| 月刊：考研レビュー既刊分─２０１１年１２月 |
| ２０１１年１２月号 ４週：新規事業はプロセス革新から |
| ３週：こんなチームを作ろう |
| ２週：新米営業マンに対して：考房だより７４ |
| １週：物事の見方を多様化する |
新規事業はプロセス革新から
イノベーションという言葉が、経済界や産業界のメインストリートを
大手を振って歩いているといった様相が顕著になりました。今の現実が
それを要求しているのは間違いないようです。
イノベーションと聞くと、技術革新や新製品開発が思い浮かぶのが
一般的ですが、需要を掘り起こして新市場を開拓するといった視点から
捉えますと、技術革新や新製品開発は必須という訳ではないようです。
成熟して技術革新や新製品が生まれにくい分野でも、業務プロセスを
変革することで需要の空白地帯を掘り当て、事業にイノベーションを
起こすことは可能なのです。こうしたタイプのイノベーションのことを
プロセス革新と呼んでいます。
プロセス革新のポイントは幾つかあります。代表的なものを上げて
みますと、つぎのようなものが浮かびあがります。
１）異種モデルを転用する
狙う市場とは別の市場で通用しているプロセスを持ち込む
２）顧客と協働する
商品企画や販売促進のプロセスに顧客に主体的に参加してもらう
３）価値の選択と集中を実行する
プロセスを見直すことで顧客にとって重要性が低い価値を切り
落し、本来訴求したい価値を際立たせる
４）需要の空白地帯を突く
従来需要が無いか小さいと見られていた分野や領域に入り込む
こうしたことを実行するには、現場の業務プロセスの変革を避けて通る
ことはできません。実行しようと決めた時点でプロセス革新がスタート
することになります。
上記に４つ上げましたポイントは、どれも実際に成功した事例が存在
しています。考え方や論理の説明よりも、事例のほうが解りやすいと
思いますので、これを紹介します。
１）の典型的な事例は、介護事業に外食事業のプロセスを持ち込んだ
居酒屋チェーン大手のワタミでしょう。老人ホーム運営会社を買収した
同社が気付いたことは、これまでの業務プロセスがサービスではなく
措置に陥っていた、ということでした。
同社はこの業務プロセスを変革することに取り組み、業務を「入居者と
直接触れ合うもの」と「それ以外のもの」とに分類しました。前者に
つきましてはサービス水準を明確に定め、現場の意識改革を促す研修
などを実施しました。
同時に、個々の業務を効率化するために勤務シフトの最適化を追求し
ました。これを進めるに当っては、作業時間の単位を細かく設定し、
これによって時間の無駄を明るみに出し、これを少しずつ減らしていく
ことに取り組んで従業員のだぶつき現象を一掃したのでした。こうした
プロセス革新は外食事業で培われたものに他なりません。
一方、後者に対しましては、専門ノウハウを持つグループ会社が代行
することにしました。例えば、施設内の設備の保守や清掃といったもの
です。これも外食事業で現実に行われてきたことです。
こうして業務効率を高めながら、従業員の負担を減らし、入居者と直接
触れ合う業務に集中できるようにし、サービス品質の向上を実現したの
でした。
２）の事例は、良品計画の商品企画のプロセス革新です。商品企画の
プロセスでは、従来は企画担当者が頭をひねってアイデアを生み、競合
他社に秘密が漏れないようにして社内で取り組むのが一般的でした。
同社はこの考え方を脱し、デザイン会社のエレファントデザインが運営
するサイト内で「空想無印」というページを運用して、顧客から商品
企画のアイデアを募ることを基盤として、プロセス革新を行いました。
新しいプロセスは次のようになりました。
・発案者の顧客が空想無印で企画を披露する。
・この企画を別の顧客が閲覧し、改良すべき点を指摘したり、購入
したいという賛意を投票したりする。
・意見を参考に発案者が改良を施し、さらに企画をもむ。
・これらの過程を経て企画への賛同者が１０００人分集ると、同社が
商品化を検討する。
・顧客の仮予約が３００人分集れば正式に商品化が決まる。
このプロセスによる第１号商品「貼ったまま読める透明付箋紙」は、
当初予想の１０倍以上の売上げを記録しました。
３）の事例として上がってくるのは、化粧品市場に参入して成功した
ロート製薬のプロセス革新です。同社は２００２年に本格参入して
初年度売上高１３億円から２００８年度売上高１８０億円へと成長した
のです。
同社の主力商品は、肌への保湿成分を訴求する「肌研（ハダラボ）」
シリーズなど、機能性化粧品です。新市場を開拓するために同社は、
競合他社とは全く違うプロセスを持ち込みました。
大手化粧品メーカーが押さえているマス顧客を狙わないこと、感性的な
訴求をやめて機能性を徹底して訴求すること、などを踏まえて、新しい
業務プロセスを構築していったのです。それは、
・有名女優が登場する派手な広告宣伝をしない。
・おしゃれなパッケージはいらない。「ヒアルロン液」などと大書した
素っ気ないものでよい。
・機能性に集中して、無香料とする。
・従来から強みを持つドラッグストア市場に集中する。
といった選択から生まれてくるプロセスです。こうして、本来訴求し
たい価値を際立たせるプロセス革新が実現できたのです。
４）の事例は、江崎グリコが２００２年に始めたオフィス向け菓子
直販事業「オフィスグリコ」です。典型的な成熟市場である国内菓子
市場の中で、オフィスグリコは２００７年度に３０億円の売上高を上げ
ました。その後も順調な展開を見せています。
この事業は、「職場における男性の菓子類消費」という空白地帯を
巧みに突いたことで成功したと言えます。ここで重要なことは、
このような空白市場を狙う場合には、従来の業務プロセスでは対処する
ことが困難だということです。必ずプロセス革新が伴います。
オフィスグリコの場合には、
・小売りを通さない直販
・品揃えの工夫と作業
・消費者の居場所に届ける「置き菓子」システム
・新しい代金回収システム
といったことが新しいプロセスの要になっています。
以上に、プロセス革新のポイントのうち、４項目の成功事例を紹介
してきました。これらのモデルの底流にあるもので、自社事業に関して
も追究できそうなものを見い出し、これを検討してみることが新しい
価値を生むことになればと期待しています。
こんなチームを作ろう
チームという言葉を知らない人はいないと言ってもよいでしょう。
それほどポピュラーになっていますが、その意味を的確に捉えている
人はあまり多くはないようです。
何かをするために複数の人が集れば、それがチームだと受け止めている
人もいるでしょう。集団で競い合う野球やサッカーなどのスポーツで、
競技をするために集った人々の集団だと思っている人もいるでしょう。
その他にも様々な解釈がなされているようです。
チームとは何かについて考えようとした時に、ふと浮かんできたことが
ありました。人々の集団の機能や在り方に変化やバリエーションが多い
企業の組織で考えるほうが、スポーツで考えるよりも鮮明に把握できる
のではないか、ということです。
そういう訳で企業の組織を取り上げて考えてみることにしました。
企業において、組織とは、グループとは、チームとは、それぞれどう
いうものか、について考えてみようという訳です。
組織とは、複数の人々が共通の目的を果たすために作るものである、
と定義されています。こうした見方から解ることは、企業そのものが
組織だということです。
企業内においても、企業の目的を果すために細分化された目的や目標が
ありますから、企業内には細分化された組織が存在します。組織図や
業務分掌規定はそれを明示している一つの形態です。
細分化された組織には組織図に現れないものもあります。特定の目標を
達成するために作られたプロジェクトチームや、改善活動を推進する
ために作られた小集団などがこれに当ります。
こうした細分化組織を、活動内容や形態に光を当てて考えてみますと
色々な在り方があることが見えてきます。営業組織では、１人１人の
営業マンが１人のマネジャーの管理下で独自に活動しているものが多い
ようです。
一方、機械の組立工場の現場組織では、複数の作業者たちが１人の
監督者の下で、自分の作業と他のメンバーの作業との関連を見ながら
作業を進めるものがほとんどです。
一般的には、１人１人の独自の活動の成果の総和が組織の成果である
と解釈できるような組織を、ワーキンググループあるいは単にグループ
と呼びます。
一方、１人１人の独自活動が不可能であったり、それが可能であっても
１人１人の成果の総和を超える成果を出すことができるような組織を
チームと呼びます。
即ち、組織の能力や成果が、構成メンバーの能力や成果の総和を超える
ことができないのがグループであり、組織の能力や成果が、複数の
人たちの間に起こる何らかの効果によって構成メンバーの能力や成果の
総和を超えることができるのがチームだという訳です。
前述の例で見ますと、営業組織にはグループが多く、組立現場の組織
にはチームが多いと受け止めることができます。しかし、実際には
こうした単純な枠に嵌めて解釈することはできないのです。
ジョン・カッツェンバック氏の定義によれば、チームとは「ある特定の
目的のために多様な人材が集り、協働を通じて、相乗効果を生み出す
少人数の集合体」とされています。
１人１人が独自に活動する営業組織でも、全員参加の営業会議を
定期的に開催するものがほとんどです。この会議がマネジャーの指示と
ヒアリングだけに使われているのであれば、この組織はグループの域を
脱することはできません。
しかし、この会議で、全員による議論、アドバイス、協力協働の検討、
営業活動改善への取り組み、といったことが行われているのでしたら、
この組織はチームになっていると言えます。
今、チームへの関心が高まっています。その背景にあるのは、成果
主義やフラット型組織が抱える問題が表面化してきたことです。成果
主義とフラット型組織の詳細についてはここでは触れませんが、問題
とは次のようなことです。
・大組織による集団主義の弊害が指摘されるようになり、１人１人の
能力が発揮されやすいようにするために成果主義が採用された結果、
組織から個人へ振り子を振り過ぎたため、１人１人が孤立して活動し
協力し合わない、といった組織風土が顕著になってきた。
・業務効率を高めるために必要な、情報の伝達スピード向上を狙って、
１人のグループ長の下に２０～３０人の部下を置くフラット型組織が
導入された結果、グループ長の指導が全員に及ばない、メンバー間の
コミュニケーションが疎遠になる、といった弊害が表面化してきた。
・上記のようなことから、協力協働の効果や相乗効果が生まれにくく
なり、組織としての生産性が低下してきた。また、後進の指導に力を
割くことが少なくなり、人材育成が滞るようになってきた。
こうした問題を解決しようとして現実化しているのが、グループ内に
先輩社員が率いる小チームを設けることです。こうした小チームが
上記の問題の解決に貢献するであろうことは、これまでの説明内容から
読み取ることができると思います。
従来の小組織（課や係）がリーダーの権限を行使するために作られて
いたのに対し、新しい小チームは、チームメンバーの協力協働、相乗
効果、育成効果を通して、個人の能力を最大限に引き出しつつ、組織の
能力を高めていくために作られていると言うことができます。
チームづくりの重要な意義はこうした点にあります。様々なケースに
応じてチームを立ち上げる機会が多々ありますが、こうしたことを
しっかりと押さえておくことが大切だと思います。
新米営業マンに対して：考房だより７４
前回の参加者から、営業に関連したテーマで意見交換してはどうか
との提案がありました。そこで今回は、新人や若手の営業マンに何を
伝えたいかについて考えながら、意見交換を行いました。
こうした中から、営業の基本、或いは基盤に置くことが浮かびあがって
くるのではないかと期待したからです。
・営業という業務にはビジネスのあらゆる要素が詰まっている。いま
思い着くものだけでも、目標達成、人間関係、共感獲得、生産性、
未知のマネジメント、動機付け、戦略、状況判断、洞察、管理会計、
といった言葉が浮かんでくる。
営業という旗印の下に、こうしたビジネスの行動項目を置いた時、
全てを横軸で通す何かがありそうに感じる。新人や若手にはそれを
伝えることが大切だと思う。
・営業という仕事をきちんとする上で、そういう業務要素を全部でき
なければいけないという訳ではないだろう。営業もチーム活動だし、
展開の過程で必要な業務要素も違ってくる。
・３０年も営業をやってきたが、不完全燃焼の感覚が残っている。それ
だけ幅が広くかつ深いということだろうか。
・自分は６０人の技術部隊に所属していたが、当時の部長が２０人を
引き連れて営業部隊に転換した。その時の行動は単純で、「とにかく
客へ」だった。しかし、客はなかなか教えてくれない。でも、客に
学ぶしかないという状態の中でノルマに苦しんだ。
・サラリーマンの営業とは少々違うが、中小企業の社長は典型的な営業
職だと言えるだろう。１０人くらいの中小企業では営業専任者を置く
ことは困難だ。こうした中小企業でも営業経験者を採用することは
ある。そんな営業マンが、社長がやっていることの基盤にあるものに
気付いて学べれば好ましい。
・以前にこの会でも話をしてもらったＭ氏が提唱するような、セールス
プロセスを理解し、その踏み方を身に付けるといったことも重要なの
だろう。また、そのプロセスの中には、セールス活動の流れと、受注
契約獲得活動の流れとがあると考えられるが、新米営業マンが基本と
して身に付けるのは、セールス活動の流れだろう。
・セールスプロセスを理解できると、自分で戦略を考えることができる
ようになり、営業活動が楽しくなる。これに熟達すれば、顧客の考え
ていることが見えてくるようになる。
・事業者間での営業で一番大切なのは信頼関係だ。これが無ければ、
どんなに上手いことをしても成功に至ることはない。いわゆるルート
セールスに従事する営業マンには、これが強く影響する。ルートセー
ルスマンの能力の差とは、信頼関係作りの能力の差だとも言える。
・新米営業マンに何を伝えるか。思い付くことを上げてみよう。
＊買う人の立場、買う人は何を思うか、を感じ取る努力をすること
＊アフターサービスやメンテナンスが営業の始まりになること
＊１人で全部はできないから、違うタイプの人と協力できるように
＊客の言うことは必ず守ること、そこから信頼関係ができる
＊相手に可愛がられるように行動すること
＊自分が喋るよりも相手に喋ってもらうこと
＊営業の先生は上司ではなく、客だということ
＊相手の当りがきつい時は、相手が苦しんでいることを知ること
＊場を取り繕ってはいけないこと、それをやると信頼されない
＊自分や自社を客に理解してもらう努力をすること
＊相手が儲かるための手伝いをするのが営業マンだということ
＊自分が活動するのに掛るコストを知っておくこと
＊顧客は売る相手ではなく学ぶ相手だということ
・営業マンにも生産性意識は必要だ。次式で表現できる。
営業生産性＝営業成果／総時間
＝（営業活動時間／総時間）×（営業成果／営業活動時間）
１項は稼働率、２項は営業能力と捉えることができる。
自分は稼働率を上げるのがよいのか、能力を高めるのがよいのか、
といったことを考える上で役に立つはずだ。
・効率の縛りから抜け出して成功している営業事例が最近報告されて
いる。営業は生産性を気にしてはいけない、という解釈もできる。
・時間をかけずにやって成功することもあるし、時間をかけなかった
のが原因で失敗することもある。一方、無駄と思われても時間を
かけて詳細な対応をしたことが成功につながることもある。
少々時間がかかっても成功につながった取組みは、「効果性が高い」
と言うことができる。あまり時間をかけずに成功につながった取組み
は、「効率性が高い」と言うことができる。
先の事例は、効率性が高いと思われる取組みよりも、時間をかけて
でも効果性を高める取組みを選択したことで成功したと解釈できる。
効率性を追求するのがよいのか、効果性を追求するのがよいのか、
ケースや状況に応じて考えなければならないだろう。
・営業マンにはゆとりの心が必要だ。じたばたしていては良い営業活動
はできないだろう。
・売ることよりも、売れる仕組み作りが営業マンの仕事として重要だ。
リピーター、口コミ、既存顧客などをどのように捉え、どのように
対応するか、といったことを深く考える必要がある。先ほど出た
アフターサービスやメンテナンスへの対応も、この仕組み作りに位置
付けられる。
・マーケティング理論は存在するのに、営業学とか営業理論といった
学問分野はできないのだろうか。
・そんなものには今まで出会ったことがない。現場に身を置き、現場を
見て自分で考えろ、ということなのだろう。営業力は人間力だとも
言えるのだから。
以上のような内容でした。新人／若手営業マンを育てるのに役に立つ
ことがあれば幸いです。
物事の見方を多様化する
私たちの生きている世界には、時代ごとに、地域ごとに、そして身を
置いている共同体ごとに、優位に立っている「物事の見方」と呼ばれる
ものがあります。
時代精神と呼ばれるもの、地域特性として認められるもの、産業界・
学界・官界ごとに特徴的な考え方、と言えば解りやすいでしょう。この
うち最も幅広い影響力を持っているのは時代精神だろうと思います。
現代を対象として思い浮かべてみますと、自由と人権の尊重、経済的
価値の重視、合理的科学的思考、といったことが時代精神として浮かび
上がってきます。中世・近世では、聖書の言葉、神の為される業、偉大
なる国王陛下の恵み、といったことが時代精神の基盤でした。
ガリレイの宗教裁判は、時代精神が大きく変る過渡期に行われたもの
です。デカルトは自著「方法序説」の中で、この裁判の結果が、自分の
考えを発表することをためらわせた経緯を述べています。
この１件は、時代精神とはそんなにも強い影響力を持つものですが、
必ずしも正しいとは言えないことを示しています。
このように受け止めますと、私たちに必要なことの一つとして浮かび
上がってくるのは、時代精神に囚われない考え方や物事の見方もできる
ようになっておく、ということです。
ではどうすればよいのか、ここで結論を出すことはできませんが、色々
と視野を移しながら考えてみることにしました。
私は月に２回民俗学の講座に通っています。そこでは、長い間私が
身を置いてきた世界とは異質の話や考え方を聴くことができます。その
講座の中の一つのお話を紹介します。
岐阜県の飛騨高山のさらに奥地に「かずら村」という村があります。
昭和４３年に集団離村となり、現在は廃村となっています。離村時には
８戸の合掌造りの家屋がありました。
現在は村の全部を個人が買い取り立ち入り禁止になっています。人間の
出入りがほとんどなくなったため、熊が増えており立ち入りは危険だ
とも言われています。
集団離村の３年前の昭和４０年にこの村で撮った写真が、数枚残って
います。撮影者は生存し特定されています。村の風景の写真ですが、
この中に就学前と思われる一人の童女が写っていました。
離村という歴史的事実とその３年前にそこに居た童女、その組合せに
民俗学講座の講師の先生は大いに興味をそそられ、一つの企画に思い
至りました。
その村を訪ね、現地に流れる雰囲気や時間と空間を体感し、写真の
童女に関する聴き取り調査で情報を集め、今や５０歳くらいになって
いるその女性を探しあて、彼女の村の生活や離村後の人生を語って
もらい、それを記録に残そうという企画です。
こうした立ち位置から人間の在り方を見るのが民俗学です。これに
対して、集団離村という歴史的事実を、その発生原因、その後の経緯、
経済発展や政治的状況の推移との関連、社会意識の変化、といった側面
から見るのが歴史学だと言えるでしょう。
人間の在り方を掴むに当たって、民俗学が、１人１人の人間ごとに
思いと行動が違うことを前提にしているのに対し、歴史学は、ある一つ
の時代に、ある一つの環境の下で生きる人間の思いと行動は皆同じだ、
ということを前提にしています。
同じようなことが、社会学と経済学との間にも言えるようです。
文化や階層、性別によって見えるものが違う、というのが社会学の基本
となる考え方です。即ち、その人の属性によって、考え方、意識、行動
様式が異なると受け止めるのです。
社会学の始祖と言われるマックス・ウェーバーは、こうした考え方の
下に、カトリックを信じる人よりもプロテスタントの人に実業家が多い
という事実から、その根本理論を説き起こしています。エミール・
デュルケムも自著「自殺論」の中で、同様の理論を説いています。
これに対して経済学では、人の行動は全て同じであることを前提とし、
貨幣価値という一つの尺度で全てを測定して、理論を説いています。
民俗学と歴史学や、社会学と経済学、といった対比の中から浮かんで
くるものがあります。それは、人間の在り方を捉えるに当たって、１人
１人の人間行動や人間の属性の違いに注目するか、それとも同時代に
同一社会で生きる人間は皆同じだと前提するかによって、見えるものが
違ってくるということです。
今の時代精神が、歴史学的および経済学的な物事の見方のほうに重心を
置いている、ということは多くの人たちが認めるところだと思います。
しかし、人間の在り方の本当の姿を捉えようとする時、どちらが適切
なのかについては断言することはできないでしょう。
社会の多様化が進んでいる今、人間行動を一律に捉えるような物事の
見方からは答が見えてこない問題が目立ってきました。それとともに、
個々の人間行動、あるいは属性によってセグメント化された人間行動の
違いを明らかにすることへの要求が高まっています。
もちろん時代精神の主流となっている物事の見方は重要です。しかし、
それに埋没することなく、他の立ち位置からの物事の見方を持つことも
必要になっているのです。
物事の見方を多様化することは、新しいことに踏み出し新たな進歩を
獲得するために、どうしても必要なことだと言えそうです。
このページで解説されている内容の実践について、無料相談を承っております。
下記アドレスにＥメールでご相談ください。
hiro.oshima@nifty.com
現象考学研究所
有限会社 考研経営企画
〒655-0854 神戸市垂水区桃山台５－７－７
PHONE:078-755-2276 FAX:078-752-9097