| 仕事力：既刊号 |
| ２０１９年 １月号 ４週：数字の裏にある理由を掴みにいく |
| ３週：内発的意志の力 |
| ２週：時間記録の分析からの自己革新：考房だより１５９ |
| １週：多面的に捉える思考 |
数字の裏にある理由を掴みにいく
データ解析や統計がもてはやされているようです。特にビッグデータ
解析が注目を集めるようになってから、その傾向に拍車がかかっている
ようです。
ところがその一方で、数字や統計に振り回されたり、データと称して
提示されたものの嘘に騙されたりしないための「統計リテラシー」とか
「ナンバーセンス」と呼ばれるものも注目されるようになりました。
こうした状況が示していることは、データ解析を行う側にも、解析結果
に基づいて物事の在り方を掴みにいく側にも、数字に対するセンス、
捉え方、意味を掴みにいく思考、などに正当性、妥当性、適切性が求め
られているということです。
数字には説得力があります。説明にしてもプレゼンにしても、言葉や
熱意だけでは相手に届かないことが、数字のデータに基づいて説明する
ことにより理解や納得が得られたりします。数字を示すことによって、
それが事実であると受け止められやすいからです。
問題が潜んでいるのは、数字やデータの表現法、そしてデータ解析の
際に設けられる前提です。これらは、表現したり解析したりする主体者
が何を意図しているかによって、人々をどちらの方向に誘導しようと
しているかによって、恣意的に選択されるからです。
二つの物量に大した差がないのに、その差を強調しようという意図が
あれば、真っ正直で純粋な棒グラフではなく、棒の中間をカットした
棒グラフで表現すれば効果的です。このような棒グラフを一見しただけ
の人は、この二つに大きな差があるとの印象を持ってしまいます。
データ解析に際しては、集めた膨大なデータのどの部分に注目するか、
どのような関係を明らかにしようとしているかによって、異なる結果が
出てきます。場合によっては正反対の結果さえ出てくるのです。
ビッグデータ解析が注目されていますが、データ解析で重要なことは、
どれだけ多くのデータを分析するかではなく、どのように分析するかだ
と言えます。
一般的に言われていることは、社会科学の統計モデルは、人間の行動
の理由ではなく相関関係に基づいており、そのようなモデルが描き出す
姿は、当然ながら現実を充分に捉え切れていない、ということです。
統計モデルはニュートンの重力モデルとは違います。上にある物体を
下方に落とす力は、昨日も今日も明日も働きます。しかし、現実の生活
世界の相関関係には一貫性に乏しいものが多いと言えます。Ａさんが
今日緑色の傘を持っているからといって、次に買う傘も緑色だとは断言
できないのです。
因果関係を無視するモデルは、物理学の世界ではモデルとして認められ
ません。この限界は、データがどれだけ大量に有っても乗り越えること
はできないのです。
データ解析の結果に問題がありそうだとか、何か腑に落ちないと感じ
た時、その数字や解析結果を裏付ける理由、特に因果関係の有無に注目
しなければなりません。
そしてさらに、データの数量に惑わされず、解析の前提をどのように
置いているかに注目し、そのような結果を導き出したプロセスが適切で
あるか、結果を因果関係で裏付けることができるかを掴みにいくことが
必要です。
統計リテラシーとかナンバーセンスがあるとは、以上のような姿勢と
行動が身に付いていることを指しているのでしょう。
内発的意志の力
世界の動きを見ていますと、今は「変化こそ常態」という言葉が抵抗
なく腹に落ちます。振り返ってみますと、今に限らず、第二次世界大戦
が終わって世界が東西対立を基盤に成り立っていた頃でも、日本が高度
経済成長をを謳歌していた頃でも、変化は常態だったと言えそうです。
ポーランドの暴動もハンガリー動乱も、そしてプラハの春も安定の中に
変化が蠢いていたことを示しています。日本の高度成長期にも、隆盛を
誇っていたトップブランドが崩壊し、２位以下に甘んじていた事業者が
トップに躍り出るといった変化が内在していました。
このように「変化こそ常態」は当たり前のことだったのです。鴨長明が
方丈記に「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と
語ったのは鎌倉時代でした。古代ギリシアの哲学者ヘラクレイトスは
「万物は流転する」との言葉を残しました。先賢たちは、変化は常態で
あることを見抜いていたのでしょう。
私たちは個人も組織も変化が常態である世界で生きています。そんな
世界で生き続けたり存続したりするために必要なことは、自分も変わり
続けること、自己を変革し続けることです。
変わり続けたり変革し続けるには、変革力が必要です。変革力が欠如
していたり弱かったりすると、長期低迷、衰退、消滅といった事態を
招くことになります。
失われた２０年と呼ばれる時代を振り返ってみますと、多くの日本の
企業に過度の分析主義や計画主義がはびこり、元来持っていた現場の
変革力を弱体化させてしまったことが問題だったとする所論があります。
事業計画の策定やロジカルな分析は重要ですが、それらを正面切って
徹底しようとすると、社員はますますオフィスにこもって現場に出なく
なります。会議室にパソコンを持ち込み分析シートを睨み続けるのに
時間を取られ、現場の現実を感じ取ることが希薄になるのです。
この時代に、こうした日本の企業とは全く異なるスタンスを取って
行動したのがアメリカの企業ＧＥだと言われています。競争力の減退に
直面してＧＥが行ったことは、分析力の強化ではなく、ワークアウトと
呼ばれる全社員が自ら主体的に業務変革に取り組む組織づくりでした。
この活動を２０年以上にわたって続けた結果、ＧＥ内には階層に関係
なく全員がそれぞれにリーダーシップを発揮して変革に挑むカルチャー
が根付き、変革力が強化されたとのことです。
アメリカの著名な経営者の一人であるポール・ボールマンは「戦略
２割、実行８割」と言っています。即ち変革に当たっては、現場が持つ
変革力が如何に重要かを示している言葉だと言えます。
分析力を駆使して綿密に数字を分析し、計画力を駆使して精力的に戦略
構築に励むほど現場から遠ざかることになり、実行するための時間と
エネルギーが減退していきます。
こうした状態にあっては、折角策定した戦略を何としても実現させよう
というコミットメント（肩入れ、責任）が現場に湧いてこないのです。
戦略や計画が策定されますと、それを達成する上でのコミットメント
が求められます。しかし、コミットメントとは、他者から強制される
ことによって生まれるものではありません。内発的な、自発的な強い
意志から生まれるのです。
現場で物事に対応しながら、これを何としても成し遂げたい、何とか
して成功させたいという強い思いを持った時、人々はコミットメント
するのです。現場が持つ変革力とはこういうものです。
前述したＧＥの取り組みは、こうした変革力を組織に定着させるため
のものでした。その軸となっていたのが、全員がそれぞれにリーダー
シップを発揮することだったのです。
マネジャーシップとリーダーシップとは別物です。マネジャーシップが
職位職階との結び付きが強いのに対し、リーダーシップは一人一人が
それぞれの立場に応じて持つことができるものです。
全員がリーダーシップを発揮するとは、上位にいる少数のリーダーに
依存することなく、全員がその組織でその立場で何ができるかを考え、
他者からの強制に従うのではなく、内発的な、自発的な意志を持って
動くことなのです。
こうしてこそ、戦略や計画に対するコミットメントが生まれ、変わり
続けたり変革し続けることが可能な組織ができあがるのです。その根底
にあるのが、内発的な意志の力を信じることなのです。
時間記録の分析からの自己革新：考房だより１５９
今月も、第２話．目標達成に関する至言（時間管理）からです。
前回は、自分の時間が消えて行く先を探るための、時間記録について
説明しました。今回は時間記録を分析して、自分の仕事のスタイルの
変え方を探ってみます。先ず時間記録の分析の切り口を挙げてみます。
１）仕事をこなすのに、思った以上に時間が掛かったものはないか？
また、その原因は何か？
期待はずれだった人、甘い自己判断、苦手の仕事、集中不足、
必要以上のやり過ぎ、など
２）電話に掛かった時間はどれくらいか？ 分類して捉えてみる。
外からの通話、外への通話、長話の相手、短縮したい通話、など
３）連絡文書や定期レポートに掛かった時間はどれくらいか？
そのうち部下に任せてもよかったと思うものは？
４）職場内でのコンタクトの時間はどれくらいか？
そのうち、あまり必要でなかったと思うものは？
５）移動に要した時間は妥当だったか？
無駄に動き回ったと思うものは無かったか？
６）相談や質問で邪魔が入った頻度はどれくらいか？
それで仕事のペースは狂ったか？ 重要な相談だったか？
７）ぼんやりと無為に過ごした時間はどれくらいか？
頭の整理に必要だった時間、仕事を逃げていた時間、など
８）意外に短時間で済んだ仕事は？ また、それは何故？
９）中断なしで一つの仕事に没頭できた最長時間はどれくらいか？
10）１日の中で集中時間が最も長かった時間帯は何時ころか？
11）自分の思惑通りに時間が使えた部分はどれか？
12）適当な休息を取っているか？
13）他人に成り切ってこの時間記録を見て、どんなアドバイスをするか？
これらの切り口からの問いかけに対して答を出していくだけで、自分の
時間管理の仕方、の改善点がかなり見えてくるはずです。直ぐに実行
できることは明日から早速始めることです。
直ぐには無理だが何とか改善したいことは、実現のための条件を明示して
みることです。そして条件をクリアーするためにどうすればよいかを
検討し、その実現に向けての行動設計をするとよいでしょう。
次回は、また違った角度からの分析と行動改善のお話をします。
多面的に捉える思考
私たちの周囲で発生している事象には複雑なものが多いものです。
ある現象が現れた場合、そこには他の多くの現象や物事が絡んでいます
から、全ての事象は複雑さを持っていると言うほうが妥当なようです。
即ち、私たちが生きている世界で起こっている事象は、全て複雑さを
持っていると受け止めるべきなのでしょう。こうした事象を適切に理解
するために必要なものが、多面的に捉える思考です。
多面的に捉える思考とはどういうものかについては、絶対的なものや
権威付けされたものは無さそうです。そこで、大雑把に捉えてみようと
思います。
まず思い当たるのは、ある事象を見るに当たっては多くの視点が存在
することです。一番簡単なことから見ていきます。ある物が置いてあり
こちら側に立って見ている、という状況を考えてみます。
置いてある物のこちら側がよく見えますから、その物のこちら側がどう
なっているのかを明確に捉えることができます。しかし、物の向こう側
は見えませんので、想像するしかありません。
大方の場合、向こう側も同じような状態だろうと想像してしまいます。
これが一面的な捉え方です。多面的に捉えるには、向こう側からも、
上からも下からも、左側からも右側からも見る必要があります。
こうしたことを実行して、その物がどのようなものか、どのような状態
になっているかを正しく捉えることができるのです。
仕事に関してある事象が発生したとします。当然のことですが、自分
としてはこれをどう捉えるかを考えます。他には何も考えずに結論を
出してしまう場合、これを一面的に捉える思考と言います。
この事象には多くの立場の人が関係しているはずです。顧客、上司、
社内の関連部門、取引先、競合相手、といった人たちです。これらの
人たちはこの事象を、自分とは違った立場から捉えるはずです。
完璧に一致することはできないにしても、関連するこれらの人たちの
立場に考えを巡らして事象を理解しようとする場合、これを多面的に
捉える思考と呼ぶことができます。
多面的に捉える思考は、関連する人たちの立場の違いから生まれる
だけではありません。私たちの周りには多くの学問分野があります。
学問分野が違いますと、同じ事象を対象にする場合でも異なった捉え方
が生まれます。
よく引き合いに出されるのが経済学と社会学とか、歴史学と民俗学と
いった分野です。同じ社会現象を解釈するに際して、経済学はその時代
の平均的あるいは代表的な人間の思考と行動から捉えに行きます。
社会学では、一人の人間あるいはある特性を持った人間集団の思考と
行動から捉えに行きます。歴史学と民俗学にも同じような捉え方の違い
があります。
こうした学問分野の違いから生まれる異なる捉え方は、ある時代のある
地域の有様の違った面をあぶり出します。そしてその有様は、両方とも
その時代と地域を適切に捉えていると言えるのです。
こうしたことから言えることは、私たちの周囲で発生している複雑な
事象の根本を適切に捉えるために必要なことは、多面的に捉える思考だ
ということです。
学びの分野に一般教養とかリベラルアーツと呼ばれるものがあります。
リベラルアーツの起源はギリシャ・ローマ時代にまでさかのぼります。
文法学、論理学、修辞学の人文系３科目と、幾何学、算術、天文学、
音楽の理科系・芸術系４科目のことをこう呼びました。
現代では、同じような役割を担う分野としてグローバルリテラシーと
呼ばれるものが重要視されています。簡素に定型化された一例を紹介
します。
グローバルリテラシー ＝ グローバル視点＋リベラルアーツ
リベラルアーツ ＝ 自由の精神＋教養
教養 ＝ 多様な分野の横断的理解を通しての各文化のコアの把握
現代における多面的に捉える思考とは、グローバルリテラシーを学ぶ
ことを通して身に付いてくるのだろうと思われますが、如何でしょうか。
このページで解説されている内容の実践について、無料相談を承っております。
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