| 月刊：考研レビュー |
| ２０１６年１２月号 ４週：異論を唱えることは義務 |
| ３週：組織の老化に対処する |
| ２週：幹部への登用：考房だより１３４ |
| １週：より良い判断、決断のための指針 |
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異論を唱えることは義務
組織にしろ単なる会合にしろ、複数の人たちが集まって議論・討論や
意見交換を行う場では、全員が同じ考えや意見を持っていることはまず
ありません。業務や立場、さらには生き方が異なる人たちが集まって
いる訳ですから、考え方や意見が違ってくるのは当然のことです。
そんな状態にありながら、「何かおかしいところがある」とか「自分に
はそうとは思えない」といったことを感じても、自分の意見を封印して
しまうことが往々にしてあります。
「この場では言わないほうがよい」、「発言の責任を取らされる」、
「自分が間違っているのかもしれない」、「この件は先送りしたほうが
よい」、「周囲から異端なやつだと思われたくない」といったことが
その理由として上げられます。
こうしたことが起こる理由は色々ありますが、代表的なものは次の
ようなことでしょう。
・不審に感じた下の者が、「上の人には知らせないほうがよい」という
ような慮りからの判断をしてしまう。
・集団思考型マインドセットが働く。
上の人には知らせないほうがよいという慮りは、事が起こった際に
責任者の「私は聞いていなかった」という発言を呼び起こします。実際
本当に知らされていなかった訳です。
しかしこの発言は、責任者の無能さと、組織内の情報伝達の仕組みの
劣悪さを表面化することになり、問題をますます悪化させることになり
ます。これは、異論を表明しなかったことの罪悪だと言えます。
集団思考型マインドセットとは、組織の内部合理性を優先し、自らの
行動は正しいとの思い込みを持ち、外部からの異論を許容せず、内部
でも異論を自己抑制する、といった組織の精神構造です。長い間続いて
いる大組織や官僚機構によく見られます。
集団的マインドセットに取り込まれた人たちの特徴として次の６項目が
挙げられています。
１）何としても責任回避を図る。
２）不確実性の下で判断するよりも、先送りをもって是とする。
３）人はスキルと自発性ではなく、権限で動くと信じている。
４）「手続き論」に異常なまでのこだわりを見せる。
５）無謬性に固執する。
６）組織の形態を都合よく操作することで、その場の状況の打開を図る
ことが是であるとする。
こうした集団的マインドセットが働いている状態の下で、既得権益の
死守、前例踏襲、現状維持と既存組織の拡大、新しいことや改革への
面従腹背・不作為・先送りといったことが行われます。
このような組織内の人たちは、前に紹介しましたような理由で、異論を
持ってもそれをとなえることに背を向けてしまいます。自分も含めて
多くの異論が封殺される場を、これまで何度も経験しているからです。
異論が出てこない組織では改革を行うことはできないでしょう。変革
も新しいことも受け入れない組織は、将来にわたって存続することは
困難だと言わざるをえません。
そう考えますと、組織内で異論を出すことは組織員としての義務と言え
そうです。異論を表明しないことは組織員としての義務を果たさない
ことなのです。異論を表明する義務とは、相手の意見が間違っていると
思ったら、相手が上司でも発言する義務です。
そうは言っても、前に紹介しましたような異論の出ない組織で異論を
表明することは、表明者に不幸をもたらします。従いまして、組織を
作り替えて、異論を表明するという義務を果たせる組織にしなければ
なりません。
異論を表明する義務を果たせる組織に作り替えるための、一つの提案
を紹介します。
・トップはあえて過去を否定し、新たな挑戦を行うという覚悟を持つ。
・トップとチームリーダー、チームメンバーは、直接意思疎通を図る。
・ある程度の方向性が見えた段階で、改革が後退しないよう、社内の
人事システム、業績管理などの仕組みで縛る。
・変革の中心となる多様性を持ったチームを作る。
どの項目も容易に実行できるものではありませんが、自分なりに、自社
なりに、何をしたらよいのかを探る糸口を示してくれると思います。
変化が速く激しいこの環境の下で、組織が生き続けるために必要な
ことの一つは、異論をとなえることは義務だと認識することなのです。
組織の老化に対処する
個体としての生き物は時間の経過とともに老化して死を迎えます。
生物分類学上の“種”としての生き物は、繁殖によって生き続けますが
環境変化によって死滅に至るものもあります。
環境変化の下で起こる、自然選択による死滅を乗り超えるために、種の
内部では変異種が発生し、新しい環境に適合できる変異種が種の代表と
して生き延びます。
また、私たちの生きるこの世界は、物理学的な意味でエントロピーが
増大し続け、やがて全く動かない死の世界と化すと見られています。
生き物も物理的世界も老化と死から逃れることはできないというのが
この世界の大原則のようです。
エントロピーとは簡単に言ってしまえば“無秩序の度合いを示す指標”
といったところでしょうか。コーヒーとミルクが未だ混ざり合って
いない状態を、エントロピーが小さいと言います。
これが混ざり合ってしまった状態を、エントロピーが大きいと言います。
物事の自然の成り行きは、エントロピーが小さい状態から大きい状態へ
の遷移という非可逆的な変化です。
混ざり合ったコーヒーとミルクは簡単には分離することはできません。
化学的あるいは機械的な仕方で分離することができますが、カップ内の
コーヒーとミルクのエントロピーは小さくなっても、化学的変化や機械
的変化を起こしているカップ外の世界では、エントロピーが大幅に増大
しているので、全体のエントロピーは大きくなってしまうのです。
実はこうした形での老化は、組織にも言えることなのです。組織の
老化・死滅も、生き物の老化や死滅と同じような経過をたどると言え
ますし、エントロピー増大の法則の枠外にある訳ではないと言えます。
こうしたことを踏まえて、組織の老化や存続について考えを巡らして
みました。
新しく生まれた組織で明示されているのは、基本理念と行動の指針
くらいでしょう。組織内の人々は幅広い裁量権が与えられ、比較的自由
に動き回ることになります。
組織として受け止めることが必要な課題に遭遇した場合には、人々は
声をかけ合って集合し、合議の上で組織の行動を決めます。自由な個人
行動と合議による組織行動の繰り返しの中で、組織の活動は進展して
いきます。
このような組織の活動の繰り返しの中には、同種のものがあり、繰り
返し頻度の高いものも低いものもあります。また、新たに組織員となる
人たちも加わってきます。
このように状況が推移していく中で、行動プロセスや業務の規定などが
制定されます。こうして、業務効率や活動の生産性が高まっていき、
組織の在り方が確立していきます。
これに合わせて、個人行動の自由度は制約されるようになり、人々が
知恵を出し合って行動を決める機会も減っていきます。こうして、幼児
や子供の組織から大人の組織に成長する訳です。
こうした組織の成長は、視点を変えてみれば組織の老化と見ることが
できます。人々は以前ほど考えなくても行動できるようになっています
から、ある種の業務は思考停止状態でも進めることができます。
こうして組織のメンバーの形式的行動や手続き行動が増大していきます。
これが一般的に官僚的組織と呼ばれるものです。このような組織になり
ますと外部の環境が変化しても、増大した形式的行動や手続き行動は
そのまま維持されることが多いものです。このまま変わらずに組織が
維持されていくようですと、やがては死を迎えることになります。
こうした組織が生き続けるために必要なことは、変異種に相当する
人たちが内部発生するか、あるいはこれを呼び込むことです。こうした
人たちの中から、変化した新しい環境の下で生き続ける者が現れたり、
その環境に相応しい事業を起こす者が現れたりする可能性が高いのです。
このような人たちの典型例として、企業家精神を持つイノベーターが
挙げられます。しかし皮肉なことに、老化した組織ではこうした人たち
を活かすことが困難なのです。なぜなら、前に述べましたような官僚的
組織では、形式的な仕事や決められた手続きを着実にこなす、オペレー
ション型人材が組織内で幅をきかせるようになっているからです。
エントロピーの視点で組織をみますと、生まれて間もない若い組織
では、組織内の人々は個々人の特性を表に出して、比較的自由に行動
しています。前のたとえで言えば、コーヒーとミルクとが未だ混ざり
合っていない状態です。
同じ組織内での活動が長くなりますと、徐々に組織風土が固まってくる
と同時に、人々の活動にも考え方にも似たようなパターンが多くなって
きます。即ち、コーヒーとミルクが混ざり合ってくるのです。こうして
組織のエントロピーは増大し、老化していくのです。
改善や改革は組織のエントロピーを下げるものです。しかし、組織外も
含めて受け止めますと、全体のエントロピーは増大します。これは物事
の在り方の法則ですから仕方のないことです。
組織の老化は、以上のように捉えることができます。コンサルタント
の細谷功氏は、組織の老化への対処法として、次のようなものがある
ことを示しています。
・組織の老化は止められないという現実を受け入れる。
・新しい世代を生み出して、世代交代を図る。
・組織の課題を可視化した上で、思考停止に歯止めをかける。
・明確な戦略を持つなど、社員の方向性を統一する。
組織運営にお役に立つようでしたら幸いです。
幹部への登用：考房だより１３４
社員の能力と意識を見極め、幹部に登用するのはなかなか難しい
ものです。多くの社長様方がこの問題でお悩みのようです。以下に
ご紹介する対話が少しでもお役に立てば幸いです。
-------
Ｉ社長「最近、全管理職に面接をやりましてね。ちょっとがっかり
してるんですよ」
Ｓ会長「どうしたんですか。何かあったんですか」
Ｉ社長「結構やり手だと思って要職に付けていた部長が、意外にも
意識が低いことが分ったんです。それも一人だけじゃないん
ですよ」
Ｎ社長「それはえらいことですね。どうしてそんなことになったん
ですか」
Ｉ社長「業務成績も良いし、会議などでの言動も積極的で前向き
でしたし、トップの意向もよく理解しているように見えたん
ですね。ですから、この男だったらこの職位と立場を充分に
背負えると踏んだんです。おおよそ２年くらい前のことです
がね。ところが、今回の面接で分ったことは、言うことが
消極的で保身の言い訳が多く、この２年間は表面的なことに
しか取組んでいないことが分ったんです」
Ｎ社長「それで、その方たちをどうされるお積もりなんですか」
Ｉ社長「幸いにも後から続く人材が育ってきていることも、この
面接で分りましたから、このクラスを１年掛けて鍛えて
慎重に見極めてこの職位に付けることを考えてます。意識の
低い者たちには、幸いにも彼らにやってもらいたい仕事が
ありますので、そちらで処遇する積もりです」
Ｍ社長「それは幸いでしたね。似たようなことで私も苦労した経験が
あるんですよ。その時には、その男に辞めてもらうしかあり
ませんでした。後に続く人材もすぐには居ませんでしたので、
その職位は私が兼務するしかありませんでした」
Ｓ会長「それはきつかったですね。それで後任者はできたんですか」
Ｍ社長「ええ、なんとか。今度は同じ轍を踏まないよう、じっくりと
見てきましたので自信があります」
Ｉ社長「どんな風にやられたんですか。興味がありますね」
Ｍ社長「一つは、全社の仕事のプロセスが見える仕事に付けました。
そこで、各プロセスを担当する者がどういう責任を背負って
仕事をするべきかを理解させたんです。それから部門横断の
改善活動の中心メンバーに任命しました。知恵や工夫を出し
惜しみしないかどうかを見たかったんです。活動を指導して
もらった先生にも、彼の能力、意欲、行動特性などについて
意見を聴かせてもらいました」
Ｉ社長「なるほど。多面的に人となりを見極められた訳ですね」
Ｎ社長「私もＭさんのやり方に賛成ですね。私の経験から見ましても、
関係している第三者の目を通した判断は重要だと思います。
私は、お客様の幹部の方のご意見を聴かせてもらって、ある
社員の昇格を見送ったことがあります。その際も、お客様の
ご意見を丸呑みにした訳ではないですよ。お客様から頂いた
視点から、しばらくその社員を見ていたんです」
Ｉ社長「そうですか。そういうやり方もあるんですね。いろいろと
考える方向が見えてきたような気がしてきました」
Ｓ会長「私が以前に失敗したケースは少し違うんですよね。よく
やってくれて、私も目を掛けていた社員を要職に登用したん
です。私の見込み通りに、彼はその職責を果して私の期待を
超えるほどの業績を上げてくれました。ところがですよ。
私が社長から会長に退きましてからどうもおかしくなって
きたんですね」
Ｎ社長「そういうことはよくありますよね。人と人との関係の具合が
違っている場合には」
Ｓ会長「それは私も重々承知している積もりでした。その社員は
社長が交代してもやれると、私は見ていたんです。ところが
違った。その社員が色々と苦しんで私のところに相談に来た
時にようやく解ったことがありました。彼は職責を果すとか
業績を上げるとかに喜びを感じていたのではなかったんです。
彼はただ私を喜ばせることにやりがいを感じていたようなん
です。要するに、彼は仕事の方に顔を向けず、私の顔色の
方に顔を向けていたんですね。私の大失敗でした」
Ｎ社長「結局、その社員はどうされたんですか」
Ｓ会長「自分から退職していきました。冷たいようですが、それを
見守っているしか為しようが無かったですね」
Ｉ社長「Ｓさんのケースも、当初から第三者の目を通すことも含めて
考えていたらよかったのかもしれませんね」
Ｍ社長「そうですね。できるだけ多くの信頼できる人たちの意見を
聴かせてもらい、それを参考にしてまたしばらくの間観察
することが必要のようですね」
Ｎ社長「それと、できるだけ多くの色々なことをやらせて、意識の
向いてる方向とか、特性とか、人間関係への対処の仕方
などを見ることも必要ですね」
Ｓ会長「何かもう一つありそうな気がします。潜在的権限の使い方と
いうか取り方というか、そういうことを仕事に結び付けて
考えることができるかどうかが大切だと感じているんです。
部門横断的なプロジェクト活動のリーダー等をやらせますと、
それが結構見えてくるんですね」
Ｉ社長「Ｍさん、Ｎさん、Ｓさんがおっしゃった３つのポイントが、
幹部登用に当っては要となりそうですね」
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読者の皆様はどのようにお考えでしょうか。
より良い判断、決断のための指針
私たちは日々の暮らしの中で、様々な決断をしています。判断や決断
の対象には、昼食に何を食べるか、夏の賞与で何を買うかといったこと
も含まれます。人生は判断と決断の連続なのです。
ビジネスにおける判断や決断は、もう少し重みがあり複雑ですし、失敗
した場合の悪影響も大きいと言えます。そこで、適切な判断や決断は
どのようにして行われるのかについて整理してみました。
一般的に言われている“正しい決断を導くプロセスとは次のように
整理されています。
１）問題を特定して定義する。
２）意思決定の基準を決める。
３）基準に重み付けをする。
４）選択肢を考え出して列挙する。
５）各選択肢を評価する。
６）最高点を与えられた選択肢を選ぶ。
この６項目に基づいて合理的な判断と決断が行われることが望ましい
のでしょうが、なかなかそうはいかないようです。合理的な判断や決断
は現実的にむずかしいからです。その理由は、次のような誤解が存在
するからです。
・問題は明確で、あいまいなところがない。
・あらゆる基準を特定し、あらゆる選択肢を考え尽くすことができる。
・基準や選択肢には重要性を正しく反映した順位と重み付けができる。
・完全な情報を得るのに制約が無い。
・意思決定する人は、それぞれの選択肢を正確に評価することができる。
以上の誤解内容を吟味してみますと、この５項目の全てを満足して
いる判断や決断の対象は皆無に近いということが理解できます。私たち
がビジネスの場面で判断や決断を求められる課題とは、そういった類の
ものなのです。
こうした環境や状況の下でも、判断ミスを減らして正しい決断を下す
ことが求められています。こうした求めに応じてよりよい判断を行い、
適切な決断を下すための指針が提案されていますので、その幾つかを
紹介します。
＊選択肢は多めに挙げるべし
狭い範囲だけで考えないようにします。他にもっと良い選択肢がある
のではないか、と考える姿勢を失わないようにするのです。判断を
誤る一番の原因は、選択肢を見落とすことだからです。
＊無駄と思われる選択肢は捨てるべし
前項とは矛盾するようですが、多く挙げた選択肢をよく吟味し、ここ
から先は検討の必要無しと即断できるものは捨てます。こうして、
多くの選択肢で複雑化している状態を整理して単純化することができ
ます。この時、過去の経験や直感が役に立ちます。一旦挙げておいて
捨てるのと、見落としていて挙げないのとは全く違います。
＊最悪のケースを忘れるべからず
ある選択肢を選んだ場合に、その先に何が起こるかを考える必要が
あります。選択肢ごとに先行きの最悪のケースを想定し、その中で
さらにどれが最悪かを査定します。最悪のケースが予想されるものは
選択肢から外すのがよいでしょう。
＊自分の思い込みを疑うべし
自分が考えていることが間違っている可能性もあることを否定しない
姿勢を持つことが大切です。自分が考えていることはあくまでも仮説
であり、事実ではないからです。検討の過程で新しい情報が入ったり
した時、適切に対処する上で大切なことです。
＊情報に対して、本当にそうなのか？という素朴な疑問を持つべし
もっともらしく伝えられている話をあっさりと信じてしまうことは、
結構多いようです。また、単純化された世間の常識も鵜呑みされがち
のようです。このような情報を疑わずに信じたゆえの判断ミスは日常
でも結構多いようです。「本当にそうなの？」と問いかける姿勢が
判断ミスを防ぐ上で有効なのです。
＊小さな確率で起こることにも備えをすべし
判断ミスとは、間違った行動を取ることだけではありません。必要な
対策を取らないことも判断ミスになります。どんなことでも１００％
確実なことなどありません。判断した通りにならない確率が小さいと
考えられる場合でも、それに対する備えをしておくことが重要です。
事前に予防策を取ること、そして、起こってしまった際に取るべき
対策を準備しておくことが、これに当ります。
以上のようなことに日常的に気を回す習慣を付けておくことが、適切
な判断、決断を行う際の力になるだろうと思います。
このページで解説されている内容の実践について、無料相談を承っております。
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