| 月刊：考研レビュー |
| ２０１６年 ７月号 ４週：創造的なアイデアが湧く条件 |
| ３週：獲得と引き換えに失うもの |
| ２週：真似されることについて：考房だより１２９ |
| １週：自分の行動が環境変化を生むとの認識 |
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創造的なアイデアが湧く条件
イノベーションが叫ばれ始めたのは、かなり以前のことです。そして
それは今も続いています。こうした状況は、未だイノベーションが満足
に起こっていないことを示しているのでしょうか。
それとも、イノベーションは或る一時に必要だというのではなく、常に
必要だと認識されるようになったことを意味しているのでしょうか。
恐らく、後者の受け止め方のほうがが妥当だろうと思われます。
イノベーションに欠くことのできないなものの一つは、クリエイティ
ブな、或いは創造的な思考や行動、状況を感じ取る知覚能力や感性、
といったものです。こうしたものが何時、何処で、どのように機能する
かが、イノベーションにとってきわめて重要です。
即ち、イノベーションを起こすためには、創造的なアイデアが不可欠で
あり、それが湧いてくるために必要な能力と環境が揃っていなければ
ならないのです。これに関する調査の一端を以下に紹介します。
一般的に、創造性は遺伝的なものだと思われていますが、実際には
そうではないようです。創造的なアイデアの多くは、或る種の「行動
スキル」と「用意された環境」から生まれるようです。
約５００名のイノベーターと約５０００名の経営幹部を対象にした
或る比較研究から結論付けられたのは、イノベーターには特長的な行動
スキルが５つある、ということでした。
その１は、関連づける力です。普通の人には無関係に見える分野や問題、
アイデアなどを結びつけ、新しい方向性を見出す能力のことです。
その２は、質問力です。現状に異議をとなえるような質問や、挑発的な
質問、直感に反するような質問を連発し、新しい洞察を誘発する能力の
ことです。
その３は、観察力です。周りの物や状況を具に観察し、それを通して
新しいやり方のもとになる洞察やアイデアを獲得する能力のことです。
その４は、ネットワーク力です。自分と違う背景、考え方を持つ人たち
との出会いを求め、多様な分野の人たちとの交流を通じて物事を異なる
観点から捉える能力のことです。
その５は、実験力です。現実のものやプロセス、アイデアなどを分解し、
その仕組みを理解し、新しいアイデアに結び付ける能力のことです。
以上のような行動スキルの組み合わせの中から、創造的なアイデアが
湧いてくる、という訳です。しかし、このような行動スキルが効果的に
機能するには、しかるべき環境が用意される必要があるようです。
関連づけることを取り上げてみます。関連づけることからアイデアを
生むために必要なものは連想です。ところが連想のバリアーと呼ばれる
ものがあります。これは、或る言葉を見聞きした際に、無意識のうちに
起きる、他の可能性を受け入れられなくような連想のことです。
このバリアーが高いと連想からの関連づけは生まれません。従って、
関連づける力を発揮するためには、連想のバリアーが低くなるような
環境が必要なのです。
こうした環境の下で、過去の経験とはほとんど関係のないアイデアや
概念を結び付けたり、論理的に飛躍のある連想をすることの可能性が
生まれます。
私たちには、教育を受けたり仕事に取り組んだりしてきた過程で、
物事を受け止めたり考えたりする方法や常識が身に染み付き、これが
思い込みとなっていることが多々存在しています。
このような与えられた物の見方から自由になることは、思い込みを逆転
させたり、違う視点に立って物事を見るために、そして上記の５つの
行動のスキルを機能させるために、欠くことができません。
創造的なアイデアとは、様々な概念を通常とは異なるやり方で組み合わ
せた時に湧いてくるものですから、このようなことができる環境が必要
なのです。
用意されるべき環境とは、様々な文化に触れることができる環境や、
様々な専門分野の人たちに触れる環境です。これを組織内に用意するの
もよいでしょうし、組織外に求めることができるようにするのもよいで
しょう。
文化はルールと伝統によって定まっています。ルールと伝統は一定の
思考と行動の様式をもたらします。社交的な文化もあれば内向的な文化
もあります。チームワークを大切にする文化もあれば個人の活動を柱に
据えた文化もあります。それぞれの文化の価値基準にも一定の普遍性が
あります。
専門知識や専門分野についても同様なことが言えます。分野が違えば
ルールや伝統が違っています。同じ対象を扱っていても、学問分野と
産業分野では多くのことが違っています。芸術の世界、科学研究の世界、
そしてモノづくりの世界でも、ルールや伝統が異なっています。
以上のような環境の下にあって、上記しましたようなことが機能し、
創造的なアイデアが湧いてくると受け止めることができます。
獲得と引き換えに失うもの
生産性を上げることは、産業界で仕事をする人たちのほとんど全員が
これまで取り組んできたことですし、今も取り組んでいることです。
生産性を上げることは、経済全体にも、個別の企業にも次に示すような
メリットをもたらしてきました。
・製品やサービスを安価に大量に提供できる
・欲しいものを容易に入手できる
・企業に利益をもたらす
・経済成長もたらす
そしてこれからも、生産性向上は取り組むべきことであり、継続的に
取り組まれるでしょう。
生産性向上と言えば先ず頭に浮かんでくるのは、効率を上げること
（効率性）、短時間で処理すること（迅速性）、そして利益をもたらす
こと（収益性）です。
企業が業績を上げるためには、この３項目を欠くことはできません。
また、一国の経済が競争力を保つためにも不可欠です。だからと言って
これを無限に追求することが正解とは言えないことも多いのです。
人の心や感性に関わることの場合、生産性向上の意味をもっと広く
捉える必要があります。次のような事業を取り上げてみます。
・顧客の感性に訴えることが重要である事業
・働く人の感性に依存するような事業
・顧客が求めているものが、質、雰囲気、デザイン、といった事業
こうした事業では、効率性や迅速性以上に重要なものがあります。店や
職場が醸し出す雰囲気、心地よい人間関係やコミュニケーション、商品
から感じる高級感やフィット感、といったものです。こうしたものを
適切に実現することが、事業の生産性向上につながります。
上記の３項目の間で相反することもあります。効率性と迅速性を追求
しているうちに、かえって収益性を悪化させた事例などです。過度の
効率性追求が職場の雰囲気を悪化させ、働く人たちのモチベーションの
低下を引き起こし、結局は収益性を落としてしまった、というような
ことです。上記しました３つの事業例の場合、このようなことが起こり
やすいと言えるでしょう。
調べてみますと、こうした相反は必ずしも上記のような事業にだけ
起こっている訳ではなさそうです。消費者相手ではない堅いイメージの
モノづくり企業でも、起こっているのです。
生産性を徹底的に追求し、コストパフォーマンスが高くリードタイムを
極少化できる業務の仕組みを実現して、高い収益性が実現可能になった
と信じていた企業が、業績が向上しなかった事例が散見されるのです。
効率性や迅速性を実現する仕組みを構築すれば、数字上では収益性が
上がる条件が整います。それだけで業績向上を獲得できると考えたこと
に間違いがあったようです。
仕組みというハードの下で思考し行動するのは人間というソフトです。
人間の思考と行動は自分の置かれた環境に大きく影響を受けますから、
新たに導入されたハードの影響で、思考と行動が変わります。
これまでは顧客の思いや要求を察する心を持っていた、営業従事者も
生産従事者も新しいハードに順応するに従い、それを失うといったこと
も起こり得ます。チームの在り方も変わってくることもあり得ます。
生産性を上げるために余計なことを考えるな、というようなハードの
縛りがあれば、その中でしか動けなくなってしまうのです。こうして
これまでは当たり前だったことが行われなくなり、それが業績を支えて
いたようなケースでは、業績が伸びなくなってしまうのです。
以上に紹介しましたようなケースで課題を上手に克服しようとする
際に、考えるべき重要なことがあります。それは、或るものを獲得する
場合にそれと引き換えに失うものは何かを真剣に考えることです。その
上で、失うべきでない重要なものを持ち続ける手立てを考えることです。
その実例を一つ紹介します。コーヒーチェーン「スターバックス」の
危機と再生の事例です。
スターバックスの創業者ハワード・シュルツは２０００年にＣＥＯを
退任しました。その後の５年間、同社の拡大は勢いを増し、店舗数は約
３倍の９０００店に達しました。
同社の事業はコーヒーだけではなく、音楽や書籍、映画などエンターテ
インメント分野にも拡大していきました。書籍の販売ではベストセラー
を何冊か出して、無名の作家たちの名を世に知らしめたこともあります。
こうしたエンターテインメント分野への拡大進出には利点もあったよう
ですが、それが自分たちが無敵だという考えから生まれた思い上がりの
兆しだったことに、シュルツが気付くのは後々のことでした。
２００６年に入りますと同社の業績は悪化し始めました。顧客単価が
減り始めたのです。そして２００７年の夏には、来店客数の伸びは過去
にないほど落ち込みました。
こうした状況の下、世界中の店舗を何百と訪れる中で、シュルツが
感じ取ったのは、スターバックスが何か本質的なものを見失ったという
ことでした。それは、全体的な雰囲気とか精神といったものです。
同社の店舗には新たなエスプレッソマシンが導入され、効率性が改善
されていました。ところがこのマシンのせいで、カウンターの中にいる
バリスタが飲み物を作るのが見えなくなっていました。
店舗で挽いていたコーヒーの粉を、一つの拠点で挽いたものを各店舗に
出荷する方式に変えたため、挽き立てのコーヒーから立ち上る重厚な、
豊かな香りがほとんどしなくなっていました。
店舗デザインも、効率化を追求するあまり過度の簡素化がなされ、温か
さや居心地の良さが失われていました。
バリスタの動く姿、コーヒーを挽く香り、近所の人たちが集まる所、
といったことが、ここがスターバックスであることをお客様に示す最強
のシグナルであり、同社の伝統であったはずです。この伝統がサービス
の効率性、迅速性や、店舗数の拡大という収益性を得ることと引き換え
に失われていたのです。
２００８年１月、シュルツはＣＥＯに復帰しました。そして２月、
米国内の７１００店舗全部を一時的に閉鎖し、完璧なエスプレッソを
作るために１３万５０００人のバリスタの再教育に乗り出しました。
「スターバックスはコーヒーを売るだけの企業ではない。しかし、コー
ヒーがおいしくなければ、私たちの存在意義はなくなる」という考えの
下に、本来のスターバックスを取り戻すべく打ち手を重ねて行き、再生
を果たしたのです。
効率性と迅速性と収益性の獲得と引き換えに、自社にとって大切な
ものを失ったことに気づき、そこから再生したスターバックスの事例は
多くのことを教えてくれています。
真似されることについて：考房だより１２９
自社の競争力を維持するためには、真似をされないように工夫する
ことが大切だとの所論を掲載しましたところ、異論を頂きました。
「真似をされて初めて一人前」「真似をされるための工夫もある」と
いうものです。多面的に物事を捉える上で大変貴重なものと受け止め
ましたので、紹介させて頂くことに致しました。
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＜掲載記事＞
◎真似をされないための工夫◎
競争相手から真似をされると、自社の競争力は削がれることになり
ます。製品でも事業そのものでも同じことが言えます。そこで、自社の
競争力を維持し真似をされないために、特許などの知的財産権が活用
されます。最近はビジネスモデル特許によって、事業のやり方にも
特許権が発生しています。
特許などの知的財産権によって自社の権利を守ることは大変重要な
ことですが、それだけで充分だとは言えないようです。自社の競争力を
完璧にするには、周辺特許も含めて数多くの特許を取得しなければなり
ません。
これを怠りますと、その特許で実現しようとしていることを他の方法で
実現する特許逃れの可能性が高くなり、特許によって強化を目論んだ
競争力は力の弱いものとなってしまいます。
周辺特許を網羅した緻密な体系を築くには多大な労力が要求されます。
また、多数の特許を申請し、取得した特許を維持するためには、小さな
企業にとってはかなり負担の大きい費用が必要になります。
維持費用が払えなくなりますと特許権は失われ、誰にでも利用できる
公知の事実となってしまいます。そんなことになれば、特許を申請した
企業は申請費用を支払って自社の技術やノウハウを一般公開しただけ、
といった悲惨な状態に甘んじなければなりません。
こうした理由から、中小企業では意図的に特許を申請しないケースも
少なくありません。特許を申請しないことで自社の技術やノウハウを
ブラックボックスとする作戦です。
特許を申請しないこのようなやり方を採っても、製品を分解したり、
人の口からリークするなどして、技術やノウハウは漏れていくのが通常
です。隠すだけでは自社の競争力を維持することは難しいのです。
競争相手に真似されないようにして自社の競争力を維持するために、
特許権を取得・維持できれば理想的だと言えます。しかし、それが
困難な場合、他に有効な方法を追究しなければなりません。
その一つが競争相手に真似されないための工夫です。どこにその工夫を
盛り込むか、モノや行動を外面的に捉えてもその工夫が見えないように
するにはどうするか、といったことに知識や知恵を総動員するのです。
製造業の製品の例が解りやすいので、それで話を進めます。一つの
切り口は製造方法にあります。例えば次のようなことが考えられます。
・分解や分析をしても判らない製造技術を使う（熱処理、表面処理等）
・特殊な材料を使う
・目に見えない所に技術的な工夫を盛り込む
・分解したら構成要素が変化してしまい、元の状態が掴めなくする
・真似をしようとすると多額の費用がかかるような手を打つ 等々
こうした工夫を実現しますと、競争相手が真似をすることは容易では
ありません。長い期間を要して真似に成功することがあっても、当社が
次のステップへの努力を積み重ねていれば、競争力は維持されることに
なります。
日本の特徴ある製品、グローバル経済の中でも競争力を維持している
製品には、特許権だけではなくこのような工夫が生きているものが多く
あります
こうした工夫を生み出す力こそが「コア・コンピタンス」であるとも
言えます。こうした力は、一朝一夕で身に付くものではありません。
長い年月を経て、組織の中に根付いていくものなのです。
データの蓄積、知識の創成、技術や知識の熟成と伝承、といった
プロセスを通して、こうした力は組織に根付きます。最近日本でも
目立ってきましたＭ＆Ａは、こうして根付いた力を一瞬の内に手に入れ
ようとするものと言えます。
このようにして生まれる力、コア・コンピタンスは、製造業だけの
ことではありません。流通やサービス業にも、いくらでもある話です。
真似をされないための工夫は、仕入れ方、売り方、サービスの仕方でも
実践され、競争力を維持する力となっています。
真似をされないための工夫は、先端技術開発や戦略的マーケティング
活動に比べますと大変地味な目立たない活動です。しかし、自社の
競争力の維持や収益の確保に貢献する度合いは、極めて大きいのです。
自社の製品やサービス、事業プロセスのどこにどのように、真似をされ
ないための工夫を盛り込むか、真剣に考えてみてもよいテーマだと思う
次第です。
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Ｈマネジャー様より
まねをされて初めて１人前。
まねをされるような物が作れれば成功したと考えてよいのでは。
当社と同じもの、韓国で製作しているようです。
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Ｈマネジャー様へ
いつも弊ウィークリーにコメントを頂きありがとうございます。
今回頂きましたコメントはまさに、視点を変えてみると違った景色が
見えてくる、というものでしたね。真似されることを恐れてばかり
いないで、他者が真似したがるようなものを次から次へと開発する
ことが強い体質をつくることになるのでしょうね。
ありがとうございました。
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Ｉ所長様より
いつも考研ウィークリーをご配信いただき有難うございます。
最近とみに内容も充実され、勉強させていただいています。
小生も一人で技術士事務所を経営し、早いもので７年になりますが、
環境保全とか廃棄物処理技術などを中心に環境コンサルタント業と自称
しています。
また、ここ数年来、特許技術を中心に技術移転に関するアドバイス業務
なども、主には財団法人などの委嘱を受けてやらせていただいています。
ごくたまに、私でも少しコメントをお返ししたくなる考研ウィークリーの
記事に触れます。
こういう時には、日ごろのご恩に報いてコメントすべきなのですが、
ご関係の商品紹介などを考え合わせてみると、やはり立場の差は評価の
尺度の差ともなってくるので論旨がぶつかりそうなものは控えさせて
いただいていました。
今回の記事のご趣旨も重点はコアコンピュタンスの奨め、あるいはその
強化方法にあるようですから、特許に関する記述もそのプロセスとのみ
捉えて、詳細な記述内容にこだわってはいけないようにも思います。
しかしながら、私ども知的財産に多少なりとも関わりを持つ者に
とっては、もう少し幅広い考え方を知っていただきたいと思いますし、
私たちはそうした方向で例えば特許の取得なりを含む知財戦略が広まって
欲しいと考えています。
もちろん、そうでなければ、私どもの仕事も発展はおろか一般の評価を
受けるレベルにもなりがたいと自覚するからです。それで、このメールを
お送りしようと思いましたので、いくらかでも参考になるところがあれば
幸いです。
まず、特許などの考え方について考研ウイークリーの記事に誤りはあり
ません。全て正しいと思います。が、違う考え方が成り立つ場合もあり
ます。私などの考えのいくつかをウィークリーの記述と見比べてみます。
１．真似されることが損なのか？
ごく特殊なマーケットを除けば、１社や少数のベンダーで占有できる
わけではありませんので、その技術がユニークであればあるほど、マー
ケットそのものを育成する目的で多数のベンダーの参入を期待することが
よくあります。日清のインスタントラーメンの戦略などもそうでした。
マーケットのベースとなるような基本技術は、多くの参入者が真似して
もらわねば発明者も困ることがあります。他人の特許を買ってまでも
無償で業界に開放した松下のラジオ関係特許は、これを地で行くもので
しょう。幸之助の名をなさしめました。
ラーメンや家電業界は、どのメーカのものもほとんど似たようなもので、
個々の違いや独自性はむしろ小さな部分に限定してやっているかのごとく
です。
２．特許は、確かに「自社の権利を守ること」が目的の一つですが、
それ以前に発明を公開し将来（というより「本来的に」）公共の財産と
するための手続きである、という考えが、根底にあると思います
（特許法の目的の項）。
公開することで（いずれ）誰もが真似して利用できる。利用してくだ
さいという発明者の公徳心に免じて、２０年間の優先権を認めましょう、
というのが、少なくとも現行の特許法の基本精神であると考えられます。
結論的にいえば、この間のバランス感覚がなければ、おっしゃるとおり
知的財産権を得ることが、自社の利益のためには仇になることもありま
しょう。また、知的財産権ではなくとも不当競争防止法などで守られる
ノウハウもあるので、いろいろ考え合わせて特許出願をすべきである
ことは論を待ちません。
３．おそらく同じ趣旨で書いておられると思いますが、
「特許などの知的財産権によって自社の権利を守ることは大変重要な
ことですが、それだけで充分だとは言えないようです。自社の競争力を
完璧にするには、周辺特許も含めて数多くの特許を取得しなければなり
ません。」
権利を守るのに有効なのは、特許のみならず同じ製品に商標権や意匠権を
うまくかけ合わせて、ブランドの確立を目指し、総合的な信用力を得る
ことでしょう。
それには、お説の通り営業や商品管理のノウハウを含め経営のコンセプトに
関わってくるので、それがたというまく行かなかったにせよ、特許権など
知的財産権の持っている不備などが原因のはずはありません。
特許（や他の知的財産権）をその製品が持っていることが、この信用力の
一助となっていることは、それが真似されていようがいまいが、間違い
ないでしょう。むしろ、不法に真似しているという事実が公表されれば、
多くの場合、特許を無断で使うこと利益以上に、損となる場合が多いように
思います。
４．周辺特許も含めて自社で保有することも戦略の一つですが、その特許が
「発明」に値するほどの基本的な技術であれば、むしろそれを利用した周辺
特許を他社が沢山出してくれて、相互に実施権を認め合う形の方が、開発
リスクやコストを抑えてのラインナップが可能になるので、むしろそれを
戦略とする考え方もあると思います。
たしかに、周辺を出されるとその分野には基本特許保有者といえども出て
行けませんが、基本特許の実施を認めなければその相手もせっかくの周辺
特許が実施できないわけですから、話はむしろ決まりやすい。
５．このような考えに立って、ある商品群を持つ分野の主なメーカーは、
互いに特許権を持ち寄って、相互に相手の特許を安価に使いやすくする
方法をとります。
独自の開発力と開発努力が命の製薬や化学工業分野はこうはいかないよう
ですが、家電業界や情報通信業界などは、このような仕組み無しには、
開発コストがかかりすぎて、独自性にあまりにこだわることで、むしろ
競争から取り残されてしまいます。
上の仕組みは、１対１ならクロスライセンス。多数同士なら特許プール制
などと呼びますが、この際に相手方のライセンスを導入するコストは、
自社の提供するライセンス（の主に数）によるのが普通です。
その自社のライセンスが、他社に（無断で）真似されていようと、
あるいは既に市場性の多くをなくし、あるいは、今後のコスティな開発
努力を積んで後やっと製品利用が可能かもしれないといったあやふやな
ものであっても、この際には役に立つのです。
つまり、その特許が直接的に製品や利益に貢献せずとも、特許の
役立たせ方はいろいろあります。これも、その会社なりのもっている
信用力によるのですが、特許権自体の持つ信用力でもあると考えられます。
以上の考え方も取り入れれば、ウイークリーにいう真似されない工夫
というのは、製品や会社の持つ総合的な信用力と置き換えられてしかるべき
であって、そのためには、「真似されない工夫」と同じ重要度で「真似
される工夫」も必要なのではないでしょうか。
-------
Ｉ所長様へ
いつも弊考研ウィークリーをご高覧頂きましてありがとうございます。
この度は、大変ご丁寧なコメントをありがとうございました。
大へん勉強になりました。
小生の仕事上の立場は、ご相談あるいはご依頼を頂いた企業様
（殆どが中小企業です）の競争力を維持あるいは向上させるために
何をするべきかという問いに、状況に合致した答を出すことなのです。
そういった立場が社会的に正しいこともあれば、そうでないことも
あることは認識致しておりますが、競争の現場感覚からしますと、
どうしてもウィークリーに書かせて頂いたような考え方になって
しまいます。
特に、大企業との競争に巻き込まれそうな中小企業、近隣諸国のコピーに
苦しんでいる中小企業の場合には、そういったスタンスを取らなければ
押しつぶされる恐怖感が非常に強いのです。
今回ご指摘頂きましたポイントはまさにその通りだと思います。特に
貴台が取組んでおられます環境や廃棄物処理の分野は、優れた技術を
多くの人や企業に真似してもらうことこそが重要なのだろうと改めて
理解致しました次第です。
また、発明を公開し公共の財産とすることの重要性も理解致しました。
発明ではないのですが似たような事例もあります。緑茶飲料や電池などは
先行者が「敵に塩を送る」ような行動を取り、それがマーケットを広げ、
塩を送ったほうもメリットを享受しています。残念ながらこうしたことが
実現しているのは大手企業レベルに限られてはいますが。
中小企業の競争の仕方、生き残り方も今後の社会の変化に沿って
変っていくことでしょう。貴台のご指摘の方向もその可能性を秘めて
いるのではないかと思います。もっと勉強する必要があると思いますが、
中小企業に対する今後の提案や指導に活かしていきたいと思います。
ありがとうございました。今後ともご指導、ご教示のほど
よろしくお願い致します。
自分の行動が環境変化を生むとの認識
いつの時代にもどんな社会でも、環境の変化に対応することの重要性
が説かれています。そして、環境に適応した者が成功し、繁栄を謳歌
すると広く信じられています。
こんな単純なことが実際に起こっているのでしょうか。どうもそうとは
言い切れないようなのです。自然も社会も、こんな単純なものではない
というのが正しい見方のようです。その辺りを追いかけてみます。
何が環境の変化を引き起こすのでしょうか。冒頭の論理では、誰かが、
あるいは何かがそれを引き起こすという前提があるようです。当の自分
も環境の変化を引き起こす要因の一つだということが抜け落ちています。
自分が環境の変化に適応しようとすると、何らかの行動を取ることに
なります。その行動とは何らかの形で環境に働きかけるものであるはず
です。何らかの働きかけを受けた環境はそれに応じて変化します。即ち、
環境に適応しようとして行動する自分も、環境の変化を引き起こして
いるのです。
自分の行動が引き起こした環境の変化にも、自分は対応していかなけれ
ばなりません。これを認識して環境変化対応行動を取っている人たちは
少数派だと言えそうです。
経営戦略、事業戦略、新製品開発、新市場開拓などへの取り組みが
必要になるのは、環境の変化が認知された時です。こうした取り組みは
環境の変化への対応行動を明確にするために行われると言えるでしょう。
こうしたことに取り組む際には、関連する情報を収集・分析し、その
時点での経営環境、事業環境、市場環境などを把握しにいきます。その
上で、戦略や行動計画を実行レベルで策定します。
戦略や計画の策定が、ここまでで終了してしまうケースが多いのです。
自分の活動の過去を振り返ってみても、そういうケースが結構あった
ように思います。
戦略や行動計画の策定過程の後半で必要なのは、策定された戦略や
行動計画に基づいて自分が行動することによって、環境にどのような
変化がもたらされるかを想定することです。
その際に、いくつもの仮説が浮かび上がってくるでしょう。この中から
可能性が高いと考えられる仮説を複数選び出し、自分でできる範囲で
検証してみることが必要なのです。
検証によりある程度の妥当性が感じられた仮説を取り上げ、これが示す
環境の変化に対応する方策を検討し、これをも取り込むことが戦略や
行動計画の実現可能性と完成度を高めるのです。
生態学の主要な概念の一つに、「遷移」と呼ばれるものがあります。
生物は、その時その場での環境に最も適応したものが栄えます。ある
生物が繁栄しますと、その生物の繁栄自体が別の環境を作り出します。
その環境は、その生物とは違う別の生物にとっての繁栄の条件となり、
別の生物の繁栄がもたらされます。別の表現をしますと、その時代に
最も栄えているものは、常にその次の時代に栄えるもののための土壌を
用意している、と言えるのです。これが遷移です。
３０億年にわたる生命の進化の歴史は、地球を舞台に繰り広げられた
壮大な遷移のドラマだったと言えます。
歴史における大国の興亡など、こうした遷移が人間社会にも起こって
いると考えることができます。繁栄する産業が時代と共に代わっていく
ことも遷移と受け止めることができます。
身近なところでは、繁栄を手にして一世を風靡した企業が、ある時点を
境にして凋落の一途をだとる、といった事例もあります。これも遷移と
いう概念で説明が付くものが結構ありそうです。
先述しました、企業や組織の環境変化への対応についても、遷移の
概念で捉えることができます。しかし、遷移の概念を理解し、自分の
行動が環境変化を生むことを認識していれば、事業活動の分野、領域、
場などを変えていくことで、遷移の落とし穴に嵌ることなく存続と発展
を維持することができるだろうと受け止めることもできそうです。
このページで解説されている内容の実践について、無料相談を承っております。
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