| 仕事力：既刊号 |
| ２０２３年 ３月号 ４週：わかりやすい話し方 |
| ３週：実現確率の高い戦略を：考房だより２０９ |
| ２週：仕事の生産性を上げるものの考え方 |
| １週：一礼の意味 |
わかりやすい話し方
議論、相談、商談、根回し、講演など、多くの場面の軸となるのが
対話や講話などの話すことです。しかも、それぞれの場面で話し方が
違ってきます。場面に合わせた話し方が求められるのです。
いずれの場面でも、話し方の要件として第一に上げられるのは、わかり
やすいことです。わかりやすいとは、理解しやすい、伝わりやすい、
賛同を得やすい、といったことです。
わかりやすい話し方をする能力は、仕事力を構成する重要な要素の
一つです。わかりやすく話す上で心がけたい項目に、次のようなものが
あります。具体的には場面ごとに若干の違いはありますが、共通する
ものとして受け止めてもよいでしょう。
１）話すスピード
２）間の取り方
３）話す際の癖
４）声の大きさ
５）声の質
６）歯切れの良さ
７）アクセント、イントネーション
４）～７）は先天的な資質や生まれ育った環境などの影響が強いため、
改善するのに苦労があります。声の大きさは、体力的なものに左右され
ますし、声の質は甲高い声とか低すぎる声とか、生まれつき与えられた
資質が大きいのです。
歯切れの良さも肉体的条件によるところが大きく、アクセントやイント
ネーションも生まれ育った環境などの影響を強く受け、改善には大いに
苦労するものです。
一方、話すスピードや間の取り方、話す際の癖は改善できる余地が
大きいのです。例えば、早口の人でも気をつけて、意識して話すように
すれば、ある程度までゆっくりと話すことができるようになります。
話すスピードの速い人は一般的に間の取り方も下手なようです。従って、
話すスピードと間の取り方は一緒に改善することに取り組むのが良い
ようです。
「えー」とか「あのー」といった話す際の癖は、聞き手にとって耳障り
なものです。こうした癖は自分で意識できれば改善の可能性は高いため、
努力の成果が出やすいと言えるでしょう。
わかりやすい話し方で最も重要なのは、話のスピードです。一般的に、
速すぎるとわかりにくく、比較的遅めのほうがわかりやすいようです。
普通の人が話すスピードは、３００字／分程度と言われています。
しかし、最近は変化の速い時代であり、何事にもスピードが要求される
せいか、早口の人が増えているようです。確かに、より多くの情報を
一定の時間内に伝えようとすれば早口になります。
しかし、多くの情報を発信することができたからといって、それがその
まま聞き手に伝わる訳でもなく、かえって逆効果のほうが多いと言われ
ています。
データとして残っているものに、歴代の総理大臣の演説スピードが
あります。３つほどあげてみます。
・佐藤栄作：２２７字／分
・田中角栄：２４４字／分
・大平正芳：２９０字／分
いずれも３００字／分以内となっています。
世間で言われていたのは、田中角栄は演説がうまいが、大平正芳は
あまり演説がうまくないということです。どうやら、話すスピードが
この評価の裏にあったように思えます。
実際には話すスピードだけではなく、間の取り方も影響していたよう
です。大勢の聞き手を相手にする時は、間を長く取るほうが話の内容が
理解されやすくなるのです。
こうした事例からも解る通り、話のスピードと間の取り方を上手に
組み合わせることが、わかりやすい話し方に通じると言えます。
最後にもう一つお伝えしておきます。それは話の順序です。結びの
所に好感が持てる内容を持ってくるのが良いのです。最後の結びに
好感が持てないような表現がくると、どうしても反応が拒否的になって
しまうからです。表現の例を上げておきます。
うちの課長は、
１）仕事以外でも人の面倒をよくみるが、時には規則を曲げて無理な
仕事をさせることもある。
２）時には規則を曲げて無理な仕事をさせることもあるが、仕事以外
でも人の面倒をよくみる。
２）の表現の方が、うちの課長の良さがわかりやすく伝えられるのです。
お話をする上で、こうしたことがお役に立てば幸に存じます。
実現確率の高い戦略を：考房だより２０９
第９話「今を生きる強小企業に学ぶこと」の第２回です。
経営戦略を持ち、経営計画を立てて経営を行うべきことが一般的に
言われています。全くその通りだと思います。しかし、前回にも述べ
ました通り、その実現性を１００％確保することは不可能です。
経営戦略や経営計画の策定に当っては、多くの情報を集めて分析し、
注意深く経営環境変化の予測を行いますが、未来の行動を対象として
いる限り、確率に支配されることは避けられません。
経営戦略や経営計画の策定および実行の領域で、我々の努力が可能な
ことは、より実現確率の高い計画を打ち出すこと、打ち出した計画を
より高い確率で実現する行動を採ること、ということになります。
こうした計画や行動はどのようにして生まれるのでしょうか。
これも事例で考えてみることにします。
数年前に倒産し、法的手段により再建中のある電子部品メーカーは、
２年先の店頭公開を目指すという、驚異的な立ち直りを見せています。
その回復の主な要因となったものを考えてみます。
再建に乗り込んできた新しい経営者は、会社の状況をつぶさに調べ上げ、
再建のための戦略を練りました。その際に、経営者の目に強く焼きつけ
られていたのは、次の３点でした。
・顧客筋には良いところが付いている
・発注元の厳しい要求を具体化できる高度な技術が蓄積されている
・経営管理の体制に欠陥があり、うまく機能していない
こうした状況認識に基づいて、経営者が採った再建戦略は生産管理、
品質管理を軸にした経営管理の徹底、ならびに生産性の向上でした。
経営者は、経営管理を機能させることにより蓄積された技術を活かす
ことができれば、高い顧客満足を獲得でき、業績の飛躍的向上が実現
できると考えたのです。
生産性の向上を狙って老朽設備を更新しました。生産管理、品質管理の
体制を作り、教育を末端の従業員にまで実施し、ねばり強く繰り返し
その必要性を説いてまわり、組織としての体質化を実現しました。
生産性は高まり、在庫は削減され、コストの把握と管理が実践され、
不良率も下がりました。こうして利益を生む体質ができ上がったのです。
経営者の考えた通り、高度な保有技術が活かされ、開花したのです。
この経営者の打ち出した戦略は、実現の可能性が極めて高いことが
誰にでも理解でき、納得しやすいものであったと言えます。このように、
高い可能性を持って戦略を打ち出すには、広汎にしてかつ深い知識、
見識が必要になります。
この経営者は、勉強と経験を通して高度な管理技術・手法に精通して
いました。また、現場を見る目、顧客の求めるものを判断する力も身に
付けていました。このようなことが基盤にあって、高い可能性を持って
戦略を打ち出すことができたのです。
強小企業を率いる経営者たちは、「戦略的偶然性を呼び込む努力」を
しているだけではなく、マーケティング知識、技術とノウハウ、経営
手法、管理手法、といったものにも強い関心を持ち、「高い可能性を
持って戦略を打ち出すための努力」をしているのです。
仕事の生産性を上げるものの考え方
現代人は力を抜くことなく、ひたすら頑張り続けているように見え
ます。確かに、頑張りが成果につながることは多いのですが、頑張り
続けることには限界があります。ある境目を超えますと、頑張っても
それに値する成果を手に入れることができなくなるのです。
そんな場面に遭遇した際には、考え方を変える必要があります。限界を
超えて頑張るのではなく、もっと自分の力を活かせるやり方を探し、
考え、これを実行するようにするのです。
これが、仕事の生産性を上げるものの考え方のスタートラインです。
以下に、仕事の生産性を上げるための幾つかの考え方を紹介します。
心身の重荷が無く、頭がスッキリとした状態を作ることが自分の力を
活かすことに大いに貢献します。そういった状態を作るための鍵になる
言葉として次の二つを上げておきます。
・嫌なことの我慢から、楽しくできるやり方への転換
・不満の気持ちから、感謝の気持ちへの転換
「仕事は仕事、遊びは遊び」とはよく耳にする言葉です。多くの人が
重要なことは苦痛や重荷だと考えていることがよく現れています。だが、
こうした考え方は、重要なことをやり遂げる上で邪魔になるのです。
需要なことは苦痛や重荷ではない、楽しくやれる方法がある、と信じて
そのやり方を考えるのです。例えば、多くの関係者へ重要な電話連絡を
しなければならない状況を考えてみます。
殺風景なオフィスや仕事部屋で重い気分で電話するのではなく、自分の
好きな音楽が流れている部屋から電話するのも一手です。受話器を通し
てその音楽が相手の耳にも入り、それが話題になったりもして、少し
でも楽しい気分で連絡を取ることができたりします。少々工夫をすれば、
他にも色々なやり方が思い浮かぶでしょう。
不平不満を口にするうちに、どんどん不満が増えてくる、といった
ことはよくあることです。そして更に、不満に身をまかせると頭の中に
無価値なゴミが溜まり、自由に使える頭のスペースが減っていきます。
そうなりますと、自分の力を活かせるやり方に思考を巡らせることが
難しくなります。
不満を感じた時に、自分の気持ちを感謝に向ける習慣を持っていますと、
自分の力を適切に評価し、存分に活用するやり方を見出すことができる
ようになります。ポジティブな気分が高まると視野が広がり、新たな
可能性に目を向けやすくなるからです。
スタンフォード大学の行動デザインラボの創設者、Ｂ・Ｊ・フォッグ
によりますと、新しい習慣を作るコツは、既存の行動に新しい習慣を
組み合わせることだとのことです。
即ち、「ＸをしたらＹをする」という簡単な法則で、習慣付けは驚く
ほど容易になるようです。これを不満と感謝との組み合わせに応用して
みますと、一つ不満を感じたら、一つ感謝することを見つけるという
習慣を作るのがよいのです。
例えば、「どうして空港のセキュリティはこんなに混雑しているんだ」
と不満を抱いた際に、「安全に飛行機に乗れるのはありがたい」と付け
加えればよいのです。
こうした習慣がポジティブな気分を維持したり高めたりして、自分の
力を活かせるやり方に思考を巡らせる心の状態を作り出すのです。
心構えを理解できたところで、現実の日常行動として重要なことを
一つ上げておきます。
・「今」という小さな時間の重要性を認識する。無意味な時間の使い方
をしない。
最新の脳科学と心理学によりますと、「今」として体験される時間は
約2.5秒 だそうです。大きな成果もこの小さな「今」の積み重ねだと
言えます。
2.5秒 の時間があれば、私たちは注意を切り替えることができます。
例えば、スマホを置く、ブラウザを閉じる、深呼吸をする、といった
ようなことです。
同じ2.5秒 で無駄な行動をしてしまうこともあります。ツイッター、
フェイスブック、インスタグラムなどの「いいね」のようなことです。
こうしたちょっとした動作は、特に時間を食うようには感じられません。
しかし、そのような時間を積み重ねていますと、何もやり遂げることが
できなくなってしまいます。無意味な2.5秒 が積み重なるからです。
この「今」の時間の使い方が本来の仕事の生産性を左右し、ゴールに
たどり着けるか否かを左右することになります。
最後に教訓めいた一言を上げておきます。
・「今日は一日無駄に過ごしてしまったなあ」と思うことのないように
しよう。もし貴方が一日を無駄に過ごしたなら、その一日は今日亡く
なった人が「もう一日だけでも生きたかった」と切望していた一日と
同じなのだ。
一礼の意味
礼には色々な意味があります。儒教で説くところの仁義礼智信の礼、
礼儀作法の礼、謝意を表する礼、相手と挨拶を交わす際の礼などです。
今回取り上げる一礼とは、一般に謝意や挨拶として受け止められます。
一礼とは、何かの折に頭を垂れて礼をすることです。色々なケースが
あります。
・知人と会った時
・訪問した相手に、あるいは訪問してきた相手に
・目上の人の部屋に入る時
・会議や授業の開始や終了の時
・自分の活動の場に入る時、終わって出る時 などです。
ここで取り上げたいのは最後に挙げたケースです。次のようなことです。
・仕事場に入場や退場する時、一礼する。
・道場や競技場に入場や退場する時、一礼する。
・グラウンドに入る時や出る時、一礼する。
このような一例の意味や行動への影響を考えてみようという訳です。
アスリートたちが道場やグラウンドへの入退場時に一礼するのは、
よく見る光景です。但し、一礼をしないアスリートたちもいます。
仕事場の入退場では、一礼する習慣はあまり広がっていないようです。
多くのビジネスマンたちは、すーっと入ってすーっと出ていきます。
アスリートたちの一礼を考えてみます。その意味は、自分を鍛えて
くれる場への感謝、これから行う試合や練習を容れて頂く気持ちの表現、
試合や練習を全うできたことへの御礼、これから先もよろしくお願い
しますという気持ちの表現、といったところでしょう。
こうした一礼が徹底されているチームの特徴は、伝統がある、基礎を
しっかり修得している、自分たちばかりでなく相手や後輩に対しても
思いやりを持っている、競技ができることへの感謝の心を持っている、
といったところです。
こうした一礼をしないけれど強いチームはあります。それには色々な
パターンがありそうです。王道ではなく覇道を追いかけてきたチームは
その一つでしょう。勝つということにばかり心を注いで、他の事には
目をやることもなく突き進んできたチームです。
こうしたチームの隆盛は一時的なものであることが多く、時を経て消滅
の憂き目に会うことも少なくないようです。何かが欠けていたのです。
ちょっと考えてみてください。お分かりいただけると思います。
ところで、仕事場に一礼するビジネスマンが少数派なのは何故なので
しょうか。仕事場を自分を鍛えてくれる場と受け止められないからで
しょうか。仕事場は難行苦行の場と捉えているからでしょうか。
取り組む仕事を容れて頂く場に対する感謝の気持ちは無いのでしょうか。
一日の仕事を全うできた場への御礼の気持ちは無いのでしょうか。
こんな疑問が湧いてきますが、そんなことはないだろうと思います。
でも、アスリートたちと同じように、自分が仕事をすることに誇りを
持って、仕事の場に対する感謝と御礼の心を形で表現することは大切な
ことだろうと思います。形で表現することが心に好影響をもたらし、
仕事への情熱と感謝が更に強まることになるだろうと思えるからです。
仕事場への入退場に際して一礼することを、今日から始めてみては
如何でしょうか。
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