| 月刊：考研レビュー |
| ２０１６年 ９月号 ４週：事業のロングスパン化 |
| ３週：何処を攻撃されたら今の事業はつぶれるか |
| ２週：利益を獲得するために何を：考房だより１３１ |
| １週：理念の力 |
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事業のロングスパン化
起業した時、大多数の人たちはこの事業をできるだけ長く続けたいと
の想いを持ちます。起業ばかりではなく、既存の企業内で新しい事業を
始めた時にも、その中軸を担う人たちは同じように考えます。
これはあくまでも日本人の考え方で、アメリカのベンチャー企業の世界
では、儲かる企業に育てて企業価値を高め、数年内に高く売ってしまう
ことが主流を成す考え方のようです。
日本人は、長期にわたって事業が存続し、成長発展し続けることを望む
傾向が強いのです。即ち、事業をロングスパン化したいという欲望が
強いと言えるでしょう。
こうした日本人の傾向を実証しているかのように、日本には２００年
企業とか、３００年企業とか呼ばれる老舗企業が多数存在します。こう
した企業のことを調査し、その内容をまとめた本もあります。
そういった本の内容の中で最も目立つのが、存続を重視する経営姿勢
です。「つぶさないで欲しい」が先代社長の遺言だったり、「成長とは
一代や二代でやるものではない。何代にもわたって何百年もかけてやる
ものだ」というような発言が出てきたりします。
老舗企業ですから、同じ事業を長い間続けています。つい、旧態依然
たる状態を想像しがちですが、経営の内容は全くそうではありません。
長期にわたる事業が身を置いた経営環境は確実に変わってきています。
そんな中で旧態依然でしたら存続することはできないのです。事業は
変わっていなくても、その内容は相当変化してきているのです。そして
また変化への努力を続けているのです。
例えば、素材を海外からの安価な輸入品に変える、そんな輸入品を使用
しても同じ味を出すための技術開発を行う、時代とともに味に対する
好みが変わってくるのを敏感に察知してそれに合わせた風味を開発する、
といった環境適応努力を積み重ねて何百年も存続しているのです。
こうした存続への努力から伝わってくるのが、「成長とは一代や二代
でやるものではない。何代にもわたって何百年もかけてやるものだ」と
いう言葉の深い意味なのです。
戦国時代に武田信玄は、自分が天下に号令するという野心を遂げようと
して上洛の軍を起こしました。自分の余命はもう僅かしかないとの自覚
もあったのでしょう。しかし、彼の命は上洛を果たす前に尽きてしまい
ました。そして、それが武田家滅亡の糸口となりました。
信玄が自分の余命が少ないとの自覚を持った時に、自分の野心よりも
武田家の存続を重要視し、領国経営、人材育成、環境適応戦略に適切な
手を打っていたら、その後の天下の状勢は歴史に記録されているものと
違っていた可能性もあります。
老舗の経営語録のように「天下に号令する力を獲得するのは一代や二代
でやるものではない。何代にもわたる努力を重ねて実現するものだ」
との認識が信玄にあったら、と思うと残念な気もします。
スミマセン、ちょっと脱線しました。
前述しましたような老舗の経営は、事業のロングスパン化に成功した
典型的な例です。こうした事例から解ることは、事業のロングスパン化
への取り組みはある一時のものではなく、継続的なものであるという
ことです。
こうした老舗が成功してきた事業のロングスパン化の底流にあって、
現代にも通用する考え方や姿勢とはどのようなものであるか、これには
大いに興味をそそられます。大略次のようなものが浮かび上がります。
・業務を回す力（技術、製造、販売）を日常的に研いている
・危機に対して敏感である
・新しい事業モデルを常に模索している
・新しい市場や顧客を求める意欲が高い
日経ビジネス人文庫の「２００年企業」という本の中に、こうした企業
が多数取り上げられています。具体的に名前を上げてみますと、ナベヤ
（鋳物メーカー）、ミツカングループ、田中製紙工業、などがあります。
事業のロングスパン化は、進歩の意欲、環境への適応、自己の変革、
といったことを通して実現するもののようです。現代においても、事業
のロングスパン化は、今の時代の産業社会を生き抜く上できわめて重要
なことだと言えるでしょう。
何処を攻撃されたら今の事業はつぶれるか
いま自分が、あるいは自社が力を入れて推進している事業を見つめ
直してみては如何でしょうか。いま好調の波に乗っているのでそんな
必要はない、と思われるかもしれませんが、そんな時にこそお勧め
したいのです。
事業が順調に進んでいる時は、これまでの路線から外れないような展開
にこだわりがちになります。技術開発にしろ市場開拓にしろ、新しい
ことに取り組んでいても、それはこれまでに敷かれた線路の上で動いて
いることが多いのです。
こうした従来枠組みを超え、新たな事業展開の契機を見出す上で効果的
だろうと思える一つの考え方があります。それが今回のタイトル、何処
を攻撃されたら今の事業はつぶれるか、について真剣に考えることです。
戦争に勝つためには、相手の戦争遂行能力や戦闘能力を破壊する必要
があります。何処を集中的に攻撃すればそれを達成できるかを、作戦
スタッフと情報スタッフは真剣に検討した上で、戦略を打ち出します。
この戦略が適切であれば、目的は達成されて戦争に勝つことができます。
こうした検討と戦略の策定を、自社に対してやってみようというのが、
今回のテーマです。
ここを攻撃されたら今の事業はつぶれるだろう、と思えるポイントは
色々と浮かんでくるでしょう。きわめて現実的なものもあれば、将来は
こういうこともあり得るかもしれないというものもあるでしょう。
例えば、
・自社では製造できないあるコア部品の供給がストップする
・自社の製品やサービスを必要とする顧客がいなくなる
・販路から嫌われる
・中軸を担う技術者が退職する
・同業他社が半値で売れるものを開発する
といったようなことが上がってきます。
事業の過去、現在、未来に緻密に考えを巡らし、こうしたポイントを
掴み、こうしたことが起こらないようにする策、そして、こうしたこと
が起こってもダメージを被らないようにする策を検討しておくことが、
きわめて重要だと思われます。
こうした策を打ち出す戦略は、守りの姿勢で消極的に見えるかもしれ
ません。でもよく考えてみますと、そうではないことに気付きます。
先述した事例で考えてみます。
・自社で設計・製造が可能なコア部品を開発する
・自社の製品やサービスのコアとなっているコンセプトを的確に把握し、
その展開領域を拡大する
・自社と販路各社とのWIN-WIN関係をさらに向上させる策を追求したり、
新たな販路の開拓に取り組む
・中軸を担う技術者のやりがいを満足させられる魅力的な事業を生み
出すことに努める
・開発も含めて常にコストダウンに努め、その成果を顧客と分かち合う
戦略を推進する
単純に考えても以上のようなことが浮かび上がってきます。各社の実情
に合わせて考えれば、もっと素晴らしい策が出てくるでしょう。
戦略とは、自社や事業の存続と発展のために進むべき方向を、具体的
に指し示すものです。それを踏まえますと、以上に述べてきたような
ことに軸足を置いて事業戦略を策定することは、大いに有効だろうと
思います。
攻撃されると状況が厳しくなるポイント、ライバルから攻められたら
自社や事業が存立の危機に陥るようなポイントを敢えてピックアップし、
これを戦略の策定に活かして欲しいと思っています。
利益を獲得するために何を：考房だより１３１
産業界において、思考と行動の根底にあるものは利益です。企業
そして事業者たちは利益を得るために知恵を巡らし、工夫を重ね、
敢えて苦労をも背負います。
利益を得る話に関心を持たない経営者はいないでしょう。しかし、
利益を得る方法と言っても多種多様であり、業種・業態、地域、国情、
社会情勢などによって違ってきます。
結局は、そういった話を聴いてもただそれだけではあまり役に立たない
ことが多いようです。話の底流にある共通のもの、法則的なものを感じ
取ることが大切なのです。
これまでに、この類のお話を数多く聴いてきました。意見交換や議論も
ありました。今回は利益を得るための方法についての意見交換を整理
してみました。この中から底流に流れる共通のもの、法則的なものを
感じ取って頂き、自社のお役に立てて頂けましたら幸いです。
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Ｉ社長「最近、長いこと主軸に置いてきた商品の競争力が衰えてきまし
てね。なんとか手を打とうと思うんですが、なかなか妙案が
浮かびません」
Ｄ専務「新製品の開発なんかにも手を着けられているんですか」
Ｉ社長「ええ、アイデアを募ったり、顧客ニーズの調査をしたりして
いるんですが、あまりにも長い間この商品に頼って商売して
きたために、組織としての意識がなかなかそちらの方に集中
できないんですよ」
Ｂ社長「Ｉさんのところは元々は代理店でしたよね。今はメーカーの
色合いを強くしておられるようですが、代理店商売も結構
お持ちなんでしょう」
Ｉ社長「代理店の商売もまだやってますが、例の主軸商品を世に出して
以降は、会社全体の意識としてメーカー色が強くなったことは
確かですね。ですから今回の問題に関する打開策も、メーカー
色の強い新製品開発や用途開発に向いがちなんです」
Ｂ社長「社員の意識が製品に向いている訳ですね。解決策は市場開拓に
あるかもしれませんよ。当社で以前にベテラン営業マンを中途
採用したことがありますが、その営業マンの得意とする業界に
当社の製品のニーズがあることが判ったことがありました。
思いもよらぬことで市場開拓ができたんです」
Ｉ社長「未だ気付いていない市場があるかもしれない、ということ
ですね。ウーンどうだろうな」
Ｎ社長「さきほどＩさんは主軸商品の競争力が衰えてきたと言われまし
たが、それは以前ほど売れなくなったという意味ですか。それ
とも、他社の競合商品にお客を奪われたということですか」
Ｉ社長「他社の商品にお客を奪われたということはありませんが、
売上が落ちてきているんです」
Ｎ社長「それなら、競争力が衰えたのではなく収益力が衰えたと受け
止めるほうがよいと思いますね。競争力を回復するのと、
収益力を回復するのでは打手がちがいますからね」
Ｂ社長「そうそう、Ｎさんうまいことを言いますね。最近私が感じて
いるのもそういうことなんですよ。Ｎさんの言葉を借りれば、
競争力がないから売れずに利益が出ないというケース、
競争力はあるのに収益力がないので利益が出ないというケース、
この二つは全く違うんですよ」
Ｄ専務「なるほど。先程Ｂさんが言われた営業マンの例は、商品には
競争力があり、中途採用の営業マンによって収益力が増した
という風に考えればいい訳ですね」
Ｂ社長「ウーン、そういうことになるのかな。他にも考えられることは、
小さくなった売上高でも利益が出るようにコストダウンする、
といったことも収益力を増すことにつながりますよね」
Ｄ専務「コストダウンは競争力につながるんじゃないですか。いわゆる
価格競争力と言われるように」
Ｉ社長「ところで当社の場合なんですが、恐らくコストダウンは競争力
には結び付かないと思います。というのは、これまでの市場を
相手にする場合、価格を下げても売上が量的に増えるとは思え
ないんです。むしろ量を維持してコストダウン分は利益として
手に入れるほうがよいような気がします」
Ｎ社長「ポイントの一つは既存商品を軸にして考えるか、新商品開発を
考えるか、ということですよね。既存商品に競争力を認める
ことができれば、コストダウンで収益力を獲得する、新市場を
開拓することで収益力を獲得するといったことが可能ですね。
しかし、既存商品に競争力が無く、競争力を付ける方策も期待
できない場合には、競争力のある新商品を開拓する必要がある
ということになりますよね」
Ｄ専務「ところが、それを見極めるのはたいへんですよ」
Ｂ社長「そうなんですよ。競争力については、市場の情報と技術力に
基づいてある程度詰めていくことができるんですが、収益力を
どのようにして獲得するかということになるとむずかしい」
Ｎ社長「１ヶ月ほど前の経営セミナーで、ある著名な先生のお話の中に
興味をそそられることが有ったんで覚えているんですが、
技術力で勝ちにいくのか、戦略力で勝ちにいくのか、と言うん
です。Ｂさんの言われる、収益力をどのようにして獲得するか
という問題は、たぶん戦略力の問題なんだと思います」
Ｉ社長「なるほどそうか。なんとなく分かってきたぞ。商品に技術的な
意味での競争力がある場合、その競争力が収益力にも貢献する
ことができる。しかし、戦略力があれば技術的には平凡な商品
から利益を引き出す収益力をモノにすることができる。
そういうことでしょう」
Ｄ専務「いやーＩさん素晴らしい、さすがですね。Ｉさんのまとめの
お話でよく理解できましたよ。今日は勉強になったなあ」
Ｉ社長「私もですよ。今日の皆さんとのお話に基づいて当社の問題の
解決策を根本から検討し直してみます。何か妙案が生まれそう
な気がしてきました」
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如何でしたか。何か掴んで頂けるものがありましたら幸いです。
理念の力
経営理念や企業理念が大切なことは多くの人々が理解しています。
そして、多くの企業がこれを掲げています。しかし、これが有効に機能
している企業はどのくらいあるのでしょうか。
行動規範に反映されて社員の行動に活かされている企業もあれば、額に
入れた飾り物になっている企業もあります。理念を持っているようなの
ですが、敢えて理念を掲げていない企業もあります。
理念の影響が最も大きく現れるのは、企業文化や組織風土です。文化
や風土は、社員が決断や行動の選択を迫られた時に、彼らの無意識内で
強い影響力を発揮し、それに相応しい結果をもたらします。
このように、理念が文化や風土の底流を成すようになれば、文書化され
た行動規範などは意識に上らなくても、人々はそれに沿って行動する
ようになります。
敢えて理念を掲げていない企業の中には、こうした文化や風土を持って
いる企業がある一方、理念のようなものに全く関心を持たない企業も
あるのでしょう。
理念の力を色々と探る中で出会った、ある一つの具体的な考え方を
紹介します。ここでは、“ブランド理念”という言葉を使っていました。
ブランド理念が企業理念と強いつながりを持つことには、疑いの余地が
ありませんので、この言葉をそのまま使うことにします。
個々のビジネスの本当の存在目的はブランド理念に現れます。そして
さらに、それは企業全体が持つ理念とつながっているはずです。
即ち、適切なブランド理念を持つことは、社員に始まり顧客に至るまで、
その企業やブランドが関わる全ての人々を末永く味方に付け、連帯させ、
行動の背中を押し続けることになるのです。
Ｐ＆Ｇでグローバル・マーケティング責任者の任にあって、同社を
「ブランド王国」へと導いたジム・ステンゲル氏の調査研究により、
４つの重要なことが明らかになりました。
これは、２０００年代の１０年間に目覚ましい成長を遂げた５０のブラ
ンドに共通していることでした。アップル、コカコーラ、グーグル、
ジャックダニエル等々が含まれています。この４つとは下記の通りです。
１．それぞれの業種に相応しい形で、「人々の生活をより良いものに
する」ことを目指すブランド理念を掲げている。
２．これらのブランドは、人間にとって大切な次の５つの基本的価値の
どれかに関わる理念を持っている。
・喜びを感じさせる
・他の人たちや世界と結び付くことを助ける
・探求心を刺激する
・誇りをかき立てる
・社会に影響を及ぼす
３．各ブランドのリーダーは、理念を主たる表現手段とする、ビジネス
アーティストという性格が強い。
４．ビジネスアーティストたちは、次の５種類の活動に卓越している。
＊人間にとって大切な５つの基本的価値のどれかに関わる
ブランド理念を、発見あるいは再発見する。
＊ブランド理念を軸に、企業文化を構築する。
＊ブランド理念を発信し、社員と顧客の両方と共有する。
＊ブランド理念に沿って、理想に近い顧客体験を提供する。
＊ブランド理念に照らして、ビジネスの進歩の度合いと社員の
仕事ぶりを評価する。
以上の通りです。対象になった５０のブランドが持つ理念を、ここに
文章として紹介することはできませんが、ジム・ステンゲル氏の以上の
分析から、理念の力がどのようにして生まれてくるかを読み取ることが
できます。
このページで解説されている内容の実践について、無料相談を承っております。
下記アドレスにＥメールでご相談ください。
hiro.oshima@nifty.com
現象考学研究所
有限会社 考研経営企画
〒655-0854 神戸市垂水区桃山台５−７−７
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