| 月刊：考研レビュー |
| ２０１６年１０月号 ４週：劣化しない人脈を作る |
| ３週：マネジメントを基盤とした経営へ：考房だより１３２ |
| ２週：予測可能な危機の回避 |
| １週：協力関係の獲得 |
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劣化しない人脈を作る
人は誰でも人脈を持っています。しかし、その在り方は様々ですし、
人脈という言葉の受け止め方も様々です。国語辞典には「ある集団・
組織の中などで、主義・主張や利害などによる、人と人とのつながり」
とあります。
名刺交換した人数の多さを以て“豊富な人脈”と思い込んでいる人たち
がいる一方、交換した名刺などほとんど保管していなくても何時でも
面会して対話ができる人たちのことを人脈としている人たちもいます。
こうした色々な解釈が存在する「人脈」の価値や機能とは何か、これを
どのように捉えればよいのか、情報を集めて考えを巡らしてみました。
時代の変化に適応していく上で有効な、多様な考え方や情報に触れる
という面で、人脈の力は大きいものです。そんなことを考えている中で
浮かんできたのは、人脈は劣化するということでした。
ある一時はこうした機能が有効であった人脈も、これに連なる人たちの
中に、時の流れとともにその機能を担うことができない人たちが増えて
きます。また、若い頃に築いた多様性豊かな人脈が、年齢が上がるに
つれて同質化・陳腐化してしまうことも少なくないようです。
同類の人たちばかりが集まって作る交流会や勉強会は、気の置けない
メンバーの気安さや安心感があり、居心地が良いものです。しかし、
そのような集まりには“人脈の劣化”というリスクもあるということを
忘れないようにしなければなりません。
このように劣化してしまった人脈では、その重要な機能が失われ、価値
は激減してしまうのです。
前出の“交換した名刺の数で人脈の価値を測る”ような思い込みは、
劣化以前の問題です。先ず第一に、集めた名刺の中にどのような人たち
がおり、自分とどんな関係にあるかを明らかにしなければなりません。
そしてさらに、その人たちとの関係が前出の機能を担うことができるか
どうかも明確に捉える必要があります。その上で、人脈としての価値を
自分自身で評価してみることです。
人脈とはどれだけの人を知っているかではなく、どれだけの人に知られ
ているかだ、との一言も評価の参考になるでしょう。
人脈を作ることに直接関わることではありませんが、自分とは異なる
考え方をする人に想いを馳せることは、有効に機能する人脈とよく似た
働きをします。異なる考え方をする人には、直接の付き合いが無くても
近付くことができます。
その最も身近な手法は読書です。読書を通して多くの人たちの考え方に
触れることができ、それが自分と同じ類のものか、異なる類のものかを
知ることができます。
問題に遭遇した時や、課題に取り組もうとする時、自分の考えをまとめ
た上で、読書を通して近付くことができた人たちの考え方に、想いを
馳せてみるのです。そこから何らかの発想や答が浮かんでくるものです。
私は、ある人の著書の中で推薦されていた“私設賢人会議”という
手法を愛用しています。直接会った人、著書を読んで考え方を取り入れ
たいと思った人、心に響く歴史上の人物、尊敬する人、といった人々の
中から数人を選んで、想像上の賢人会議を設定するのです。
重要な課題に関わっている時、適切なタイミングを捉えて、この会議を
開きます。「この人なら、こんな意見を言うだろうなあ」と賢人たちの
発言を想像し、それを議事録風に記録します。この記録と自分の考えて
いることを突き合わせながら、実行策を割り出そうとする訳です。
この賢人会議のメンバーも常時２０人くらいはリストアップしています
ので、適当な間隔で入れ替えるようにしています。そして、賢人会議の
メンバーたちには、私にとっての重要な人脈のように機能することを
求めています。この私設賢人会議という人脈は、永久に劣化しない人脈
かもしれません。
人脈を劣化させないためには何をしたらよいのでしょうか。その考動
を私設賢人会議のことも含めて考えてみますと、浮かんで来るものが
あります。次のようなことに努めることが大切なようです。
・初対面の人に会う。
・自分とは異なる世代の人に会う。
・自分とは異なる分野・領域で活動している人に会う。
・自分とは異なる考え方の存在を認める。
・相手の話すことに耳を傾ける。
・多様な分野の本を読む。
・相手が考えていることを想像する。
人脈の力は大きいものです。劣化しない人脈を維持することは、仕事
や活動を進める上で大きな力となり、進歩へと導いてくれるでしょう。
マネジメントを基盤とした経営へ：考房だより１３２
全てを社長のリーダーシップに頼って経営が行われている中小企業が
少なくないようです。このような中小企業でも、成長が続いて規模が
大きくなってきますと、社長自身がマネジメントの必要性を感じ始める
ようです。
こうした状況に立ち至った時、トップ全能型の経営からマネジメントを
基盤とした経営に変っていくために何をすればよいのでしょうか。
何となく解っているような気がしながら、変革になかなか手が着けられ
ないことが多いのは、必要なこと／やるべきこと、およびその効果性を
具体的に掴みにくいからなのかもしれません。
経営者の方々の交わす言葉の中にそれを探してみました。
-------
Ｒ社長「うちの会社もそろそろやり方を変えなければいけないのかな、
なんて最近思うことがあるんですよ」
Ｓ社長「え、どうしてですか。Ｒさんのところはもう何年も増収増益で
来てるのに、何かあったんですか」
Ｒ社長「いやいや、そんな悩みは贅沢な悩みだと皆さんに言われそう
ですが、結構深刻なんですよ。というのは、増収増益を続けて
いる間に人が増えてきたんですね、当然のことですが。そう
なると、私の今までのやり方では組織の運営とか、業務の意思
決定とかがうまくいかないと感じるようになったんです」
Ｍ専務「ああ、この前ポロッとおっしゃってましたあのことですね。
現場で判断して決めて欲しいのに、社長が気が付いて指示する
まで放っておく、こんなことで困ってますよという報告くらい
上げてくれればいいのに、と言っておられましたね」
Ｒ社長「ええ、そうです。あれ以来注意して目を光らせ聴き耳を立てる
ようにして社員の言動を観察しているのですが、これでは
いかんと思うようになりました」
Ｊ社長「中小企業、特に成長している中小企業にはそういう問題は多い
ようですね。私のところの取引先でもそういった話はよく
出ますよ。少人数で会社を起したときからずーっと社長が陣頭
指揮を取ってきたんですから、社員意識がそうなるのは当然の
成り行きかもしれませんね」
Ｔ常務「実は私は大手のＫ社の出身なんですが、社長に呼ばれて今の
会社にきた時には本当に驚きました。一つは、実に些細なこと
まで社長が号令をかけていたんです。二つは、２００人にも
至ろうという社員の考課を社長１人でやっているんです。
そうかと思えば、三つ目ですが、社運を左右しかねない設備
投資をＦＳやシミュレーションもやらずに大胆に実行して
しまうんですね。当社の社長も創業以来の陣頭指揮派ですが」
Ｒ社長「Ｔさん、私もほぼ同じ状態ですよ。設備投資については、私は
親しくしているコンサルタントに参加して頂いて市場予測や
採算点の把握などを通して投資回収予測をしていますがね。
それでも、こうしたことは私以外の社員はだれもやりません。
やろうという意識がないんですね」
Ｓ社長「それで、Ｔさんはそういう会社にお入りになって何をされて
きたんですか。よろしかったら教えて欲しいんですが」
Ｔ常務「入社してまず感じましたことは、この会社には部長も課長も
いるけれども、マネジャーと言える人は１人もいないという
ことでした。部長や課長自身が工場で作業をしてるんです。
社長ももともとは職人出身ですから、創業以来の伝統的風土が
そういう行動を生んでいたんでしょうね」
Ｊ社長「そうそう、私のところの取引先も同じようなことがあります。
仕事が逼迫してくると、この忙しいのにこんなところで何を
しているか、と見られそうで事務所に居づらいらしいんです。
そういう雰囲気ではマネジメントは脇にやられてしまい、
マネジャーは育ちませんよね」
Ｔ常務「それに類することが幾つもみられましたので、そういう事態を
社長はどのように受け止めているかを問い質してみました。
社長の答は、Ｒさんが今感じておられるのとほぼ同じでした」
Ｒ社長「そうですか。それでどういう手を打たれたんですか」
Ｔ常務「先ず始めにやりましたことは、人事考課制度づくりです。
これも、単に職能資格制度とか成果主義賃金体系とかを導入
するだけではうまく行かないと直感しましたので、泥臭い
やり方をしました。今まで社長がやってきた考課と大きな
違いが出てくるような制度にならないようにと考えました」
Ｓ社長「ほう、興味をそそられますね。どんな制度にされたんですか」
Ｔ常務「社長でなくても、社長が考えているのと同じような評価が
でき、社長がイメージしたのと同じ程度の給料が算出される
ような仕組みを作ろうとしました」
Ｍ専務「そういう仕組みは難しいでしょう。うまくいきましたか」
Ｔ常務「完全なものが無理なことは始めから解っていましたから、
どの程度で妥協するかをいつも考えていました。方法論と
しては、これまでの人事考課表と賃金表をベースにして社長
インタビューを重視しました。そうなると、私が社長に問い
質すようなやり方は好ましくないと考え、外部のコンサル
タントにお願いをして参加してもらいました」
Ｍ専務「それは大変でしたね。相当の時間とエネルギーがかかり
ましたでしょう」
Ｔ常務「ええ、試行を２回ほどやりまして、従来との乖離のひどい
部分を修正したり、どうしても乖離が埋まらない社員に
対してどのように対応するかを検討したりで、結構な期間を
要しましたが、なんとか実際に使えるものになりました。
以後は状況の変化を見ながら、毎年修正を検討しています」
Ｒ社長「他にも色々とやられたんでしょう」
Ｔ常務「人事考課制度だけでは、業務をマネジメントすることはでき
ませんので、いよいよマネジャーの育成に取組むことにしま
した。ご存知の方も多いと思いますが、大手企業の業務の
仕組みや風土には、業務を遂行する中でマネジャーに必要な
ことが身に付くようになっています。殆どの中小企業がそう
だと思いますが、この会社の仕組みや風土のなかにはその
ような仕掛けはありませんでした。こうした状況の下で
どのようにしてマネジャーを育てるか、考え込みました」
Ｍ専務「単に管理者研修をやるとか、外部の講座に参加させるとか
では効果が薄いですからね。それと、どういうことを身に
付けてもらうかを絞り込むことも重要ですね。マネジャーは
経営者と同じである必要はない訳ですから」
Ｊ社長「そういうことでしょうね。この前あるところで、経営者と
経営管理者とは違う、という話を聴きました。マネジャーは
基本的には経営管理者の知識と思考法を身に付けたらよいの
ではないかと思います」
Ｒ社長「私もある経営者セミナーで、経営者の役割の中で最重要の
２項目という話を聴いたことがあります。その第一は自社の
最重要経営課題を見極め、それを社員全員に解らせること、
第二は最重要経営課題の解決に向けて全社員の意識と力を
集中させること、だったと思います。これは明らかに、
経営管理者やマネジャーの任務ではありませんね」
Ｓ社長「そうですね。経営管理者やマネジャーの任務は、日常業務に
おける目標達成のための管理と問題解決が第一でしょう。
そして、経営者の最重要２項目に関する情報活動、進言、
実行行動の計画と管理、といったところも入ってきますね」
Ｔ常務「恐れ入りました。皆さんさすがに豊富なご経験と知識を
お持ちですね。私が考え込み思い悩んで到達した結論は
みんな今皆さんのお話に出てきたことばかりです。ただ、
やり方には私流のものを考案したと自負していますが」
Ｒ社長「そのやり方を是非聞かせてもらえませんか」
Ｔ常務「マネジャーやリーダーは教室の中で育つのではなく、仕事の
場で育つものだという自分の考えを確認しました。でも、
大企業と違って業務の仕組みや風土の中にその仕掛けが組み
込まれていない中小企業では、何をするのがよいのかを
色々と考えました。私なりの結論は、業務改善テーマを
掲げて部門横断的活動をやろう、ということでした」
Ｒ社長「それはＱＣサークル活動のようなことですか」
Ｔ常務「いや、それとは若干違います。ＱＣサークル活動は職場の
メンバーで改善チームを作ってやりますよね。そのため、
職場の問題解決の範囲を抜け切れません。私が企画しました
のは、一つの職場の問題ではなく多くの部門間にまたがる
テーマに部門横断的なチームを組織して取組もうとする
ものです」
Ｒ社長「それがマネジャーやリーダーの育成にどんな風に機能するん
ですか。ちょっとイメージしづらいんですが」
Ｔ常務「トップの任命により部門横断的に組織されたチームには、
必ず目標が明示され目標達成責任が課せられます。当然そこ
には、目標を達成するための思考と行動が要求されます。
また、トップに対する責任を果すために必要な権限を獲得
するか、その保有者を動かすための思考と行動も必要に
なってきます。組織のマネジャーには不可欠であるこうした
要件が実践活動の中で身に付くと考えた訳です」
Ｒ社長「なるほど、おっしゃる通りかもしれませんね。でもそれは
部門内の業務実践の中でもできるのではありませんか」
Ｔ常務「それは無理です。大企業と違って中小企業では権限を取りに
いこうとか、権限保有者を動かそうなどという行動が起る
風土はありませんから、業務実践の中で重荷を抱えますと
上司に下駄を預けてしまいます。また、上司もそういった
風土の中で育っていませんから、直ぐにトップへご注進に
およぶか、無かったものとしてそ知らぬ顔を決め込むかして
しまいます。
また、部門内の業務実践では、上司と部下の関係が強すぎ
ますから命令と服従が支配的で切磋琢磨がありません。
それに比べますと、部門横断的なチームはメンバー全員が
対等に近い関係にあります。チームリーダーはこのような
チームを適切に運営するためにリーダーとメンバーとの間、
メンバーどうしの間の意見の交流を避けて通ることはできま
せん。そこに切磋琢磨が生まれ、組織を運営に関わる知識や
経験が１人１人に蓄積されていくと考えられます」
Ｒ社長「おっしゃっることはよく解るのですが、うちの会社でやれる
だろうかと考えてみますと、どうも覚束ない感じがするん
ですよね。Ｔさんのお話を参考にして色々と考えを巡らして
みます」
Ｔ常務「私のところも今は推進中ですからどんな結果が出てくるか、
未だ判りません。社内の雰囲気や働き盛りの人たちの動きに
変化が見えるようになりましたので、期待はしていますが」
Ｍ専務「Ｔさんの取られた方法は問解決指向型の育成活動ですね。
もう一つ、部門管理指向型の育成活動というのもあります。
こちらの場合も集団学習と意見交流を通して、各部門の
抱える問題を解決するという取組みを行う訳ですが」
Ｓ社長「方法論も重要だと思いますが、マネジャー育成に関して一番
重要なことは、経営者がそれぞれのマネジャーに何を考えて
何をして欲しいと考えているのか、即ちそれぞれの役割を
持つマネジャーごとに経営者が求める要件を明確に打ち出す
ことだと思うんです。これによって育成対象に誰を選ぶかも
鮮明になってきますし、どんなやり方で何を身に付けて
もらったらよいかも見えてきますよね」
Ｊ社長「そう、Ｓさんのおっしゃる通りだと思いますよ。これを
しっかりとやっておかないと、結局は管理者研修といった
大して役にも立たないことを、管理者及びその候補生全員に
受けさせて事足れりといったお茶を濁したような取組みで
終ってしまうんですよ」
Ｒ社長「あ、そうか。そういうことなんですね。先ずは私のやるべき
こととして、そこから手を着けていくことにします。いやー
勉強になったなあ、今日の皆さんのお話は」
-------
如何でしょうか。何か良いイメージが浮かびましたでしょうか。
予測可能な危機の回避
危機は突然現れるように見えます。しかし、過去に起こった危機を
よく調べてみますと、事前に何らかの兆候を発しているものが多いこと
が判ります。それどころか、発生を予測していながら、何の手も打たず
に危機に陥ってしまったものさえ少なくないようです。
こうした予測可能な危機をなぜ回避できなかったのか。回避するには
どのようなことを認識しておけばよいのか。これらについて調べてみた
範囲内でお伝えします。
予測できているのに陥ってしまう危機には、次のような６つの特徴が
あります。
１．指導者が問題の存在を知っているのに、それに対処しようとしない。
そして、その問題が自己解決することはない。
２．組織のメンバーが気付く時には、危機が目前に迫っている。指導者
が対応を怠っていれば当然そうなる。
３．問題の対処による恩恵が現れるのが、ずっと後になる。問題への
対処にはコストが発生する。しかし、その恩恵が現れるのはずっと
先のことだ。人間には将来を軽視する傾向があり、将来の危機を
防止するために今ある資源を使うことに抵抗を感じるのだ。
４．その問題に対処することが評価されない。未だ起こっていないこと
にコストをかけることは、ほとんど評価されない。平常はコストを
絞ること、問題発生時には目立つように動き回ることのほうが評価
されやすい。
５．その問題は、すぐに行動を起こすほどのインパクトが感じられない
段階にある。人には現状を維持しようという自然性向があるため、
こうした段階では、従来通りに物事を継続する。
６．現状から恩恵を受けている一部の人々が、問題への対処や改革を
阻止しようとして必死に動く。
このような特徴を持つ危機に対して事前に適切に対処するためには、
次の３つの要因を具体的に認識しておくことが大切です。
１）否認の意識が働きやすいこと
この意識が働きますと、人々は合理性に反する行動を取ります。
それは次のような行動です。
・対処するほどの問題ではないと思い込んでしまう
・現象や状況を自分の都合のよいように解釈してしまう
・将来に悪影響を及ぼす可能性を考えようともしない
・現状を維持することが最善と思い込んでしまう
・損害や危機が誰にでも見えるようにならないと行動しない
２）組織に欠陥や脆弱な部分があること
このような組織では、情報が適切に収集されなかったり、処理
されなかったりして、危機の予測がうまくできません。それは次の
ようなことです。
・環境をスキャンし、重大な脅威に関する情報収集が困難である
・組織内に散在する情報を集約・分析し、適切な行動を浮かび上が
らせる洞察が困難である
・問題への対処行動の経過と結果をタイムリーに観察し、適切な
フォローが困難である
・起こった過ちが繰り返されるのを避けるために、学習した教訓を
組織の記憶に組み込むことができていない
３）政治的に動く既得権益を持つ人たちのグループがあること
こうしたグループは、組織全体にどのような影響をもたらすかを
考えるよりも、自分たちのグループの利得を最重要と考えます。
こうしたグループが、前出の否認の意識や組織の脆弱性をさらに
増幅させることになります。
以上にご紹介しました、予測できる危機の回避に関する６つの特徴と
３つの要因を、日頃から意識しておき、重大な危機の回避に役立てて
いただければと思っています。
協力関係の獲得
組織とは、複数の人々が共通の目的を果たすために作るものです。
目的を果たそうとして進む道中には達成すべき目標が次から次へと現れ、
それらの目標を達成することを積み重ねて目的に近付くことができます。
従いまして、組織の活動とは目標達成活動だと言えます。
上記のように定義されている組織の活動ですが、着実に目的に近付い
ている組織がある一方、必要な目標達成がままならないために、目的に
近付けずに足踏みしている組織もあります。
この２通りの組織の対比を通して、違いの根源にある最大のものは
“組織のメンバーの協力関係”であることが見えてきました。メンバー
の協力関係の獲得こそが、組織が目的に近付くために必要な目標達成を
積み重ねていく上で、最大の力を生むということです。
協力関係を獲得している組織には幾つかの特徴があります。以下に
それを紹介していきます。
先ずは、組織の定義にある通り、メンバー全員が共有できる共通の
目標を持つことです。この目標は抽象的な言葉のレベルを超え、達成
した時の状態や成果物が具体的にイメージできるものとして表現され
ます。
こうした目標を作る上で重要なことは、自分たちの「在りたい姿」に
光を当て、それにつながるイメージが描けるような対象の選択と表現に
工夫をすることです。決して「在るべき姿」にこだわるようなことが
あってはいけないようです。
こうしたことを考える上で重要なものは具体性です。具体性が高ければ
目指す対象や場のシーンを鮮明に描きやすくなります。一般的に言われ
ている５Ｗ１Ｈはもちろん、具体的な顧客や競争相手のことも含めて
考えるのがよいようです。
このようにして、組織が一丸となって取り組み、目標を達成した時に
自分たちがなっていたい状態を、メンバーの一人一人が描ける本当の
共通の目標が生まれます。
目標を決めますと、それを達成するために何をするのがよいかを考え
ます。そこで上がってきた行動項目を基盤にして計画を作るのが一般的
ですが、それだけでは不充分なのです。
ここに上がったもの以外の行動をメンバーが取ることもあります。それ
には、有効なものもあればあまり効果がなく無意味なものもあります。
注意すべきことは、そういった行動の中に目標達成を阻害したり、無駄
な時間を浪費したりするものがあることです。
そのようなものは、「やらないこと」や「やるべきでないこと」として
明確にしておくのです。これにより、その対極にある「やること」や
「やるべきこと」が鮮明になり、行動項目に対するメンバーの共通認識
が生まれやすいのです。
例えば、「差別化できる製品を開発する」という項目が上がっている
ならば、それと同時に「競合製品が使っている基本技術は採用しない」
といった項目を明示するのです。また、「業務の効率化を図る」という
項目が上がっているのならば、「無駄な資料は作らない」といった項目
を明示します。
このように、やらないことを明示することによって、
・これまでとは違う基本技術の適用を見出すか、開発するかに取り組む
べきこと
・情報の共有化を進めて資料作成時間の削減に取り組むべきこと
などが、メンバーの目に鮮明になり、行動項目に対するメンバーの共通
認識が得られるようになるのです。
以上のようなことを通して協力関係を獲得する上で、最も重要なもの
は信頼関係です。こうした視点から見た信頼関係の基本は、お互いに
正面から自由に訊くことができ、言うことができることです。
即ち、失敗や間違いについても率直に語り合うことができるが、後に
しこりが残らないといった信頼関係です。こうした信頼関係を育てる
ために重要なことが２つあります。
その１つは、メンバーが他のメンバーのために聴く姿勢を持てるように
なることです。日々聴く姿勢を研いていますと、それが相手に伝わる
ようになり、思っていることや感じていることを素直に話してくれる
雰囲気が醸成されます。
もう１つは、メンバーがお互いの長所を知り合うことです。同じチーム
のメンバーとして一緒に過ごす時間が長いとはいえ、職場はプライベー
トとは違います。何らかの鎧をまとっており、長所短所を素直に見せる
ことにはならないでしょう。
こうした状況の下でお互いの長所を知り合うには、相手のために聴く
姿勢を研く中で、長所を知ろうという意識を強く持つことが必要です。
一般的には短所のほうが見えやすいので、こうした意識が重要なのです。
チームで仕事を進めていますと、その中でそれぞれのメンバーの特徴が
現れます。長所を知ろうという意識を持ってメンバーの特徴を眺めて
いれば、本人が気付かないでいる長所までも見えてくるものです。
このようにして育まれた信頼関係は、チームが困難に直面するような
時に力を発揮します。お互いの長所を知ることを通して、助け合える形
が自然にでき上がっているからです。
こうしたチームでは困難の克服に当たって、突破力のある人、粘り強い
持続力のある人、業務設計力のある人、アイデア発想力のある人、外部
の協力獲得力のある人、リスク対応が得意な人、などが効果的に協力し
ています。まさにお互いの長所を知ることから生まれた協力関係です。
ゴールのシーンが鮮明に描ける共通の目標、具体的な行動設計、聴く
姿勢と長所を知ることから生まれる信頼関係、月並みのようですがこれ
が協力関係の獲得の要なのです。
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