば、
社員たちは運動や活動に対する認識、責任感、意欲などを高め、でき
ない理由が噴出することも少なくなり、本当の意味での活発な活動が
実現します。
実行の徹底は「仏つくって魂入れず」といった状態から脱却する最善の
方法なのです。
運動や活動の実行を徹底するには、要件が３つあると一般的に言われ
ています。それは次の３つです。
・動き出す前に適切なお膳立てをする
・進路の前方にある障害を取り除く
・持続するための工夫をする
適切なお膳立てとは、部門の利害を超えて全社として何を取り上げ
何を捨てるか、について優先順位に基づいて共通認識を作ることです。
これを基本方針として「見える化」し、判断や行動の基準として機能
するようにするのです。
これによって、活動を忌避するためのできない理由は排除されるように
なり、一人一人の活動の意義が理解できるようになります。
障害を取り除くとは、環境の変化や遅れの発生などに関して、以後の
活動を進めていくために何が障害になるかを特定する仕組みを作り、
これを機能させることです。
その仕組みには、会議、ミーティング、レビュー体制などが考えられ
ますが、実状に合ったものにする必要があります。即ち、どのレベルで
やるか、特定する主体のメンバーを誰にするか、どのような決め方を
するか、を実状に最も合っていると思えるかたちに制定するのです。
この仕組みを通して、活動の障害を特定し、これを取り除くための
方策を決定し、基本方針に基づいた実行を促すことになります。
持続するための工夫とは、活動推進チームの結論を押し付けるような
進め方をせず、業務の現場の参加意識を引き出し、これを高めることに
心を砕くことです。
例えば、活動推進チームの結論を業務の現場に展開する際に、チーム
メンバーが現場に足しげく通い、現場展開の問題点を現場スタッフと
一緒になって積極的に把握し解決に努める、といったことも一つです。
このような現場展開が深まり先が見えてきたところで、引継ぎのための
ミーティングやイベントを行うのがよいこともあります。
このようにして、改革麻痺症候群を克服しようとする訳です。
しかし、この３つの要件も形式的にやっつけるようなやり方では効果は
生まれません。そんなことでは、結局「仏つくって魂入れず」の状態に
なってしまうからです。
実行の徹底こそが作った仏に魂を入れることになると、強く意識して
上記の３つの要件を実現することに心を砕き、改革運動や改善活動を
成功させるようにしたいものです。
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