| 月刊：考研レビュー |
| ２０１６年１１月号 ４週：予測不可能な中で生きる |
| ３週：新規事業の展開：考房だより１３３ |
| ２週：解決が見えるように課題を構造化する |
| １週：後から来る者を信じて |
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予測不可能な中で生きる
未来予測とか、今後の展開予測という言葉はたいへん魅力的な響きを
持っています。その魅力に引き込まれるようにして、多くの人たちが
予測の世界に入っていきます。そして、そういった人たちの発言が結構
持て囃されるようです。
しかし、私たちの生きている世界を熟知している人たちの多くは、こう
した発言を信用していないようです。予測発言が持て囃される理由は、
ある種の人たちにとってこれが金儲けの材料になるからなのでしょう。
予測発言を全面的に信用して行動した人たちの中には、恐らく成功者は
いなかったでしょう。なぜなら、この世界は予測不可能であり、過去の
経験、論理、分析などは成功の要因とはなり得ないからです。
私たちは、物事を論理的に分析すれば成功を手にする可能性が高まると
考える性向を持っています。しかし、もし成功への道が論理的であれば
誰もがその道を発見することができ、結局その道は多くの人々で溢れ、
成功への道ではなくなってしまうのです。
予測不可能な世界の中で生きていく上で必要なことは予測ではなく、
次の二つです。
・既に起こっていること、および現在起こっていることが将来に対して
どのような効果をもたらすかを考える。
・自分なりの仮説を持ち、とにかくやってみる。
ドラッカーは色々なことを予想し、その通りになったことが多々あり
ました。彼は、未来は予測できないと断言しており、自分がしている
ことは、既に起きた出来事をしっかりと観察し、それが将来にとって
意味することを考えることだ、と語っています。
こうしたドラッカー流の思考と行動からは仮説が生まれます。この仮説
に基づいて行動してみれば何らかの結果が得られます。この結果をもた
らした背景、状況、自分の行動、仮説との差異、といった事柄が、将来
に対してもたらすであろう効果を、さらに考えることができます。
このようにして私たちは、予測不可能な世界の中で最善ではないにしろ
妥当な道を見出し、進んでいくことができるという訳です。
前出のドラッカーの教え以外にも、予測不可能な世界の中で前進して
いくために心得ておきたいことが幾つかあるようです。以下にその中の
代表的なものを紹介します。
１）スケジュールに柔軟性を持たせ、ランダムさを取り入れる。
こうすることによって、新しいものに目を向けたり、違う道を選ん
だり、計画変更の決断を下したりする機会を増やすことができる。
予測不可能な中で生きるためには、たいへん重要なことだ。
２）ここぞという時に、賭けをする気概を持つ。
重大な変更を行う時に頭をよぎるアイデアは、実行を通して意味が
生まれる。こうしたことに行動を起こすことは、リスクを伴う賭け
の性質を持っているものだ。予測不可能な中にいると、こうした
機会に何回も出会う。この機会を活かすことが重要なのだ。
３）行動の過程で、目前に出現した力やエネルギーを活用する。
行動することにより、予期せぬ結果や、予想を遥かに超えた結果が
起こることが多い。こうした結果をもたらした力やエネルギーに
注目し、これを活用することを心掛ける。今まで気付かなかった
こうした力やエネルギーを味方にすることが重要なのだ。
仕事にしろ、事業にしろ、それに限らず人生の全てにおいて、予測
不可能な世界を生き抜いて成功するために、こうした教えや心得を上手
に使いたいものだと思う次第です。
新規事業の展開：考房だより１３３
新規事業の展開につきましては、業種業態、営業パターン、経営者の
基本的な考え方などによって、大きく違ってきます。しかし、市場を
予測し、顧客にとっての自社の価値を適切に認識し、事業の成功要因を
追究し、必要な経営資源を明確にし、これに基づいて戦略を立案し、
その実現に向けて行動する、といった基本事項に関しましては、共通の
認識が存在するようです。
今回はこうしたことに関する経営者の方々の談論をお届けします。
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Ｓ社長「世間一般は結構景気が良くなってきたようですけど、私らの
業界ではまだまだ好転したとは言えないですね。こんな時は
いつも、状況を打破できるような新製品や新事業が欲しいと
心底思いますねえ」
Ｉ社長「同感ですね。私のところも成熟業界ですから、同じことを続け
てますと、売上は縮小するだけです。いつも新商品や新事業の
ことが頭を離れないんですよ」
Ｎ社長「うちもＩさんのところと同じですね。でも、うちの場合は
新事業というのはむずかしいと思ってます。お客様のニーズや
取扱い商社の情報に基づいて、新製品や改良製品の開発を
長いこと続けてきましたから、人材がそちらに偏っているん
です。ですから、うちの場合はどんな新製品開発をするか、
どんなやり方で新製品のテーマを見つけるかが勝負だと思って
るんです」
Ｂ社長「Ｓさんのところは、確か輸入品の国内販売が主な事業でしたね。
結構色々な新商品が見つかるんではないですか」
Ｓ社長「いやいやなかなかですよ。高度成長時代でしたら、定期的に
アメリカやヨーロッパへ出かけて、掘り出し物探しが効果的
だったんですがね。今は仮に良いものが見つかったとしても、
それだけでは売れませんね。狙いを定めた市場のニーズに応え
られるように知恵を絞ってアイデアを出して、装置として構成
して、それをアピールしていかなければいけないんですよ」
Ｔ社長「そうですね。あちらから持って来たものを動かすだけでは
商売になりませんね。うちは部品や構造材を扱ってるんです
が、昔は海外から輸入したものをそのまま売ってました。でも
今は素材を輸入して、部品や構造材にするのは国内でやって
ます。そうしないと顧客の欲しがるものにならないんですね。
うちの新商品開発ってそんなもんですかね」
Ｂ社長「新製品の開発は皆さん色々やっておられるようですね。
Ｏさんのところでは新規事業を立ち上げたと聞きましたが、
新製品開発とはやはり一味違うんでしょうね」
Ｏ社長「最近立ち上げました新規事業のことですね。あれはね、事業
買収なんですよ。某大手企業が採算のわるい事業部門を売り
たがっていたんですね。ある商社筋から話があり、結構有利な
条件で買収できたんですよ」
Ｂ社長「安く買い取ったということですか」
Ｏ社長「いやいや買収価格だけの問題ではありません。人材についても
１人１人確認させてもらい、引き取ってもよい人材を特定しま
した。新規事業とは言え再出発のような今回の場合、これは
大変重要な要素でした」
Ｓ社長「その事業、立ち上がりはうまくいったんですか」
Ｏ社長「ええ、お陰さまで。うちは類似の事業をうまく回していました
から。人がきちんとしていればうまくやる自信はありました」
Ｒ社長「なるほど人ねえ。大いに参考になります。実はうちも某大手が
縮小しようとしている事業所の一部を買収しようとしてるんで
すよ。これは新規事業というよりは、現在の事業の拡大ですね」
Ｓ社長「私のところは今、全く新しい分野に新規事業を起そうと考えて
色々と調査をしているんですが、皆さんにはそんな経験はあり
ませんかね」
Ｒ社長「そうそう、私も今それを考えているんですよ。狙いの方向性は
大体定まったんですが、どういう風にやろうかと思案してるん
です」
Ｔ社長「そうですねえ、全く新しいとは言えないとは思いますが、全く
新しい顧客業界を切り開いたことはありますね。提供する
ものは、従来のものとは若干の違いを出す必要がありましたが
開発というほどの手間はかかりませんでした」
Ｓ社長「どんなことをされたんですか」
Ｔ社長「全く畑違いの営業マンを採用したんですよ。彼が得意とする
業界にも、うちの製品とサービスの需要があるはずだと直感
しましてね。案の定、彼はその業界を丹念に歩いて、初年度に
結構な受注を上げてくれました」
Ｓ社長「なるほど、これも人材の獲得によるということですね」
Ｂ社長「私のところでも思案中のものがあるんですよ。これは取引先
ではなく、全く別のつながりから生まれてきたんです。ある
会合でその方から、君の会社でこんなことができるんでは
ないか、と言われたんです。考えてみましょう、ということ
で今検討を進めているところです」
Ｏ社長「そういう話、何年か前にうちでもありました。始めは苦し
かったですが、今は稼ぎ頭の一つになってます」
Ｂ社長「ほう、どんな風に展開してこられたんですか」
Ｏ社長「当初は、ある素材の加工を取引先から頼まれたんです。その
素材が成長産業の分野でよく使われるものだったんで、将来を
期待できると考えて引き受けました。設備投資もしました。
その取引先の注文だけでこの事業を運営するのは無理でした
から、他にも注文を取りに歩いたんですが、業界の中では
おおよそ取引マップができ上がっていて、うちに来るのは
おこぼれのような小さな注文ばっかりだったんです」
Ｒ社長「今は稼ぎ頭の一つになっているということは、受注先が増えて
加工ロットが大きくなって、設備稼働率を維持できるように
なったということですか」
Ｏ社長「いやいや、そうではないんです。そんな状態で細々と続けてい
たんですが、『もう止めよう』という話も出ました。でも、
長いこと続けてきたことによって技術は蓄積されたようなんで
すね。丁度そんな時に、この素材の新しい用途が急激に増えて
きました。大手でも新用途に対応するには能力が不足して
ましたので、外部に加工委託をする必要に迫られたんです。
どうやら、うちの加工技術が認められたらしく、某大手から
加工委託契約を獲得できました。それからですね、この事業が
成長して稼ぎ頭の一つになったのは」
Ｒ社長「やはり技術の力ですか。それと対象分野の需要拡大との巡り
合わせですね。この二つが必要なんですね、新規事業に成功
するには」
Ｓ社長「それと人材の獲得、類似の事業の経験、も要るということに
なりそうですね」
Ｂ社長「これまでやってきた事業とは全く違う、新天地での新規事業は
やはり難しいということになりますかね」
Ｉ社長「必ずしもそうとは言えないかもしれませんよ。販売チャネルが
使えるとか、営業スタイルや市場開拓のパターンが類似だとか、
そういう共通するベースさえ見出せれば、新天地でもかなり
戦えると思いますよ」
Ｎ社長「結局は、新製品開発にしろ新規事業にしろ、自分の狙う方向を
定めて、皆さんが御披露されたお話の中に出てきたような成功
要因をしっかりと把握して、市場を予測し戦略を考えて、人材
獲得や技術の獲得や営業活動の推進といったことについて、
行動を明確にして実行に移すということでしょうね」
Ｉ社長「それがまた、大きなエネルギーと時間がいることなんですよね」
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読者の皆様の新規事業はどんな風になるのでしょうか。
解決が見えるように課題を構造化する
仕事をすることは、それにつながっている課題を見出しては解決する
ことの積み重ねだと言えます。ということは仕事ができる人とは、課題
を見出すことに長けている人たちや、見出した課題を次々と解決して
いく人たちだということです。
自分の仕事に関わる課題を認識してはいるが、解決行動が取れていない
という人は意外に多いようです。そこで、前に述べました仕事のできる
人の定義は、次のように言い換えることができそうです。
・仕事ができる人とは、解決行動が見える形で課題を捉えることができ
る人たちや、見えた解決行動を実行に移していける人たちである。
このように受け止めますと、解決行動が見える形で課題を捉えるのが
一番むずかしいことがよく解ります。解決行動が見えれば、それを実行
することは自然な動きとして現実化しやすいからです。
こうした視点から課題の捉え方について考え、既に広く知られている
方法を見直してみたり、その世界で実績のある人たちの意見を調査して
みたりしました。
表面化する課題としてよくあるのは、クレームや不具合の解決と再発
防止策の実行、業務の生産性向上、新規顧客の開拓、といったような
ことです。
このような課題は年度計画に組み込まれ、朝礼で確認したり月例会議で
進捗状況を報告したりすることが多いようですが、なかなか解決に至ら
ないケースが多いのです。
その典型的な形は、課題のタイトルだけがスローガンのように掲げられ、
関係者の１人１人はそれを意識して行動しているのですが、解決行動に
までは至らない、というものです。
これは、掲げられた課題が解決行動が見える形で捉えられていないこと
から起こっています。課題の解決を計画に組み込むのでしたら、その
解決行動が見える形で捉えることから始めなければならないのです。
クレームや不具合の解決を取り上げてみます。解決行動が見えるよう
にするには、クレームや不具合の原因が見えるようにしなければなりま
せん。そのために用意された古典的なツールが、ＱＣの７つ道具の１つ
特性要因図です。
特性要因図には、クレームや不具合の原因と想定されることが網羅的に
体系的に整理されます。事実も、理論的な推論も、関連しているかも
しれない現象も、体系の中に整理されます。即ち、特性要因図という
ツールを使って、ある特定のクレームや不具合の発生の仕方を構造化
しているのです。
このようにクレームや不具合の発生の仕方を構造化しますと、この構造
の中に解決の行動や手段が見えてきます。これが、解決が見えるように
課題を構造化するということです。
業務の生産性向上の課題を取り上げてみます。解決行動が見えるよう
にするには、業務のプロセスを見えるように表現する必要があります。
一つの方法として、次のような手法があります。
・縦軸に、業務の流れに沿って業務プロセスの大項目を並べる。
・横軸に、各大項目ごとにこれを構成する小項目を並べる。
・こうして業務プロセスの構造が表現され、全体像が掴みやすくなる。
同時に、業務プロセスの構成要素を具体的に捉えやすくなる。
業務プロセスの全体と各構成要素が見えるようになれば、生産性向上を
阻害している要因がどの要素に、どのプロセスに潜んでいるかを見出す
ことが可能になります。こうして生産性向上という課題を、解決策が
見えるように構造化することができるのです。
新規顧客の開拓という課題についても、類似の方法で構造化すること
を通して、解決策が見えるようにすることができます。上記に紹介した
手法以外にも、ツリー構造で捉えたり、マインドマップの手法を活用
したりするなどの構造化手法も使えます。
また切り口も、前に紹介しました特性要因やプロセスの他に、時間軸、
因果関係、地域、分野・領域などがあり、これらの切り口の組合わせも
構造化に有効です。
課題の構造化は、解決策を見出し実践行動を引き出す上できわめて
効果的な手法です。何を切り口にしてどのような手法で構造化するかは
課題によって様々ですが、課題の特性に適した切り口や手法が必ずある
はずです。上手に活用していただきたいと思っています。
後から来る者を信じて
人間の使命は生きることです。これを個人レベルを超えた視点で考え
ますと、人類の使命は生存し続けることだ、ということになります。
これを基盤として、個々の人間は生きることを使命としているのです。
この人類の使命は、社会や組織の使命にも通じるものがあります。
企業の使命は存続し続けること、民主主義社会の使命も存続し続ける
こと、といったことが成り立つのです。
「人類や企業や社会が存続し続けるために」という旗印を掲げますと、
個々の人間の生き方を探る方向が見えてくるように感じます。英雄一人
だけが壮大な生き方をすることにどんな意味があるかも見えてきます。
今回はそんな視点から、個々の人間の生き方を考えてみます。
ある時いろいろと考えたことがありました。夢を持つということに
ついてです。その結果として得た結論は、次のようなことでした。
・夢と志と野心とは違う。
・夢の段階では具体的な行動が未だ明確になっていない。
・志とは、具体的な行動がある程度見えており、それを実現するには
多くの時間と労力と人々の協力が必要なものだ。従って、自分の代
だけで実現するとは考えず、次の代に引き継いでもらおうと考える。
・野心とは、具体的行動が見えており、それを自分の代で実現しようと
考えるものだ。
こうしたことを踏まえて、自分の志として何を持とうかと必死になって
考えたものでした。決して野心を持つまいとも思いました。歴史を振り
返ってみますと、野心の実現はその代の繁栄をもたらすものの、末代は
不幸になっていることが多いと感じたからでした。
２００年、３００年続いてきた老舗企業は、決して野心の実現に走って
いませんし、徳川３００年の基礎を築いた功労者たちの行動も野心とは
逆の行動を取っていました。
以前にも書きました武田信玄に関する一文を再掲載します。
戦国時代に武田信玄は、自分が天下に号令するという野心を遂げようと
して上洛の軍を起こしました。自分の余命はもう僅かしかないとの自覚
もあったのでしょう。しかし、彼の命は上洛を果たす前に尽きてしまい
ました。そして、それが武田家滅亡の糸口となりました。
信玄が自分の余命が少ないとの自覚を持った時に、自分の野心よりも
武田家の存続を重要視し、領国経営、人材育成、環境適応戦略に適切な
手を打っていたら、その後の天下の状勢は歴史に記録されているものと
違っていた可能性もあります。
老舗の経営語録のように「天下に号令する力を獲得するのは一代や二代
でやるものではない。何代にもわたる努力を重ねて実現するものだ」
との認識が信玄にあったら、と思うと残念な気もします。
野心の実現とはこういうものです。信玄が、天下に号令することを
野心ではなく志として捉えていたなら、自分の志を継いでくれる人材を
育て、他の戦国大名に負けないだけの国力の維持に努め、次代、次々代、
あるいはそれ以降の代で志を実現できるよう、後から来る者を信じて
託す戦略を取ったことでしょう。
では、志の実現に邁進し、それを受けてくれる後継人材を育てるには
何が必要なのでしょうか。それは、後から来る者を信じて事に取り組む
精神です。そして、そういうリーダーシップを発揮することなのです。
リーダーシップの要諦は、ゴールに向かって人を動かすことにあり
ます。そのための方法の一つは、自分が先頭に立って進むことです。
しかし、それだけでは充分とは言えません。自らは背後に立ち、前に
いる人たちが一歩を踏み出せるように、進むべき道筋を示したり、勇気
付けたりすることも欠くことはできません。
そして、自分の残した実績は自分の足跡であり、それが砂の上に残した
第一歩となって、後から来る者が志へと続く道を作っていくものだと
受け止めることが重要なのです。
こうしたリーダーシップは、後から来る者を信じているからこそ発揮
できるものなのです。
以上の内容の一部は、アパルトヘイト撤廃を成し遂げたネルソン・
マンデラの行動哲学についての文献を参考にしています。
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